イケメン俺様社長と
愛され花嫁修業
【本体685円+税】

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●著:池戸裕子
●イラスト:八千代ハル
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-2041-0
●発売日:2019/10/25

そんな表情をして俺を煽るな

結婚を急かす母達をごまかすため、レンタル彼氏を頼むことにした沙織。顔で選んだその彼、香山明良は、写真以上のイケメンで一流のオーラを放つ会社社長だった。気後れする沙織の前で香山は如才なく役目をやり遂げ、今度は沙織を彼女役としてレンタルしたいと持ちかけてくる。「今夜は我慢できそうにない」レンタルと言いつつ沙織に触れ、誘惑してくる香山。自分は香山に釣り合わないと思いながらも、彼への思いが募っていき―!?




「俺も手伝うよ」
空いた食器をお盆に載せキッチンに運ぶ沙織の後ろを、香山がついてきた。飲み終わったビールの缶を両手に持っている。
築年数の古さでは、この地域でトップファイブに入ろうかというマンションだ。家事の動線などまるで考慮されていない造りの台所は恐ろしく使い勝手が悪く、食事をしている居間からは離れた、独立した小部屋のようになっている。
沙織はシンクに向かうと常備してあるボロ布で食器の汚れを軽く落とし、水を張ったステンレスの洗い桶に沈めた。
「缶は後ろのテーブルに置いてくれますか。片づける前に濯ぎますから」
「了解」
沙織は自分の指示に従う香山の気配を、背中に感じていた。
「ありがとうございます」
「なに?」
「その……いろいろ気を遣ってくれて」
沙織は振り向こうとして、できなかった。
いきなり後ろから抱きしめられたからだ。
驚きに一瞬身を硬くし、慌てて振りほどこうとする沙織の耳に、彼が囁いた。
「じっとして。お母さんが見てる」
──えっ?
沙織は動けなくなった。
「芝居だってばれるぞ」
彼の腕に掛けた沙織の指から力が抜けた。
「ちょ……、何してるんですか!」
沙織は小さく声を上げた。
こめかみに押し当てられた、この柔らかな感触は……?
──うそ?
香山がキスをしている。
髪に軽い口づけを繰り返している。
いかにも恋人が可愛くて、そうせずにはいられないという動作で。
「は……なして……」
一気に体温が上がった。
「もし、お母さんが俺たちの関係を疑っているとしたら、これ以上、言葉でいくら説明しても無駄だ。行動で見せつけるしかない」
彼が耳元でしゃべるたび、何とも言えないくすぐったさが背筋をそわそわ落ち着かなくさせる。
熱湯でもかけられたみたいに頭が熱くなる。
「こんなふうにくっつくのもキスをするのも、恋人同士の特権だろう?」
「だからって……、反則です」
「らしくないな。あんなに君を愛してくれている家族を騙すなんて思い切った計画を立てた、沙織さんらしくない」
「それとこれとは話が別では……」
抵抗を封じられた身体の代わりに、沙織は必死に言葉で対抗した。
「じゃあ──」
香山はくるりと器用に沙織の身体の向きを変えた。腰に回した両腕で、有無を言わせず沙織を引き寄せる。

──なんでそんなに楽しそうなの?

香山の表情を見た時、沙織は思った。
「じゃあ、キスも報酬の一部だと言ったら?」
──報酬の?
「どうする?」
──言うことをきかなければ、お母さんたちに全部ばらすってこと?
香山の微笑みに、沙織は挑まれている気がした。
彼は楽しんでいるのだ。赤くなっているのは自分だけだと思うと、急に羞恥に似た悔しさが込み上げてきた。
「さっきのキスじゃ足りない」
彼に囁きざま唇を奪われた瞬間、沙織は思わず瞼を閉じていた。
頭の片隅でもう一人の自分が子供のように拳を振り回し、意地になって叫んでいる。

引いたら負け!

ついばむように触れてくるキスは、固く結ばれた唇の端に留まったかと思えば、次には形をなぞってゆっくりと滑っていく。
──?
沙織は香山の胸で震えた。
──どうして?
自分にギャップがあるというなら、香山もだった。
こんなにも強引に振る舞うくせに、
──どうしてキスは優しいの?
「そう……、じっとしていて……」
苦しげに寄せられていた沙織の眉根が、ふと解ける。
力が抜けたのは、強く結んだはずの唇もだった。
ただキスが巧いだけなのか。それとも香山が本当は優しいからキスも優しいのか。沙織にはわからなかった。
「……ん」
熱く零れた息が自分のものと知り、沙織は身体中を燃えるように熱くした。何も考えられなくなる。プライドを懸け、拳を振り回していたはずのもう一人の自分も、いつの間にか大人しくなっていた。
「ハイ、目を開けて」
沙織はハッと瞬きをした。よほど香山のキスに気持ちを奪われていたらしい。彼の唇が離れたことに気づかなかった。
香山がクスリと微笑った。沙織は消えてなくなってしまいたい衝動を何とか抑えつけ、急いで廊下の方を見やった。人の気配はなかった。
「騙したんですね」
「まさか。覗かれてる気がしたんだ」
沙織に真っ直ぐに向けられた、どんな変化も見逃さないと言わんばかりの香山の瞳には、憎らしいほど楽しげな微笑みが浮かんでいた。
「キスぐらいで赤くなるとは、意外だな」

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