冷徹軍人王は
新妻を激愛する
【本体685円+税】

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●著:御厨 翠
●イラスト:ウエハラ蜂
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-2031-1
●発売日:2019/05/24

必ず迎えに来る。だから俺を信じて待っていてくれ

ティヴリー王国の王女リリアーヌは戦禍を逃れるため森の家に滞在していた。そこで、負傷し倒れていた敵国グアドループの軍人を助ける。ジルと名乗る彼はリリアーヌに感謝し好意を寄せ、彼女も美しく凛々しいジルに心惹かれていく。「すべて俺のせいにして、今夜はただ触れさせてくれ」ジルが出立する前夜、優しく触れられて知る熱い想い。だがグアドループの国王から停戦条件としてリリアーヌを妃に迎えたいと申し入れがきて!?




(私は、ティヴリーの王女なのだから……これ以上、ジルとの距離を縮めてはいけないわ。そんなこと、わかっているはずなのに)
頬を撫でられ、指先に口づけられただけで心を奪われてしまう。彼の黒瞳に自分が映ると嬉しく、笑いかけられると気持ちが弾む。
それがなぜなのか、リリアーヌはおぼろげに気づいていた。けれども、認めるわけにはいかない。ジルは敵国の軍人で、それなりの階級に属する者だとその振る舞いが示している。
彼の言動は、傅かれることに慣れた者のそれだ。偉そうなのではない。他者の上に立つ者特有の圧、人を従わせるだけの意志を彼は有している。それは軍人というよりも、為政者のそれに近い。
(私、このところずっとジルのことを考えているわね)
苦笑して窓の外に目を向けた、そのときである。
「えっ……ジル!?」
月明かりに浮かび上がる長身の影を見たリリアーヌは、思わず立ち上がって窓の外を凝視した。ジルは、ゆったりとした歩調で中庭を歩いていた。時折身体の動きを確かめるように腰を屈めたかと思えば、足を止めて宙を仰いでいる。
(どうして出歩いているの? まさか、出て行くつもりなんじゃ……!)
リリアーヌは外套を置いてショールを羽織り、急いで中庭へと向かった。これほど焦っているのは、彼の体調を心配しているのもあるが、それだけではない。二度と会えなくなるのが嫌だというごく単純な感情からだ。
中庭に出ると、月の光を浴びて佇んでいるジルがいた。思わず大きく息をついたリリアーヌは、やや声を張って彼を呼ぶ。
「ジル……!」
「リリィ? どうしたんだ、そんなに慌てて。何かあったのか」
「あ……あなたが、こんな夜更けに出歩いていたから……心配になってしまったの。出て行ってしまうのではないかと思って、私……」
「そろそろ身体を慣らしておかなければいけないと思って外に出ただけだ。何日も寝台で眠っていたから、さすがに体力が落ちている。出て行こうにも、これでは道半ばで体力が尽きてしまうからな」
「そうだったのね……ごめんなさい。でも、無理はしないで」
早合点した自分を恥じたリリアーヌは、彼の顔が見られずに俯いた。しばらく寝たきりだった身体を動かさなければいけないというのも、考えれば当たり前のことだ。それに、昼間ジルは約束してくれた。『不義理はしない』と。
(それなのに、私……ジルと二度と会えなくなると思ったら、勝手に足が動いていた)
ジルのもとへと急いだのは、理性ではなく感情がそうさせた。自覚してしまうと、いたたまれなくなってくる。
「私、もう戻るわ。邪魔をしてごめんなさい」
身を翻そうとしたリリアーヌだが、それは叶わなかった。ジルの大きな手に手首を掴まれ、引き寄せられたからだ。
「ジル……?」
「昼間、あなたの指先に口づけて約束しただろう。信じられなかったのか?」
「ごめんなさい……そうではなくて、その」
彼の声に責める響きはないのに、リリアーヌはありえないくらい動揺していた。ジルの胸に抱かれているからだ。頬を撫でられ、指先に口づけられただけでも意識が囚われていたというのに、この状況では何も考えられなくなってしまう。
「信じてもらえないのなら、何度でも約束をするしかないな。今度は、指先ではない場所に誓いを立てるか?」
どことなく試すように告げられて顔を上げると、満月を背負った男が艶やかに笑んでいた。
「黙って出て行くような真似はしない。――あなたの唇に、今一度約束しよう」
「えっ……んんっ」
返答する間もなく唇を奪われたリリアーヌは、あまりの驚きで瞬きすらできなかった。
父や兄、そして亡き母から、親愛の証として額や頬へ口づけされたことはあった。だが、唇へキスをされたことなどこれまでにない。
唇へのキスは夫となる人と交わすものだと思っていたし、そうでなければならないはずだ。
(でも、私……嫌だと思っていない。それどころか、嬉しく感じるなんて……)
いつかは王家のための婚姻が結ばれる。降嫁することになるのか、他国の王族と縁が結ばれるのか、現時点で定まってはいない。いずれにせよ、リリアーヌはティヴリーの王女として嫁がねばならない。
己の立場は理解している。けれどもジルに唇を重ねられて感じるのは、甘美な喜びだった。熱くやわらかな彼の唇の感触は心地よく、このままずっとこうしていたいとすら思う。
「ふ……ぅっ」
鼻にかかった甘い吐息が漏れると、ジルは口づけの角度を変えてきた。
後頭部を大きな手で固定され、もう片方の手で腰を抱き込まれる。これ以上ないほど密着したことで、彼の鍛え抜かれた体躯をありありと感じることになった。
まるで果実酒を飲んだような酩酊感を味わっていると、不意に彼の舌が口内に挿し込まれ、困惑したリリアーヌがくぐもった声を出す。
「んっ……んぅっ」
(ど、どうして舌が……)
口づけは、唇を合わせるだけだという認識しかないリリアーヌは、混乱して顔を背けようとする。しかし後頭部を押さえられていることで、それもできない。
彼の舌先に歯列を舐められたかと思うと、自分のそれが搦め捕られる。唾液をたっぷりと纏った肉厚の舌が擦り合わせられると、背筋をぞくりとした感覚が駆け抜けた。
「ンッ、ん………ふ……っ」
口内で唾液が撹拌され、くちゅくちゅと音を立てる。とてつもなく恥ずかしい音だ。それなのに、その音がどんどん大きくなるにつれ、心地よさが増していく。本当は、こんなふうに触れ合ってはいけないと思うのに、ジルに抗えない。
彼はリリアーヌの口蓋を舐め、頬の内側をくすぐり、いいように舌を遊ばせていた。食物を味わうだけだと思っていた器官をこのように使うとは、想像すらしていなかったことだ。
ねっとりと舐られた舌はじんじんと痺れていき、頭の中が朦朧としてくる。
どれくらいそうしていたのか、ようやく唇が離されたころにはかなり呼吸が乱れていた。
「これで信じてくれるか?」
リリアーヌの腰を抱いたまま、ジルが不敵に笑う。その途端に無性に恥ずかしくなり、つい視線を泳がせた。

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