腹黒聖王様の花嫁は、
ご辞退させていただきたく
【本体685円+税】

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●著:小出みき
●イラスト:氷堂れん
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-2021-2
●発売日:2019/1/25

これ以上我慢できない。今すぐ俺と結婚してくれ

民に崇敬される聖公爵エンデュミオン。ゾフィーは穏やかな彼が時折「サリエル」という横暴な人格に変わると知ったことで脅され側仕えにされてしまう。我が儘だが気のいいところもあるサリエルに親しみを感じたゾフィーは、聖公爵の姿は演技でサリエルこそが本性だとわかりショックを受ける。「すごく感じやすいんだな。可愛い」開き直った彼に押し倒され、戸惑いつつも溺愛される日々。しかし彼を利用しようとする勢力が迫り!?




(だ……誰……?)
緊張で汗ばむ掌を夜着にこすりつけ、火掻き棒を握り直す。抜き足差し足でガラス戸に歩み寄ったゾフィーは何度か呼吸をすると思い切ってカーテンをバッと開けた。
「…………!?」
長身の人影がガラスに半ばもたれている。月光を浴びて佇むその姿はどこか夢幻めいて非現実的だ。半分翳になった美貌が玲瓏と微笑む。
「エ……エンデュミオン様……!?」
ゾフィーは火掻き棒を絨毯の上に放り出し、急いで把手に手をかけた。開かない。鍵はしっかりかかっていた。もどかしく鍵を開け、ベランダに飛び出した。
「やぁ、ゾフィー」
夜露のごとくしっとりときらめく声が囁いた。
「な……、何をしてらっしゃるんです……!?」
「ん。きみに逢いたくてね。ふたりきりで」
こともなげに言い、彼はぽかんとするゾフィーを引き寄せた。躊躇なく懐深く抱きしめられて息が止まる。
予想外の胸板の厚さと広さに呆然となった。何をされているのかとっさに把握できなくて棒立ちになっていると、耳元でくすりと笑みがこぼされた。
「つーかまーえたっ」
歌うような悪戯っぽい囁き。得意げな悪童みたいな──。
同じ台詞をずっと前に聞いた。
だけど。そんなわけ、ない。だって彼は消えてしまったのだもの。もうどこにもいないはず。
「サ……サリエル……!?」
そんな馬鹿なと思いながら口走ると、ぎゅっと一際強く抱擁された。
「久しぶりだな、ゾフィー」
嬉しそうに囁くと、彼はいきなり唇を押しつけた。ゾフィーの唇に。
「ぅむッ……!?」
限界まで目を瞠り、必死に腕をつっぱる。だが、すらりと優美に見えるのにその力は強く、全然振りほどけない。
息苦しさに涙目になって胸板を叩く。ようやく唇が離れたかと思うと、ろくに息継ぎをする暇もなくふたたび唇が重なった。
窒息させようとしているのでは……!? というくらい、そのくちづけは執拗だった。息苦しさと混乱とで頭はぐるぐる回りっぱなしだ。抗う力も入らなくなって、だらんと手が下がる。
「……おい。どうした」
ゾフィーが失神寸前だとやっと気付き、彼は焦ってぺちぺち頬を叩いた。それで正気を取り戻したゾフィーは思いっきり息を吸った弾みで噎せてしまい、ゴホゴホ咳き込みながらサリエルを睨み付けた。
「わ、わたしを殺す気……!?」
「キスしただけじゃないか」
「窒息するかと思ったわ!」
「うん、俺もちょっと息が上がった」
まじめくさった顔で応える青年を、改めてじーっと窺う。
「……サリエル、なの……?」
「おぅ」
彼は嬉しそうに頷いてふたたびガバッとゾフィーを抱きすくめ、すりすりと頬擦りした。
「逢いたかった、ゾフィー」
「あなた消えたんじゃ……!? っていうか、いきなりなんてことするのよ!? ひどいわっ」
「何が?」
「キ、キ、キスよ! わたし、初めてだったんだからっ」
「俺もだ」
衒いもなく返されて唖然となる。
「ゾフィーは今でもこいつが好きなんだろう?」
ぽんぽんと自分の胸を叩きながらからかうように問われ、ゾフィーは赤くなった。
「か、勝手にキスしたりして、エンデュミオン様に悪いじゃないの……っ」
「知っても別に怒りゃしないさ。こいつだってゾフィーのことは気に入ってるんだから」
この俺様ぶり、やっぱり悪魔だ。赤面しつつ口を尖らせて睨むと、彼はふっと微笑んだ。
「……おまえ、変わらないな」
「あなたもねっ」
精一杯の皮肉を込めるも通じた様子はなく、悪魔は上機嫌に笑っている。急にゾフィーは心配になった。
「ねぇ。今までどうしてたの? わたし、てっきりあなたはエンデュミオン様から離れて、地獄だか魔界だかに帰ったんだと思ってたわ」
「よくわからないが、ずっと眠ってたらしいな」
「眠ってた?」
「こいつが記憶喪失になったのは知ってるか?」
「え、ええ。馬車の事故で頭に怪我したせいだって、お父様が……」
「たぶんその影響じゃないかと思う。大体のことは覚えてるんだが、どうも現実感がないというか……、夢を見ていたようなぼんやりした感じだ」
形よい顎を摘まみ、考え込むようにサリエルは呟いた。そんな姿さえ妙に様になっていて、うっかり見惚れてしまったゾフィーは我に返ってぷるぷるとかぶりを振った。
(だめっ! 今の彼は悪魔なのよ!? 見惚れてる場合じゃないわ!)
「……またエンデュミオン様を苦しめるの?」
警戒しながら問うと、サリエルは軽く目を瞠った。
「苦しめる?」
「前みたいに暴れたり暴言を吐いたりするつもり? そんなの絶対許さないわ!」
腰に手を当て、憤然と睨み付ける。呆気に取られたように見返していたサリエルが、ふいにニヤリとした。
「そうだなぁ。それもおもしろいかもな」
「ダメ! 絶対!!」
気色ばむゾフィーを、彼はニヤニヤと眺めた。
「おまえに俺が止められるのか? 聖王庁の腕利き祓魔師でさえ祓えなかった、強大な悪魔なんだぞ俺は」
「も、もう一度眠ってもらえない……?」
引き攣った愛想笑いを浮かべて頼むと、彼は悪戯っ子のようにべーっと赤い舌を突きだした。
「やーだね。十一年も寝てたんだ、とうぶん眠る気にはなれないね」
言うなり彼は身をかがめてゾフィーの顔を覗き込んだ。
「なっ、何よ……?」
「おまえが夜伽してくれるんなら、おとなしくしててやってもいいけどな」
二十歳にもなれば夜伽の意味は理解している。赤面するゾフィーに彼はクスクス笑った。
「真っ赤になっちゃって。ゾフィーは可愛いなぁ」
「こ、こ、こ、このっ、悪魔……っ!」
「だからそう言ってるじゃないか」
彼はニヤリと悪辣な笑みを浮かべた。それでも卑しい感じにならないのは、あまりに高貴すぎる美貌ゆえ? なんと罪深い! まさしく悪魔の王子様。いや、成長した今では『魔王』と呼ぶべきか。

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