濡れ衣を着せられまして
見捨てられた令嬢と深紅の公爵
【本体1200円+税】

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●著:東 万里央
●イラスト:白崎小夜
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4018‐0
●発売日:2019/11/29

無実の罪を晴らすため
麗しの公爵と蜜愛同居ライフ!?

婚約者の家宝を盗んだという無実の罪で婚約破棄され、土地を追い出された没落令嬢のジュスティーヌ。四年後、身分を隠して働いていた王宮で窃盗事件が起き、またも犯人にされそうに。諦めかけたジュスティーヌを救ってくれたのは国王の甥であるシメオン公爵だった。だが彼は疑いが完全に晴れるまで、ジュスティーヌを自分の屋敷で預かると言い出し!?
『離縁されました。再婚しました。』著者、完全書き下ろし新作!




 ソフィの部屋は三階の東にあったが、ジュスティーヌの部屋は二階の西になるらしい。貴族の女性用の豪奢な部屋で、長屋の賃貸が軽く三部屋は入りそうだった。おまけに、浴室つきなのだそうだ。
 ジュスティーヌは好待遇に戸惑い、開け放たれた扉の前で立ち尽くした。
「シメオン様……もったいのうございます。ソフィはそのままでお願いしたいのですが、どうか私は召使用のお部屋で……」
「お前は客人だと言っただろう。お前を召使の部屋に入れてしまえば、召使が困る」
 シメオンはジュスティーヌの言い分に耳を貸す気はないらしい。くるりと身を翻すと、手を二度高らかに叩き、廊下に控えていたらしい年配の白髪の侍女を呼んだ。
「エマ、ジュスティーヌの入浴を補助してくれ。ジュリエットのドレスがあっただろう。夕食前にジュスティーヌに着せ付けるように」
「かしこまりました」
「シメオン様……! 入浴くらい一人でできますから……!」
 ジュスティーヌの訴えはやはり聞き入れられず、部屋にエマだけではなく、二名の若い侍女が足を踏み入れる。手にはガウンや液体の入ったガラス瓶、石鹸らしき塊を手にしていた。
「さあ、隅から隅まで綺麗にして差し上げますよ!」
 張り切る侍女一同に浴室へと引き摺られながら、ジュスティーヌは扉の向こうに立つシメオンに助けを求めた。
「し、シメオン様〜!」
 シメオンはジュスティーヌの悲鳴など我関せずといった真顔だ。
 だが、シメオンの無表情とそのわずかな変化に慣れ、感情が読めるようになっているジュスティーヌにはわかってしまった。肩を小刻みに震わせて、口元だけで笑っている──明らかにこの状況を楽しんでいるのだ。
 シメオンは部屋を立ち去る間際に、ジュスティーヌにこう言い残した。
「……食事の席で話したいことがある。それまでに、客人に相応しい装いになってもらおう」
 意地悪です!と抗議しようとしたものの、恩人にそのような真似ができるはずもない。結局、ジュスティーヌは小舟に似た浴槽に放り込まれ、エマの宣言通りに頭からつま先まで、問答無用で磨かれることになったのだった。
「まああ、髪を染めていらしたんですか!? なんて罰当たりな!! こんなに綺麗な金髪を神から授けられながら!!」
 それには事情があると説明しようとしたのだが、お湯が目にも鼻にも口にも入ってろくに話せない。全身からスズランのいい香りがするのは石鹸の香料だろうか。もう何年も石鹸など使っていない。まして、香料入りなどジュスティーヌには手の届かない高級品だったのだ。
「まあまあまあ!! なんて綺麗なお顔、綺麗なお肌!! お化粧が楽しみですわ!! えっ!? 手入れもせずにこれですか!? ジュスティーヌ様、ご両親に感謝しなければなりませんよ!!」
 いちいち「!!」付きのお世辞を耳元で叫ばれ、その度に脳内がキーンとなる。しかし、悪気がないのは理解できるだけに何も言えなかった。
 二時間かけて入浴を終えたジュスティーヌは、ガウンを着せられると、鏡台の前へと連れて行かれた。今度は薔薇の香りのするクリームを顔に塗られる。
 髪がすっかり乾くと、肌触りのいい下着と、花柄を刺繍した、白の綿モスリンのドレスを着せ付けられた。この数年の流行の、切り返しが胸のすぐ下にあり、体を締め付けない直線的なデザインのものだ。化粧を施された後には、髪を梳かれ、整えられる。
「エマさん、失礼します……。シメオン様がこのドレスはジュリエット様のものとおっしゃっていましたが……よろしいのでしょうか?」
 すでに嫁いだとはいえ、妹の残した大切な品だ。赤の他人が身に纏ってもいいものなのだろうか。
「ええ、普段着だったものですし、構わないそうですよ。捨てることもできず仕舞いこんでいたんです。まさか、シメオン様が女装するわけにもいきませんしね」
 確かに、逞しい体つきで真顔のシメオンの女装は想像したくはない。具体的な映像を脳裏に浮かべそうになったジュスティーヌの耳元で、エマが声を張り上げる。
「さあさあ、仕上がりましたよ」
 紅筆を仕舞うと、侍女二人と一緒になって、あらゆる角度からジュスティーヌを眺めた。
「綺麗……」
「綺麗ですわ……」
「まったく、それ以外の言葉が見つかりません……」
 うっとりと口々に言われ、ジュスティーヌは思わず俯いた。
 その頃にはすでに日が暮れ、夕食の十分前になっていた。満足げなエマに案内され、シメオンの待つ食堂へと向かう。
 食堂は晩餐会を開催する大部屋と、家族で食事をする小部屋があり、今日は小部屋を利用するらしかった。小部屋といっても、天井にはもはや芸術品のシャンデリアが飾られ、真下の純白のクロスのかかった長テーブルに、七色の光を放っている。すべての壁には有名画家の手による四季の風景画が掛けられ、食堂にいながらにして景色を楽しめるようになっていた。
 長テーブルは十二人用となっており、かつてはここにキャストゥル家の家族が集い、和やかな会話と美味
しい食事を楽しんでいたのだろう。だが、今はシメオン一人しかいなかった。
 当主の席に腰掛けていたシメオンは、高貴で堂々としていたものの、どこか孤独にも見えてしまった。
「ジュスティーヌ様がいらっしゃいました」
 エマの声にシメオンは伏せていた顔を上げる。そして、ジュスティーヌを目にして絶句した。
「……ジュスティーヌ……?」
「見違えましたでしょう? 髪を染めていらっしゃったんですよ! 青みを帯びた金髪なんて珍しいですわね!!」
 エマはジュスティーヌにシメオンの斜め右の席を勧めると、役目は終わったとばかりに食堂を出て行ってしまってしまった。
 二人きりで食堂に取り残されると、四年ぶりに着たドレスに気後れしてならない。シメオンが先ほどから名を呼んだきり口を利かないので、ジュスティーヌはみっともなくはないかと不安になってしまった。
 前菜のパテと温野菜が運ばれてきたところで、シメオンがカラトリーを手に取り、ようやく口を開く。
「……お前はそのような髪の色だったのだな。てっきりソフィと同じ色かと思っていた」
 ソフィの髪は確かに父に似た褐色である。姉妹なので変装するなら最も不自然ではないからと、髪を染める際にはその色を選んだ。
「騙すような真似をして申し訳ございません。この髪の色はフロリンでは珍しいようで、身元を特定されやすかったので……」
「……」
 シメオンはジュスティーヌの言い訳も聞かずに、無言でジュスティーヌを見つめていた。
 男性らしい美貌に長時間真顔で凝視されると、いくら自分でも赤面してしまう。ジュスティーヌは気恥ずかしく、顔を伏せてシメオンから目を逸らした。食堂に伸し掛かる沈黙をどうにかしようと、おずおずとシメオンに話を切り出す。

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