前世は人魚姫ですが、どうしても
王子の執着から逃げられません
【本体1200円+税】

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●著:麻生ミカリ
●イラスト:なおやみか
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4021‐0
●発売日:2020/1/30

ずっと長い時間、きみのことを想ってきた

前世が人魚姫で、王子への想いが叶わず泡となって消えたことを思い出した侯爵令嬢エヴェリーナ。同時に彼女を妃候補の一人として挙げている第一王子ライネが、前世で恋した王子の生まれ変わりだと悟ったエヴェリーナは、あの不幸を繰り返したくないとライネを避ける。だが、彼はいっそう激しくエヴェリーナに執着してきて!?




「そうか。子だくさんを望んでいるというのなら、私も協力せねばなるまいな」
「そっ、そういう意味ではありませんっ」
「遠慮はいらない。国を継ぐ者として、子どもは多いほうがいい。エヴェリーナの幸福のために、私も一肌脱がせてもらいたい」
 こんなところで子作りについて語っているというのに、彼は照れるでもなく嫣然と笑みを浮かべる。その微笑は、この世のものとは思えないほどに魅惑的だ。
 どくん、と心臓が大きく跳ねる。
 その感覚を知っている、とエヴェリーナは思った。今生ではない。この十七年、誰かに恋をしたことはないのだから。
 ――恋って……違う、そんなわけがないわ。ただ、殿下がお美しいせいで緊張しているの。そうに決まって……
「エヴェリーナ?」
「っっ……、お相手が殿下だとはまだ決まっておりません……!」
「おかしなことを言う。きみは私の婚約者候補だ。生まれたときから、ずっとそうだったはずだろう?」
 そう。あくまで婚約者候補でしかない。実際の婚約者ではないし、まして婚約したからといって結婚するとは限らないのである。
「わたしでは、殿下のお隣に並ぶのに相応と言えますかどうか」
「何を心配する。きみはとても美しい。いつだって、そう思っていたよ」
 そんなことは初耳だ。しかも、こよなき美貌の青年から「美しい」と言われても、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「殿下にはもっとふさわしい方がいらっしゃいます。婚約者候補なら、シュルヴィだって……」
「――へえ」
 急に彼の声が低くなった。同時に、周囲の空気が少し冷えたような気がする。
「きみはもしかして、どうやって子どもを作るかまだ知らないのかな、エヴェリーナ?」
 ライネが、にっこりと微笑む。誰もが称賛する相貌の持ち主で、その微笑みは老若男女を虜にする――のだが。
 ――えーと、何かしら。この寒気は……
 いつもの微笑みと、何かが違っている。そう、言うならば目が笑っていないのだ。
「知らないなら、教えてあげようか。それを知ってなお、きみは私ではなくほかの男を選ぶかどうか、ぜひ聞きたい」
「あの、ライネ殿下、待ってくださ……」
 廊下の向こうを歩いていく侍女が、ちらりとこちらに視線を向ける。なにしろ、ふたりは応接間の前で話し込んでいるものだから、侍女も驚いたに違いない。
「失礼、そういえばここは廊下だったね。応接間で話の続きといこう」
 返事を待たずに、ライネが扉を開ける。そして、逃げ腰になるエヴェリーナの腰に腕を回し、彼女を逃がすまいとばかりに室内へ連れ込んだ。
「エヴェリーナ」
 背後で扉が閉まる音がする。
 けれど、そんなことを気にしていられないほどに、ライネの声は切実だった。触れたら指先が傷ついてしまいそうなほど、心を凝縮した声で彼が名を呼ぶ。
「私が誰を想うか、気になりはしないのか?」
 深緑の瞳が、じっとこちらを覗き込んでいた。
 なぜ、この人の目はこんなにも美しいのだろうか。どこか憂いを帯びたようにも、あるいは寂しさをはらんだようにも見える、深い二重まぶた。左右対称の形良い双眸が、まっすぐエヴェリーナだけを見つめていた。
「そ……それは、わたしごときが考えることではありませんもの」
 思わず目をそらしてしまうのは、令嬢らしき振る舞いというよりも反射的な行動だ。
 彼の目を見つめ返してしまったら、魅了されてしまう。エヴェリーナは、本能でそれを察していたのかもしれない。
 ――わたしは、殿下とは結婚できません!! きっと死んでしまうわ。そんなの、絶対無理っ!
 前世で恋した相手だからといって、好きになるとは限らない。そもそも相手には、記憶もない――と思う。
 ライネが前世とそっくりな姿であるのと同じく、エヴェリーナもまた人魚だったころとよく似た相貌をしていた。
 白金に近い、儚げな美しい髪。海の中でももっとも上等な青珊瑚色の瞳。むきたてのゆで卵のように白くつるりとした肌に、ほんのりうす赤く染まった頬。あのころと違うのは、生まれつき二本の脚を持っていることだ。
「わたしごとき、ね。でも、シュルヴィごときと結婚させようとするのもどうかと思うが」
 彼らしくない物言いに、エヴェリーナは驚いて顔を上げる。そこに、待ち構えたかのように彼の唇があった。
「ん、んんっ……!?」
 初めて触れる熱は、ドレス越しに腰を抱かれるときとも、手袋越しの手で触れられるのとも、まったく違っている。
 唇と唇を重ねて、ライネがエヴェリーナの体を優しく抱きしめて――
「駄目……っ、や、やめてくださ――あっ……」


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