騎士王陛下のめっちゃ愛され花嫁
可愛い令嬢の
きゅんラブが止まりません!
【本体685円+税】

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●著:池戸裕子
●イラスト:すらだまみ
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-2011-3
●発売日:2018/09/25

お前だけは絶対に手放す気はない

結婚する姉の代わりに女官としてダレン王に仕えることになったリーン。健気な彼女の決意をダレンは愛でるが、姉と違い取り立てて優れた才能のないリーンに他の女官達は冷たい。落ち込みつつも傍にいられる喜びを表すリーンに王はのめり込んでいく。「出会った時から触れたい気持ちを抑えられなかった」愛した人に強く抱かれ、初めて知る喜び。だが女官には手を出さない王がリーンを特別扱いしていることが他の者に知られて――!?




「リーン。お前には何ができる? ダンスか? 詩の朗読か? 自慢できるものは何だ?」
「ありません!」
即座に力いっぱい首を横に振ったリーンに、王は呆れている。
「それで姉の代わりを務めるつもりでいるとは、俺もずいぶん見くびられたものだ」
間近で目を合わせると、王の瞳の灰色は薄く青みがかっていた。凍てつく冬の空のようで、何を願っても冷たく突き放されそうだ。
「私にできることなら何でもします! 何でもしますから……、だから姉を連れて行かないでください!」
リーンには必死に訴えることしかできなかった。王に突き放されるどころか、怒りを買ってどんな罰を与えられるかもしれない恐ろしさと戦っている。
──ダレン様、怖いお顔をしてる。
泣き虫のムシがまた、騒ぎはじめた。
「お願いします、ダレン様!」
リーンは涙を我慢しているつもりだったが、王を一心に見上げる大きな両瞳の端にはもう、透明な珠が小さく盛り上がっていた。
「何でもとは、何でもか?」
「はいっ」
「あんなことも、こんなこともか?」
「え?」
「俺が命じれば、どんなこともしてみせると?」
──あんなこと? ……こんなことって?
何を聞かれているのかわかっていない。そういう顔を隠そうともせずに頷いたリーンに、王はあっさり背を向けた。
「話にならない」
「ダレン様!」
「俺は子供には興味がないんだ」
──!
王の言葉の意味を悟ったリーンの頬に血が上ってくる。だが、恥ずかしがっている場合ではなかった。王にもう一度、振り向いてもらわなくては!
「お待ちください、ダレン様!」
自分が何を問われているのか。ふざけた言い方ではあったがとっさに理解できない子供に、王付きの女官が務まるはずがない。リーンに向けられた背中がそう言っている。
「私、子供ではありません!」
リーンは王の前に回った。
「この間、誕生日を迎えたばかりですけれど、十八歳は大人です! もう嫁げる歳です!」
リーンは唇を震わせながらも、王と目を合わせ、決して逸らさなかった。
「ダレン様が私などでも良いとおっしゃるなら、女としての務めも果たせます! 果たしてみせます!」
「リーン。お前、何を持っている?」
王の瞳で冷たい輝きが増した。
王の視線の先にあるのは、ドレスのポケットからわずかに頭を覗かせている短剣の柄だった。父伯爵の書斎に飾ってあったものを持ち出したのだ。
「願いが聞き届けられない時は、それを俺に向けるつもりで来たのか?」
「そんな恐れ多いこと、誓って考えたことはありません!」
短剣を胸に抱いたリーンは、懸命に言葉を繋ぐ。
「自分がダレン様にどんなに無礼でわがままなお願いをしているのか、わかっているつもりです。この剣は、私自身に向けたものなのです」
王に会うためこの場所に忍んで来るだけでも、普段のリーンには想像するのも恐ろしい行為なのだ。勇気を振り絞るより先に涙が溢れてしまう、そんな弱い自分を追い込むための剣だった。
「いっそ本当にお前の命と姉の幸福を引き換えてみるというのは、どうだ?」
リーンの目が大きくなった。
ついに涙が頬を伝い落ちる。
「その覚悟はあるのか?」
王に短剣を奪われた。王は鞘を捨て、よく切れそうな刃の部分を矯めつ眇めつ眺めていたが、再び真っ直ぐリーンを見た。
「どうする?」
その覚悟があるなら俺が命を奪ってやろう。お前も腹を括れと、ダレン王は見つめる眼差しでリーンに迫る。
「私は……」
リーンはすぐには答えられなかった。覚悟を決め短剣を握っていたはずの手は、指先までも凍りついたように強張っている。
「……っ」
言葉の代わりにほろほろと涙が零れた。
それでもリーンは王から目を逸らさなかった。
死ぬのは嫌だ。
死ぬのは怖い。
──でも、お姉様が不幸になるよりずっといいわ。お姉様が不幸せになれば、私は生涯、自分が何もしなかったことを悔いるでしょう。私も不幸になる。だったらお姉様に幸せを取り戻すために死んだ方が、何倍も幸せ。
「リーン……」
大きな身体で覆い被さるようにして、王がリーンの顔を覗き込んだ。
「その目は、決心をつけた目だな」
声にできない思いを込めて、リーンも王を見つめる。
「森で会った時も、お前はこんなふうに泣いていた。どうしようもなく怖がりで臆病な子供みたいに」
灰色の瞳が降りてくる。
冷たいけれど、リーンの心のなかまで映し取りそうに澄んだ瞳だ。
「今のお前は違うな」
油断をすると見とれてしまう王の美貌がすぐそこにあった。王は、リーンの髪についた草の葉を払った。
「目の前の困難からも、俺からも逃げようとしていない」
リーンは思わず瞼を閉じていた。
──あっ?
王を前にするとますます頼りなく華奢に映る肩が、ピクリと跳ねた。
頬に冷たい何かが触れている。
──短剣かもしれない。
リーンは石像のように固まった。
その、刃かもしれない何かが、頬を斜めに滑り落ちていく。唇に留まった。
──え?
リーンが王の口づけを受けていると気づくまで、少しかかった。
「……っ!」
驚きが弾け、リーンは王から離れようとした。だが、いつの間にか腰に回されていた両腕が許さなかった。
短剣は、とっくに二人の足元に投げ捨てられていた。知らずに踏んでよろめいたリーンを、王は強い力で引き寄せた。
「……ん」
また、唇を塞がれた。深く重ねられ、リーンは頭の芯まで熱くした。

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