元ブラックな社畜の悪役令嬢ですが、転生先ではホワイトな労働条件と王子様の溺愛を希望します【本体1300円+税】

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●著:当麻咲来
●イラスト: KRN
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:9784815543372
●紙書籍発売日:2024/3/29
●電子版配信日:2024/4/30

今どうしようもなく、貴女が欲しい

伯爵令嬢エミーリアは、自分が今のままでは処刑される転生悪役令嬢だと気づく。
運命回避を模索する中、裏で悪事を働く婚約者に無理やり抱かれそうな危機を、美貌の第一王子フェリクスに救われると、その縁で彼の秘書官を務める事になる。
前世の能力を発揮した活躍で彼に見初められるエミーリア。
「出会ったのが貴女でよかった」
彼に甘く抱かれ好意を持つが、彼に陰謀を企む大臣に呼び出され!?




「ゆっくりとエミーリアと話をしたいから、呼ぶまで次の間に出てもらっていいよ」
フェリクスはエミーリアの部屋まで一緒に戻ってくると、控えていた侍女達に言った。バルコニーにお酒とつまみの準備だけをしてもらい、侍女達は全員席を外した。
(何か内密な話でもしたいのかな……)
エミーリアはそう思いながら、彼の誘いを受けて月の下でお酒を酌み交わす。まだ宴はたけなわで、風に乗って音楽が途切れ途切れに聞こえてくる。何杯目かのグラスを片手に微かな調べに耳を傾けていると、自分が本当に異世界に来てしまったのだと実感する。
「社畜で一生終えるはずだったのになあ……」
既にパーティが始まってから飲み続けているせいで、体がふわふわとしている。すぐ下にある庭園からは良い花の香りが漂ってきて、余計に現実感をなくさせた。その上目の前に座る上司は、銀髪に紫色の瞳をした、極上の美男子だ。
「シャチク?」
「ふふふ、なんでもありません。目の保養ですね。贅沢な光景です」
不思議そうにしているフェリクスを見てエミーリアが笑うと、彼はなんとも言えない表情を浮かべた。現実感がなさ過ぎて手を伸ばし、彼の頬を指先で撫でると、フェリクスは目を細める。
「シャチクがなんだかわからないけれど、今は私の妻として一生隣に居てくれる決意をしてくれたんだろう?」
フェリクスの声が心地よい。思わず聞き惚れてしまう。
「そうですね、それもいいですね」
本当の夫となるつもりもないくせに、と思いつつも適当に相づちを打っていると、彼は困ったように小さく笑った。
「貴女は、本当に不思議な人だな。こんなに欲しがられているのに、どうしてそんなに平然としているんだ?」
「欲しがるって、何を?」
彼はエミーリアの飲んでいるグラスを取り上げ、自分の瞳の色のようなお酒を一気に飲み干す。
「フェリクス様、ダメですよ、私のお酒なのに……」
唇を尖らせて膨れると、彼は触れるか触れないかぐらいの微妙な距離でエミーリアの唇を撫でた。
鳥の羽根のようなタッチに、ゾワリと背筋が震える。
「さあ、俺は何を欲しがっているんだと思う?」
なんだかドキドキして、ふわふわする。フェリクスはもしかして自分のことを好きなのかもしれないと思ったり、まさかそんなことはない、と思ったり。心が常に落ち着かない。
一瞬何かを企む笑顔でエミーリアに手を差し伸べてきたフェリクスの手に、エミーリアは無意識で自らのそれを重ねる。彼はそのまま彼女の手を引いて微かに聞こえる音楽にあわせてダンスを踊り始めた。先ほどのような激しいものではなく、体を添わせるようなゆったりとした動きだ。
自然と彼の肩に頭を載せるようにして、エミーリアはゆっくりとステップを踏む。腰を抱かれ、物憂げで甘いメロディを聞きながら踊っていると、ますます現実感がなくなっていく。
「……エミーリア、貴女は俺に秘密にしていることがあるだろう?」
悪戯っぽく耳元で囁かれて、彼の肩に頬をつけたまま、じっとその綺麗な唇の弧を描く姿に見とれてしまう。
「……ふふふ、そうですね。秘密は多分一杯ありますよ」
自分がこの世界では異質な存在なことも、元々悪役令嬢として排除されるはずだったことも。いや、それ以外にもゲームの世界で起きた全部を知っているのだから。
「そうか。実は俺にも秘密がある……」
くすりと笑うフェリクスについ見とれてしまった。
「秘密? 何がですか?」
「さあ、じゃあお互い秘密を打ち明けあおうか」

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