結婚に愛は必要ですか?
軍人婿は領主令嬢と二度初夜を迎える
【本体1200円+税】

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●著:東 万里央
●イラスト:すずくら はる
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4037-1
●発売日:2020/12/28

政略結婚の婿取りのはずが、夫の愛が重い!?

愛人のもとに入り浸る両親を持ったせいで貴族の恋愛にドライで超合理的な侯爵令嬢レイラは、領民のために早々に当主代理となるべく、厳選の末に軍人貴族・ヒューを婿を迎えた。
初夜、ヒューに結婚の理由を問われたレイラが正直に条件で決めたと告げると彼はひどく落胆する。だが、ヒューは夫婦の愛というものを教えようと、日々溺愛してきて!?




 ヒューは溜め息を吐き、「……よかった」と呟いた。
「花を贈ったことも忘れられていたのなら、俺は本当に惨めな男になっていた」
「忘れていてもあなたと結婚していたと思うけど」
 それはもちろん、ジョージに勧められたからだ。レイラの言葉に、がっくりとヒューの肩が落ちる。
「知っていたつもりだったけど、君って本当に俺に興味がないんだね。でも、せっかく夫婦になるんだから、少しでもいいから、俺の気持ちを聞いてくれないか?」
 ハシバミ色の瞳にふと影が落ちる。
「……嫌味に聞こえるかもしれないけど、俺は昔から特に努力しなくても勉強ができたし、武術も、馬術も苦労したことはなかった。両親は幼馴染みでずっと愛し合って結婚した夫婦で、俺たち兄弟姉妹を跡継ぎ問わず平等に愛してくれたし、家族との関係も良好でなんの不満もなかったんだ」
 グラフトン家を継げないのは知っていた。だから、とりあえずは軍隊で身を立てて、いずれは独立するつもりだった。自分の力で人生を切り開いていける自信があった、とヒューは語る。
「これだけ聞いていればわかるだろうけど、俺は世の中ってものを舐め切っていたんだと思う。恵まれた環境に育って、ちょっと努力すれば欲しいものはなんでも手に入ったから」
「陛下はあなたを謙虚だっておっしゃっていたけど……」
 ヒューは苦笑しつつ首を横に振った。
「君に出会ってからそうなったんだ。二年前までの俺は鼻持ちならない嫌な男だった。ところが、気まぐれに出席した王宮での舞踏会で、生まれて初めて女性に目を奪われたんだ。こんなに美しい人がいるのかと目を疑った」
 結い上げられた赤褐色の長い髪と赤いドレスが、陶器のような白い肌と対照的だった。天使のような可愛らしい美貌と、その中で煌めく髪と同じ色の瞳に、ヒューは一目で恋に落ちてしまった。
「それがレイラ、他でもない君だったんだ」
 遠縁のレイラについては、父の公爵から聞いて知っていた。次期女侯としての英才教育を受け、類まれなる教養と知性、美貌を兼ね備えた令嬢だと。
 だが、ヒューはそんな話を信じていなかった。侯爵家の跡取り娘なのだから、よりいい条件の婿を迎えようと、わざとそうした噂を立てているのだろうと思い込んでいたのだ。実際、どこの家も娘のためにそうしている。
「だけど、君は噂通りの女性だった。特に、賢さには驚くどころじゃなかった。ジョージと対等に政治を論じただけじゃない。外務大臣の目を見て会話をする姿は、まだ十六歳の女性には見えなかった」
 レイラの美しさにもだが、その頭のよさにも惹き付けられた。
「俺も君と話したかったんだけど、君は取り巻きに囲まれていて、俺が近付く隙なんてなかった」
 だが、やがて取り巻きにうんざりしたレイラが、バルコニーに抜け出したのを見て、またとない機会だと奮い立って追い掛けたのだ。
「やっと君の声が聞けるんだと思って嬉しかった。だけど、すぐに何を話せばいいのかわからなくなって……気の利いた挨拶なんてできなかったよ」
 何せ、国王、外務大臣、数ある有力貴族出身の貴公子を相手にしていたのだ。自分は見劣りするのではないかと、生まれて初めて自信をなくして狼狽えた。
 女性との会話に苦労したことなどなかったのに、話題がまったく思い浮かばない。レイラより四つも年上なのに、慌てふためく自分が情けなかった。
 ところが、レイラはそんな惨めな男を馬鹿にすることもなく、微笑んで話を振ってくれた。
 一方、レイラの聡明さを思い知るにつれ、妙にヒューの心はざわめいて苛立った。そして、気が付くと家族の話題を口にしていたのだ。
『そういえば、レイラ様のご両親は別居されていると伺いましたが』
 レイラの中に癒やしきれない心の傷跡や、悩みや、苦しみや、そんなものを見つけようとした。
 ところが、レイラは顔色一つ変えずに、両親の幸せを願う言葉を口にしたのだ。
「あの時ほど自分の愚かさと醜さを呪ったことはない」
 ヒューは大きく溜め息を吐いて膝の上に手を組んだ。
「俺は、完璧な君に欠点があってほしかった。一つでも君に勝てるものが欲しかったんだ。それが、自分の力ではどうにもならない家庭環境なのだから、卑怯な勝負を仕掛けてしまったと後悔した。しかも、君は俺を相手にせず、勝負に参加すらしていなかった。君の方がよほど大人だったよ」
 それまで自分をフェミニストだと自賛していた。女性には優しいつもりだったし、丁重に扱ってきたつもりでいた。
 だけど、結局彼女たちをどこか下に見ていたのだと悟った。その事実に気付いて心から自分を恥じた。
「まったく、穴があったら入りたくなったよ。そして、生まれて初めて君という強い女性を……君という人間をもっと知りたいと願った。なのに、君ときたらどの男に対しても平等に友好的で、平等に相手にしなかった」
 もう一度話したいと思いどれだけレイラに話し掛けても、微笑んではくれるのだが思いに答えてはくれない。なら、せめて名くらいは心の片隅に留めておいてほしいと、数え切れないほど似合いそうな花を贈った。
 レイラは「なるほどね」と感心する。
「あなたの作戦は成功よ。確かに名前は覚えたもの。でも、どうして贈り物を花にしたの?」
 ヒューは肩を竦めて苦笑した。
「簡単な話だよ。ドレスや宝石は突っ返されるからさ。特に切り花ならすぐに枯れてしまうから、送り返すこともできないだろう。だけど、作戦は成功したとは言えないな。ジョージから君との結婚話を持ち掛けられた時には、やっと気持ちが通じたのかと有頂天になっていたのに」
(……ヒューってもしかして、めんどくさい男なのかしら)
 レイラは眉を顰めた。「愛し愛されなきゃ嫌だ」なんて駄々をこねられてはたまらない。
「ヒュー、あなたの気持ちはわかったわ。好きになってくれてありがとう。でも、悪いけど、あなたが私を想ってくれるように、私があなたを想える保証はないわ。もちろん、努力するつもりではあるけれど……」
 レイラは言葉を切り、こう告げる。
「もし、愛し愛される関係を望むのであれば、愛人を作ってくれても構わないわ。ただし、あなた側に庶子が生まれた場合、養育費を出すのは構わないけど、当然フレイザー家の跡取りの権利は一切ありません」
「れ、レイラ……」
 ヒューは再びがっくりと肩を落とした。
「そんな、浮気だとか隠し子だなんて有り得ないよ。俺はそういう真似は大嫌いなんだ。それに、もう引き返せないほど君が好きなんだ。凛として、強くて、綺麗な君から目が離せない。どうしたらわかってもらえるんだろうな」
 ヒューの切々とした訴えに、レイラは口をぽかんと開けた。
「ねえ、ヒュー、あなたは少々客観的視点が欠けているようです。私はあなたの言うような美女などではありませんよ?」
 天使のような美貌とヒューは評していたが、せいぜい並以上という程度でしかないと自覚している。令嬢を十人集めて美人コンテストを開くなら、その四人目にあたるだろうという微妙な容姿だ。化粧映えする顔立ちなのでまだ救われているが──
 社交の場ではとことん着飾ってはいたものの、この寝室では白粉をはたいた程度で素顔に近い。美人度などもうわかっているだろうにと不思議だった。
 ヒューは頭を抱えて溜め息を吐いた。
「ああ、もう、どうして君はそうなんだろう。そこもいいんだけど……。人を好きになるってそういうことなんだよ。俺にとっては君が世界一の美女なんだ!」
「……」
 やはり今ひとつ理解できない。
 だが、なんとなくの感覚は掴めた。
「つまり、恋愛ってブランデーを飲んでいるわけでもないのに、一人で酔っているような状態になるのですね? 正確な判断を下せなくなるなんて大変ですね……」
 ヒューは首を振ってレイラの手を取った。
「レイラ、その通りだよ。その通りだけど、それだけじゃない」
 ハシバミ色の目に真摯そのものの光が煌めく。
「俺も君に会うまでは知らなかった。誰かに好きになるってただ酔えるわけじゃない。その人の姿を見るたびに嬉しくて、楽しくて、なのに苦しくて、辛くて、どうしようもなく心を揺さぶられる。でも、どれだけ不安になっても、出会う前の俺に戻りたいとは思えない」
「……」
 激しい思いを吐露され、レイラは戸惑うしかなかった。
「レイラもいつか俺を好きになってくれたら、こんなに幸せなことはない。これからもっとお互いのことを知って、少しずつでいいから打ち解けて、愛し合ってるって言える関係になりたい。そうすれば、きっといい夫婦になれると思うんだ」
 と言われてもレイラには「恋」や「愛」が、そのメリットがやはりよくわからない。
「愛し合うと何かいいことがあるのでしょうか?」
「れ、レイラ……」
 ヒューは三度がっくりと肩を落としたものの、やがて苦笑に似た微笑みを浮かべた。
「まず、俺が幸せになれる。もっと君を好きになる。誰よりも強くなって、君と君が大切に思うもの、すべてを守って見せるよ」
 なるほど、それは確かに大きなメリットである。このフレイザー家と領地や領民にとっては、ヒューの存在は百人力になるだろう。
「悪くありませんね」
「だろう? それと、もう一つ」
 ヒューは私の顎を摘んで唇を重ねる。挙式以来二度目の口付けだった。ハシバミ色の瞳には今度は熱っぽい、甘い光が瞬いている。
「……夜がもっとよくなる。愛し合った女を抱いて、愛し合った男に抱かれることほど、生きていてよかったと思えることはない。少なくとも俺はそう確信しているよ」
 レイラはヒューの体と吐息が灼熱のように熱いことに驚き、思わず彼の胸に手を当て距離を取った。なぜだか少し恐ろしさを感じたのだ。先ほどまではなんの躊躇いもなかったのに。
「……だったら、初夜はあなたの期待通りにはならないと思います。私はあなたのことを昨日まで他人だった、結婚したばかりの夫としか思えないんですもの」
「まったく、君はこんな時にでも容赦がないな」
 ヒューは肩を竦めながらも、レイラの頬をそっと両手で挟んだ。
「そうだね。君は俺とつい最近出会ったようなものだから、仕方がない。ねえ、レイラ、目を閉じて想像してみて。俺たちは、舞踏会の夜にお互い一目で心惹かれたんだ。恋に落ちたんだよ。周りの景色も招待客も目に入らない。俺には君しか、君には俺しか見えない。そう、想像、してみて」
 続いてヒューはレイラをベッドに横たえると、ガウンの合わせに手をかける。
「世界には二人しかいないと、二人ともそう感じている」
 彼の重みとともに、もう一度唇が重なる。
「今ここにいるのも俺たちだけだ。君も、俺だけのことを感じていて」
「感じていてって……」
 はらりとガウンの前が開かれ、レイラは胸元にひんやりとした夜の空気を感じた。同時に耳元がかあっと熱を持つ気がする。

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