国王陛下と純真な花嫁
願い石の魔法
【本体639円+税】

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●著:火崎勇
●イラスト:弓槻みあ
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-87919-386-5
●発売日:2018/1/25

これは私達だけの秘密だよ?


ジプシーから貰った『願い石』の力で、憧れていた国王エンデミオンと精神が入れ替わるようになってしまったロザリア。短時間で元に戻るものの、入れ替わりに備えて王太后の話し相手という名目で王宮に出仕することに。エンデミオンを困らせまいと恋心を封じようとするロザリアに、エンデミオンは彼女を子ども扱いしつつ「大人の女性ならばこれぐらいは挨拶だ」と悪戯なキスを仕掛けてくる。だが彼には隣国の王女との縁談があり!?




幸福な気持ちのまま落ちた眠りの中、陛下と二人でサーカスを見にいく夢を見た。
陛下は礼服ではなく、街の者が着ているようなラフなシャツで、私も町娘のような簡素なドレス。
二人で観客席から子馬に乗った芸人に拍手を送る。
「……さい」
あんまりにも楽しい夢なので、覚めたくないと思っていたのに、誰かが私の肩を掴んで揺り起こした。
「起きなさい」
どこか聞き覚えのある、若い娘の声。
メイド?
いいえ違うわね。
「起きなさい」
もう一度身体を揺すられ、私は眠い目を擦りながら瞼を開いた。
黒髪の、緑の瞳の女性が怒ったような顔で私を覗き込んでいる。
顔も、どこかで見た顔だわ。
ふっくらとした頬の、幼さの残る顔。
これは……。
「お前は誰だ?」
「鏡だわ」
私は呟いた。
「こんなところに鏡があるわ……」
目の前で私を睨んでいるのは、『私』だった。
おかしな夢。
さっきまでの、陛下とのデートの方が楽しかったのに。
「『私』? お前はロザリアか?」
眠気に負けてまたベッドに沈みながら、笑ってしまう。
「いやだわ。鏡が私に話しかけてくる。そうよ、私はあなた、私はロザリアよ」
双子になった夢でも見てるのかしら。
「ロザリア……」
さっきお母様に、お義姉様ができるという話をしていたから、こんな夢を見るのかしら? 双子のお義姉様も悪くないけれど、私としては甘えられる年上の優しいお義姉様がいいわ。
「ロザリア、起きなさい」
身体が強く揺すられる。
「……ん、まだ眠いわ……」
「いいから、起きなさい。しっかりと目を開けるんだ」
まるでお兄様達みたいな口の利き方ね。
「ロザリア!」
叱るような口調で名を呼ばれ、ビックリして目が覚めた。
目が……、覚めた?
え? 
何?
どうしてまだ『私』が目の前にいるの?
鏡……、じゃないわ。だって動いてるもの。それに私はこんなに眉間に皺を寄せる表情なんかしないわ。
「あなた……、誰?」
と訊いた自分の声に驚いた。
「何、この声!」
自分の声じゃない。
というか、女性の声でもない。
思わず喉に手をやろうとして、自分の手にも驚いた。
「え? 手? 私の手?」
骨張った、指の長い大きな手。
私の手じゃないわ、これじゃまるで男の人の手だわ。
手だけではなかった。
起き上がった身体も、私のものではなかった。
「胸がないわ!」
夜着を着ていたはずなのに、身につけているのは白いシャツ。その襟元から除くのはペタンとした筋肉質な胸。
肩から零れるのは黒髪ではなく、金色の髪。
「何で? どうして…、私の身体、どうなっちゃったの?」
ショックで、涙が溢れ出す。
「お母様……、お母様ぁ……!」
「ロザリア」
目の前にいた私とそっくりな娘が、泣き出した私の口を塞いだ。
「大きな声を出すな。人が来たら困る」
「……ン……?」
「落ち着いて、原因はわからないが、状況は説明してあげるから」
説明?
この娘、魔法使い? 私に魔法をかけたの?
「いいかい? 手を離すが、大きな声を出してはいけないよ? わかったかい?」
もし彼女が魔法使いで、この姿が魔法のせいなら、彼女に従わないと。元に戻してくれるのは彼女だけかもしれないもの。
「いいかい?」
もう一度訊かれて、私はコクンと頷いた。
彼女がホッとした表情で手を離す。
そしてベッドの傍らに座った。
「まず確認させて欲しい。君はボーデン侯爵の娘、ロザリアかい?」
「……ええ」
返事をしながら手の甲で零れる涙を拭う。
それを見て、彼女は深いため息をついた。
「……その姿で涙ぐまないで欲しい」
「泣くなというの? でも私……、驚いて……」
突然男の人に変身させられたのだもの、仕方ないじゃない。
なのに彼女は額に手を当て、またため息をつく。
「その言葉遣いもキツイな……」
「私……、失礼な物言いをしてる?」
「いや、そうではない。取り敢えず、ベッドから出なさい」
少し偉そうな物言い。
高貴な魔女なのかしら?
布団から抜け出し、床に足をつき立ち上がる。
視線が、視界が、全然違うわ。
とても背が高い。
「こっちへ来なさい」
彼女は私の手を取ると、壁に掲げられた姿見の前に連れていった。
「いいかい、声を上げてはいけないよ。鏡に映った君の、いや、『私達』の姿をよく見るんだ」
「……!」
先に言われていたから、声は必死に我慢した。
でも驚きは衝撃的なものだった。
だって、姿見の中に映っていたのは、夜着にガウンを着込んだ私と、エンデミオン陛下だったのだもの。
でも『私』の姿は彼女のもの。
……ということは、今の私の姿がエンデミオン陛下なの?
「これ……、あの……」
ショックで、私は床にへたり込んでしまった。
「お願い、魔女さん。私を元の姿に戻して。陛下のお姿に変身させるなんて恐れ多いわ」
「私は魔女ではない」
「じゃあ何? 呪術師? 魔法使い?」
「そのどれでもない。……その様子では、君も原因はわからないようだな」
「わからないわ。私、何か悪いことをしたのなら謝ります。だから……」
また涙が溢れ出す。
彼女は私の隣にしゃがみ込み、そっと肩に手を置いた。
「いいかい、よく聞くんだ。君は変身したんじゃない。正確に言えば、私と君とで、どうやら中身が入れ替わってしまったようだ」
私と君……。
私がそこにいて、私が陛下のお姿で、私達の中身が入れ替わったということは……。
「へ……いか……?」
目の前にいる『私』に問いかけると、物凄く複雑な顔で彼女は頷いた。
「そうだ、私がエンデミオンだ」
え……、え……? ええ……っ!



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