キスは絶対お断り!! 婚約破棄したい侯爵令嬢ですが、完璧王太子の溺愛から逃げられません【本体1300円+税】

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●著:火崎勇
●イラスト: なおやみか
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:9784815543358
●紙書籍発売日:2024/2/29
●電子版配信日:2024/3/30

今だって、君に触れたい

侯爵令嬢エリザは社交界デビューの日、親しくしていた王太子ロウェルにプロポーズされ幸せの内にいたが、過去にエリザの父に失恋した魔女の逆恨みによる呪いがエリザに発動し、ロウェルの妻にはなれないことが発覚してしまう。
エリザは徹底的にロウェルを避け、婚約を断ろうとするも、
「君が私を愛しているなら私は君を手放さない」
と彼女を熱愛するロウェルは絶対に諦めず、エリザに甘く迫って!?




ヒールの高い靴に気を付けて階段を下りる。足元を照らす篝火が置かれていて奥へ続く道を照らしている。

恐る恐るそちらへ足を踏み出す。

バルコニーにはまだお父様がいるだろうから、心配はないだろう。

植え込みの間の小道を入ると、すぐに白く闇に浮かぶベンチが見えた。

でも誰もいない。

私が早かったかしら?

近づいて行くと、ガサリと音がした。

ハッとして振り向くと、そこには彼がいた。

「ロウェル」

ここがまだお城の中だということを忘れて彼の名前を呼ぶ。

「エリザ」

彼も、私の名前を呼んだ。敬称を付けずに。

互いに歩み寄り、手を伸ばせば届く距離まで近づく。

「すまない、こんなところに呼び出して。せっかくの白いドレスが汚れてしまうな」

「ううん、会おうと思ってくれただけで嬉しい。会いたかったの。遠くから見るだけじゃなくて」

薄暗がりの中でも、彼の顔ははっきりとわかった。

ああ、ロウェルだわ。

向けられる笑顔に心が沸き立つ。

「とても綺麗だ。似合ってる」

お父様にも褒められたのに、彼の言葉は一味違う。

「あなたも、とても素敵。……髪飾りをありがとう、着けてみたの」

髪に手を添えて、髪飾りが見えるように示す。

「よく似合ってる。君が私の色を付けてくれていたから、何とか我慢できた」

「我慢?」

「君が他の男と踊っているのを眺めるしかできなかったことを、さ。次はどこで会っても、必ずダンスを申し込む。踊ってくれるだろう?」

「……私、今日誰と踊っても、相手があなただったらと思ったわ」

恥じらいながら告白すると、彼が一歩近づいて手を取った。

「嬉しい言葉だ」

「本当よ。他の人の手を取ってわかったの。私もあなたと踊りたかった。誰が相手でも、これがロウェルだったらと思ったわ。それでわかったの、私、ロウェルが好き」

整った彼の顔が一瞬固まる。

「それはどういう……」

「他の誰より好きという意味よ」

「エリザ、本当に?」

「ええ」

次の瞬間、私は彼の腕の中にいた。

微かに漂う彼のコロンの香りに包まれて、顔が熱くなる。

「ロ……、ロウェル……」

「では婚約を受けてくれる?」

耳元で甘い彼の声。

こんな声、聞いたことないわ。

「それは……、お父様に訊かないと……」

「ではすぐに侯爵に婚約の打診をしよう」

「本当に私でいいの? 今日だって、私より綺麗な人はいっぱいいたわ」

「王子ではない私と向き合ってくれる可愛い君がいい。それより、君は私でいいのかい?」

「私の前で王子様の仮面を被らないでいてくれるなら。ちょっと意地悪で、優しくて、真面目に仕事をしているロウェルが好き」

ああ、好きな人に抱き締められるって、こんなにも幸せなことなのね。

感じる彼の体温に酔ってしまいそう。

「王子の仮面を被らないと、私はすぐに不埒な男になってしまうよ。今ここで君にキスしたいくらいだ」

「それはダメ!」

慌てて彼の胸を押して離れる。

「お父様に軽率な行動は許さないと言われてるの」

「侯爵か……、それで婚約に反対されては困るな。忍耐力が必要だが、ここは抱き締められただけでも我慢をしよう。もう一度だけ抱いていいか?」

「……少しだけなら」

空いた距離がもう一度縮まって、彼の胸に顔を埋める。

腕は、壊れ物を抱くようにそっと私を包んだ。

生まれて初めての、家族ではない男性との抱擁。

戸惑いながら、自分も彼の背に腕を回そうとしたけれど、勇気が出なくてロウェルの礼服の裾をぎゅっと握った。

「お父様に、婚約を申し込まれたと伝えていい?」

「いいとも。恐らくもう君以外の皆が知ってることだと思うけど」

「何それ?」

「私の父上も母上も、私が君に恋してると知ってるし、エーリクもウィルベルも、侯爵夫妻も知っているということさ」

「私、誰にも話していないわ!」

「私の態度でわかっているんだろう。それでも、君のところへ通うことを誰も止めなかったから、皆祝福してくれてるだろう」

好意と友情から恋にまでたどり着けずに、一人で迷子になっている間に、みんな知っていて祝福してくれていた?

そう思うと、何だかとても恥ずかしい。

私だけが鈍感だったのね。ううん、子供だったんだわ。

ただの『好き』と、この人でなければという『好き』の区別がつかなかった。時々会えるだけでもいいじゃない、今目の前にいるのだからと将来のことは考えていなかった。

多くの人々の中でロウェルを見て、初めて『好き』にも種類があるのだと知った気がする。

☆この続きは製品版でお楽しみください☆


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