ダーリンは愛を知らない堅物社長
【本体685円+税】

amazonで購入

●著:水島 忍
●イラスト:七里 慧
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-2023-6
●発売日:2019/2/25

君の困っている顔が可愛くてたまらない

母子家庭で育った吉崎愛華は母の死後、実父の許を訪ねるも応対した杵築孝介に愛人と間違われ追い払われそうになる。彼は父の再婚相手の連れ子だった。誤解が解け、父の家で同居を始めた彼女は思いがけず歓迎される。孝介とも和解し、愛華は彼とデートすることに。「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」凛々しい彼に甘く愛され急速に恋に落ちる愛華。求婚され幸せな日々だが、彼の行動は愛華を手放したくない父の指示だと知り!?




「うちの愛華を誘惑しないでもらおう」
孝介の言ったことに、愛華はギョッとする。
『うちの愛華』ですって?
けれども、よく考えると、愛華は彼の義妹ということになっている。一緒の家に暮らしているのだから、家族と言えば家族だ。『うちの愛華』でもおかしくはない。
そう思いつつも、彼に『うちの愛華』呼ばわりされると、少し照れてしまう。
義人は肩をすくめて、孝介の横をすり抜けるようにして出ていった。代わりに、今度は孝介が入ってきて、ドアを閉める。
彼は愛華にも厳しい目を向けてきた。
「どうしてあんな男と二人きりになったんだ?」
久しぶりに威圧的な言い方をされて、ムッとする。まるで初対面のときの彼のようだ。
「好きで二人きりになったんじゃないわ! わたしがここに一人でいたら、あの人がたまたま来たのよ」
「馬鹿だな。たまたまのはずがないだろ? あいつは機会を窺っていたんだよ」
「機会って……なんの?」
決まっている。孝介の悪口を吹き込むためだ。しかし、愛華に孝介の悪口を吹き込んで、何か得になることでもあるのだろうか。
孝介は深々と溜息をついた。
「君は何も判ってないんだな」
「どういうこと?」
「君は杵築友康の実の娘だ。自分の味方に引き入れたい。あわよくば、誘惑でもして、君の婿になれたらいいと思っている……というところだ」
「まさか!」
愛華は思わず笑ってしまった。
義人のほうは孝介が女たらしだから気をつけろと言った。孝介のほうは義人が愛華を狙っていると言う。
この二人の仲が悪いだけで、わたしはなんの関係もないんじゃないの?
「笑い事じゃない。君は気づいてないかもしれないが、今日のパーティーで何人もの男に声をかけられているはずだ」
そういえば、確かによく声をかけられた。
「でも、ただの挨拶でしょう?」
「連絡先を渡されなかったか?」
「え……まあ……。だけど、あれはただの名刺だし」
愛華は思い出しながら顔をしかめた。
名刺にスマホの番号まで添えてあって、いつか食事に行こうとか、東京を案内するとか言う人もいた。愛華は単なる社交辞令だと思っていたが、まさか本気だったのだろうか。
「君は世間知らずだな」
「せ、世間くらい知ってるわよ!」
孝介こそ、子供の頃からこんな大きな家で暮らしていて、世間を知らないのではないだろうか。シングルマザーの母を気遣って、大学に行くのを諦めたり、手に職をつけるために美容師を目指したのに、世間知らずと言われてムッとする。
「確かに君は苦労してきたよ。だが……大人の汚い部分をまだよく知らないはずだ。男女のことも……」
愛華は今まで男性と付き合ったことがない。というより、デートひとつしたことがなかった。祖父母が早くに亡くなったこともあり、後は母を助けることばかり考えていて、他のことまでは手が回らなかった。
もちろん、今もバージンで……。
愛華は彼にそのことを揶揄されたような気がして、カッとなった。
「悪かったわね!」
ソファから立ち上がり、ドアのほうに突進していく。このまま孝介の説教を聞いている気分ではなかったからだ。
とにかくリビングに戻って、それから客に愛想よくする。それが今日の愛華の仕事みたいなものだ。
「待つんだ」
孝介に手を掴まれ、愛華は彼を睨みつけた。
「あなたまで、こんな真似を……」
そのとき、孝介の表情が変わった。ひどく恐ろしげな目つきになっている。
「義人にもこんなことをされたのか?」
「そうだけど……」
「まさか、あいつに……」
彼は愛華の腕をぐっと引き寄せて、顔を近づける。
あまりにも近くて、一瞬ドキッとした。目が合うと、視線が外せなくなってしまう。何故だか、身体の内側が熱くなってきたような気がする。
わたし……どうしちゃったの?
いつしか彼の手が愛華の背中に回っていて、その手の感触を強く意識した。
「こ……孝介さん……」
「黙って」
彼の息が唇にかかる。
思わず目を閉じたとき、愛華の唇に彼の唇が重なった。
強いショックが身体を走り抜けていく。
だって……。
これはキスなんでしょ?
いけないことをしている。わたし達は兄妹なのに。
義理の兄妹で、血縁でもなんでもないことは判っている。しかし、どちらも義理の兄妹としてこの家で暮らしているのだ。
ダメ……。
そう思いつつ、愛華は彼を押しのけられなかった。強い力で押さえつけられているわけではない。彼の手は愛華の背中に当てられているだけだ。けれども、そこから抜け出せなかった。
あまりにもキスが甘くて、心地よくて……。
頭の中がふわふわしている。愛華はもう何も考えられなかった。
そのとき、リビングのほうで客達がどっと笑う声が聞こえてきた。孝介ははっとしたように身を引いた。
愛華は身体が火照っていて、どうしていいか判らず、ただ呆然としていた。孝介のほうは愛華から離れて、顔を背けるようにして言った。
「……すまない」
「孝介さん……。わ、わたし達……」
「君には悪いことをした。忘れてくれ」
忘れてくれと言われても、忘れられるものではない。愛華にとっては初めてのキスだった。
しかし、彼の言うことのほうが正しい。これは忘れるべきことなのだ。
でも……。
彼に拒絶されたような気がして、何故だか心が痛んだ。

☆この続きは製品版でお楽しみください☆


amazonで購入

comicoコミカライズ
ガブリエラ文庫アルファ
ガブリエラブックス4周年
ガブリエラ文庫プラス4周年
【ガブリエラ文庫】読者アンケート
書店様へ
シャルルコミックスLink
スカイハイ文庫Link
ラブキッシュLink