冷酷王の最愛の姫君
不器用な献身
【本体639円+税】

amazonで購入

●著:小出みき
●イラスト:Ciel
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-2002-1
●発売日:2018/05/24

おまえは俺のお姫様だよ。最初から

公女フランキスカは突然の反乱に動揺した父に連れ去られようとしたところ、従者であるレギオンに引き留められる。彼こそが反乱の首謀者、新興国ヴァジレウスの王太子だったのだ。「おまえは俺のお姫様だからお姫様らしくしてればいい」困惑するフランキスカを初夜こそ少し強引に抱いたものの、レギオンは以前と変わらず優しく接し、彼女を妻にすると言ってくる。幼い頃から父母に愛された記憶のない彼女は、元々彼の方が大事で!?



「……出て行くわ」
「なんだと?」
「公女でないならお城に住む資格はないもの。わたしを利用しようと企んだお父様も、もういない。お母様に本当のことを言って出て行きます。お母様はきっと──」
喜ぶだろう……とは、さすがに口にできなかった。
「待て」
肩を摑まれ、強引に向き合わされる。レギオンは苛立ちと怒りの入り交じった目つきでフランキスカを睨んだ。
「勘違いするな。俺はおまえを追い出すために真実を告げたわけじゃない。おまえは公女として今までどおりに暮らしていればいいんだ。大体、出て行ったところで行くあてもないだろうが」
「そ、それは……」
ぐっと詰まる。
フランキスカには兄弟姉妹もいなければ、これといって親類縁者もいない。クロワゼル大公家は先代の頃に不幸が重なり、直系子孫で残っているのは大公妃ガドリエルだけなのだ。
そもそもフランキスカが偽物の公女であるならば、みな赤の他人である。親しくしている貴族の令嬢は何人かいるが、公女でないと知っても果たして助けてくれるだろうか。
だからといって偽者とわかった以上、安穏な暮らしを続けるわけにはいかない。それほど厚顔ではないつもりだ。
「だったら働くわ。下働きでもなんでも──」
「お姫様育ちのおまえが下働きに耐えられるとは思えんが」
馬鹿にしたような口ぶりにかちんときてフランキスカはレギオンを睨んだ。
「できるわよ。やってやれないことはないわ! ──とにかく着替えます」
焦って呼び鈴の紐を引こうとすると、レギオンが皮肉った。
「ひとりで着替えもできないようなお姫様に何ができるのか、甚だ疑問だな」
かーっと赤くなるフランキスカにレギオンはさらに追い打ちをかける。
「それに、何を着るつもりだ? ひらひらしたドレスしか持ってないだろう」
「召使の誰かから貰うわ!」
「貰う?」
「か、買うわ……」
フン、とレギオンは鼻を鳴らした。
「それは『公女』のカネだな。カネも宝石も、すべて『公女』としてのおまえに与えられたものだ。いま身につけている夜着も含めて」
「裸で出て行けと言うの……!?」
悔し涙を浮かべて睨みつけると、レギオンは溜息をついた。
「だから、出て行けなんて言ってないだろうが。ここにいればいい。おまえの素性は俺とおまえだけの秘密だ」
ひそめられた声は唆すかのようで……。ぞくりと身体の芯が震えた。
「だ……だめよ、そんなのいけないわ……」
「俺は誰にも喋らない。おまえさえ黙っていれば誰にもわからないさ」
甘い誘いに心が揺れなかったと言えば嘘になる。
レギオンの大きな掌がそっと頬を包んだ。
幼い頃からフランキスカを魅了してやまない蒼と翠の美しい異眸。お母様ご自慢の大粒のサファイアとエメラルドにそっくり。いいえ、それよりもっと、ずっと綺麗──。
「フラン。おまえを女大公にしてやろう」
長身を屈めたレギオンが耳元で囁いた。熱くて冷たい誘惑の言葉を紡いだ唇が、そっとフランキスカの唇に重なる。
わずかに圧が増し、ぼうっとしていたフランキスカは慌てて彼を押し戻した。
「な、何するのっ……」
「俺と結婚すればいい」
あっさりと告げられた言葉に瞳を見開いた。
「この国はおまえにやる。むろん、ヴァジレウス王国領の一部としてだが……、自治権を認めよう」
「そんなことしたらみんなを騙すことになるわ!」
「何をいまさら。すでにずっと騙されてきたじゃないか。おまえ自身を含めて」
「それは……そうだけど……。でも、わかった以上そんな嘘をつくなんて、わたしはイヤ!」
「フランはいい子だな」
苦笑され、レギオンを睨みつける。
「いつまでも子ども扱いしないで!」
「そうだな。いつのまにかすっかり育った」
感慨深そうにレギオンは呟いた。彼の視線が夜着の胸元に落とされていることに気付き、フランキスカは真っ赤になった。襟ぐりが深く、谷間がはっきり見えている。
「ぶ、無礼者!」
反射的に手を振り上げたが、造作無く手首を摑まれてしまう。
「無礼者はどっちだ? 俺はれっきとした王族だぞ。たとえ『蛮族』でもな」
酷薄な笑みに唇を噛む。もはや立場は完全に逆転していた。
彼はヴァジレウスの王子。自分は死んだ公女の身代わりとして攫われてきた、素性の怪しい娘にすぎない。
レギオンは機嫌を取るようにフランキスカの頬を撫でた。
「悪い話じゃないはずだ。おまえは俺が好きだろう?」
笑みを含んだ囁きに、耳まで赤くなる。
「な……、何言ってる、の……っ」
「うたた寝してる俺にキスしたじゃないか。それも一度や二度じゃない」
「……ッ、寝たふり……!?」
羞恥と憤りで真っ赤になり、フランキスカは拳を握ってレギオンに打ちかかった。
幼い頃、癇癪を起こしたときのように。そのときは気が済むまで叩かせてくれたのに、今は難なく押さえ込まれてしまう。
「ばかっ……! レギオンなんて嫌いよ!」
じたばた暴れるフランキスカに辟易したように彼は嘆息した。
「わからんな。お姫様扱いしてやるというのに、何が不満なんだ」
「お情けはけっこうよ! レギオンにキスしたのは……、キ、キスに興味が、あったからよ。れ、練習よ! いつか結婚相手とすることになるから、ちょっと、試してみようと思った、だけで……っ。う、うぬぼれないでよね! 一度や二度キスされたからって──、きゃっ」
いきなり寝台に投げ出されて悲鳴を上げる。
レギオンは見たこともないほど冷たい瞳でフランキスカを凝視した。
「わかっていないようだな。飼い犬ごっこは昨日で終わったんだよ、偽者のお姫様」
冷ややかにせせら笑われて顔がこわばる。
レギオンが寝台に膝をついて身を乗り出すと、ギシリと不穏に寝台が軋んだ。
「今日から俺がおまえを飼ってやる。……少々甘やかしすぎたようだ。まずはしつけ直しが必要だな」
嘲りの口調にカッとなる。
突き飛ばして逃げようとしたが、肩を摑まれ寝台の上に押さえ込まれた。
「離して!」
「おまえの命令は、もう聞かない」
「……ッ、お……お願い……だから……っ」
「お願いも、聞いてやらない」
奇妙に優しい口調と、冷酷な内容がまるで噛み合わない。
彼は蒼白になったフランキスカの頬をそっと撫でた。

☆この続きは製品版でお楽しみください☆

amazonで購入

comicoコミカライズ
ガブリエラ文庫アルファ
ガブリエラブックス4周年
ガブリエラ文庫プラス4周年
【ガブリエラ文庫】読者アンケート
書店様へ
シャルルコミックスLink
スカイハイ文庫Link
ラブキッシュLink