覇王は黒の真珠姫に溺れる
【本体639円+税】

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●著:白石まと
●イラスト:ことね壱花
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-87919-387-2
●発売日:2018/1/25

おまえが欲しい。
伴侶になってくれ


不吉な予知夢を見るため「黒真珠」と忌避されるアメリアは、夢に現れた「覇王」ルーファスの頼みに応え、彼の絵姿にキスを繰り返していた。百度目に生身のルーファスが蘇り、アメリアと身も心も結ばれないと再び絵に戻されると告げる。とまどいつつも彼に応えるアメリア。「なにもしなくていいんだ。俺の腕の中にいてくれるだけで」美しいルーファスの熱烈な愛に、幸せを感じるアメリアだが、隣国の王太子との縁談が舞い込み!?




「ファス、今夜は百回目なのよ……」
夢で彼と話したのは絵を見つけた夜の一度だけだった。
唇で百回触れると《絵の牢獄から出られる》と言っていたが、果たして本当のことなのかどうか、アメリアには分からない。幼いころの夢想に過ぎないかもしれないのだ。
彼女自身は、なにも起こらなくてもいいと思っている。
一人になるためにこの塔へやってきて、泣いたり笑ったり絵に話しかけながら、寂しさや、つらさを鎮めてきた。聞き役はなにも言わないルーファスの絵だ。
この絵はたぶん等身大だろう。アメリアよりも背が高く、彼女が彼の唇にキスをしようとすれば台座が必要だったので、そのあたりに転がっていたオットマンを絵の前に持ってきていた。 いまも置いてあるそれの上に、靴を脱いで立つ。
見つけたときは横になっていた絵だから、唇を寄せるのもなんとかなっていた。
どうしてもきちんとした姿を見たくて、アメリアの背が伸びたころに絵を起こして縦にした。するとルーファスは、彼女よりも相当背が高かったというわけだ。
オットマンの上でも踵を上げなくてはならない。
厳しく引き締まった彼の顔を間近で眺める。ルーファスは、消えてしまったときは二十三歳だったはずだが、何度眺めてもそれより年上に見える。
絵だから平面だが、アメリアは、彼の肩のところに手をついてバランスを取りながら、そっと呟く。
「わたしね、ファス。もう来られなくなりそうだから今夜は急いで来たの。南の離宮へ行けとお父様に言われたのよ。《おまえには不吉な噂があるから良縁は難しい。好きな者がいれば誰であっても伴侶として認めるから王城から出なさい》ですって」
昼間、父王に告げられた。まさに厄介払いだ。
国同士の政略結婚も上手く組めない王女など、世継ぎの兄王子の邪魔にしかならない。
王城から遠い離宮で、しかも誰も訪れることのない田舎暮らしとなれば、《好きな人》という伴侶も見つからないだろう。
つまりは、王家の血を引く王女を軟禁したいと言われたも同然だった。
母王妃ならアメリアを擁護してくれるだろうが、八歳のときに亡くしている。
「だから、今夜でお別れなの。用意もあるから出発は一か月後くらいでしょうけど、部屋を抜け出してここまで来るのはもう無理だと思うのよ。絵を持ち出すのも難しいでしょうし。だから寂しくなるでしょうけど我慢してね。でもこれで約束は守れるわ」
じっと彼を見つめる。不思議なことに、ルーファスの褐色の髪が揺れ、銀色の瞳が瞬いた気がして、アメリアは思わず涙ぐんだ。
悩みもつらさも、絵の中の彼に向かって口にしてきた。返事がなくても、強かったという覇王の前でならどういう己を晒しても構わないと思えた。この塔まで来て何度も泣いた。それもできなくなる。
ただ、離宮へ行けば無理に笑う必要もなくなるだろう。それだけはよかったと思う。
「さぁ、百回目よ」
目を閉じたアメリアは、わずかに顔を傾けるとすぅっと唇を寄せてゆく。
ほんのり頬が熱くなるのは、彼の顔が見るたびに精悍さを増している気がしていたからだ。
小さいころはキス自体が気恥ずかしかった。いまは、歴史に名を残すほどの男性に自ら唇を寄せているのが羞恥を誘う。相手は見目麗しい成人男子で、しかも絵だ。
冷静に考えれば、大層恥ずかしいことをしている。
――一度だけの夢だったけど、約束は約束だもの……っ。
唇を寄せて、彼の口元に触れた。いつもと同じですぐに離れる――はずが、ぎゅうと抱きしめられて驚倒する。
両目をパチッと開けると、平面の絵だったはずが浮き上がって形を成し始めているではないか。ルーファスの顔が間近に見えていた。
褐色の髪が動きに合わせて揺れている。彼は目を閉じていた。絵では開いていたのに。
アメリアを抱きしめているのはルーファスの腕だ。もがいても離れられない。さらにぐっと抱きしめられて、彼の腕の中に埋もれてゆく。埋もれるほど実体化していた。
驚いた拍子にアメリアの口が少し開く。そこへぬるりとした軟体動物のようなものが入ってきた。彼の舌だ。
「う……う……んぅ――……」
なにがなんだか分からないが、自分が九十九回やってきた触れるだけのキスとは比べ物にならない触れ合いが、いまここでなされている。これぞ本物の口づけ。
初めての経験と信じられない状況の中で、頭の中が茹ったようになる。アメリアは、どうしようもなくて目を閉じた。
オットマンに乗って爪先立っていたからバランスを失くしてぐらりと傾く。
そのまま床に倒れ込んだ。
派手な音を立てて倒れたが、ルーファスが下になっていてアメリアに痛みはなかった。
唇は離れても身体に回された腕は離れない。だから上半身を少し起こし気味にして、下にいる彼を驚きの眼で見た。ルーファスは再び強く抱きしめようとしてくる。
「ちょ、ちょっと待って。あなたは、ルーファス、様、なのですか?」
「ファスでいい。言いにくそうだったから、そう呼べと言っただろう? 実際、ファスと呼んで、あれこれ俺に話しかけていただろうが」
ぎょっとした。あれも、これも、聞かれていた? 絵の中にいた彼に?
ルーファスの唇が割れて彼は楽しそうに笑った。濃い目の褐色の髪が揺れて、絵では分からなかったすっきりと軽い髪の感触が伝わってくる。
整った顔立ちだったのは絵で見て分かっていたとはいえ、笑うことで厳しさよりも豪胆さに溢れた明るい表情が現れた。
すると、二十三歳という年齢より少し若く見える。やんちゃな子供のような笑顔だ。
不思議なほど和んだアメリアは、ルーファスの腕から逃れ、ゆるりと身を起こす。
けれどキスの加減か、驚きからなのか腰が立たなくて、床に座り込む状態になった。
ルーファスは、床で打ったらしい頭の後ろへ手をやりながら、上半身を起こした。絵の状態でも溢れんばかりだった迫力が、いまや強烈な存在感を伴って迫ってくる。
褐色の髪は首の後ろの部分が長くなっていて一つに括られていた。身体の動きと共に、髪の長い部分は、尻尾のように背中へ垂れて揺れる。彼女を見つめるまなざしは、生命力に溢れていた。もう、ただの絵ではない。
――群雄割拠の戦乱の時代に、小国のゼネブ王国を瞬く間に強くして周辺国を統一した覇王。ゼネブ帝国を興した人。
呆然と見つめているアメリアを隅々までじっくり眺め返しながら、ルーファスは不敵な様子で宣言する。
「とうとう出たぞ! 絵の牢獄から! おまえのおかげだな、アメリア。いまはいつだ。俺はどれくらい絵の中にいた? ほとんど眠っていたから、どれほど時間が過ぎているのか分からないんだ」
「え? そ、それは」
突如消えてしまった覇王は、二百年前の人間だ。
「二百年……かしら?」
「なっ、なんだとーっ!! に、ひゃくねんっ!?」
ばばっと立ち上がったルーファスは驚愕の雄叫びを上げる。
夜のしじまに彼の声が長く尾を引いて流れていった。



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