懐妊したら即離婚!?
堅物ドクターが新妻の誘惑に悶える新婚生活
【本体1200円+税】

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●著:華藤りえ
●イラスト:森原八鹿
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4044-9
●発売日:2021/2/26

いいから、黙って俺に抱かれなさい

大病院の一人娘、美瑚は「跡継ぎを妊娠したら離婚」という条件でエリート医師の海棠清生と結婚する。清生にはある事情で大金が必要との噂を聞いた美湖が出した条件だったが、受け入れたはずの清生は美瑚を煽るだけ煽って一線を越えない。「貴女は本当に無邪気で残酷なほど私を煽る」一時の妻に怖いほど執着し溺愛する夫にとまどう美湖は!?




「ん……、ん」
 触れ、重ね、吐息でくすぐり、また角度を変えて触れる。
 清生が試すようにして短いキスを繰り返すのに、だんだんこそばゆさを感じだす。
 表面だけを押し当て、離れ、鼻先がぶつかってやり直し。
(キスって、子どもっぽくて、かわいい)
 これなら、子作りも思ったより大変ではないかもしれない。思いつつ、口元から笑みをこぼした瞬間。
「……笑う余裕があるなら、手加減しなくても大丈夫ですね」
 肉食獣みたいにぺろりと唇を舐め、清生はキスを変化させた。
 顎に当てていた手が首筋を撫でながら移動し、後頭部を掌に収め、うなじをくすぐる。
 同時に顔を大きく傾け、互いの口が交差するような形で唇を食む。
「ふっ……んんっ、ん」
 柔らかく、だけど張りのある唇の感触が、先ほどより強く感じられる。
 生々しさに美瑚が息を詰めると、それを待ち受けていたように清生が舌で表皮を舐める。
「っ……ッ!」
 ぬめるものが唇に触れる感触に、美瑚の身体がおののき跳ねる。
 唇が舐められただけのこと。自分でもやる仕草だと頭で理解できるが、身体がまるでついてこない。
 思わず目を閉じ身を固くすれば、唇の狭間を割り拓く男の舌を余計に意識してしまう。
 ヌルついて柔らかく、だけど肉厚で熱い。
 緊張に引き結ばれた唇の端から端を削り往復しながら、時折、くちくちと先をねじ込まれ、歯茎をいやらしく舐め回される。
 触れるだけのキスさえ初めての美瑚だ。当然、口の中に他人の舌を受け入れたことがない。
 だけど口腔の柔らかい粘膜が男の舌と擦り合う感覚は不思議で、重なり揺すぶられる部分からトロトロと溶かされていく心地がする。
 気持ちいい。これは多分気持ちいい。――とは思うものの、息継ぎの仕方がわからず困る。
 仕方なく呼吸を我慢していると、酸欠で頭の芯がぼうっとしてきて目が眩む。
 たまらず清生の腕にすがれば、男の喉が喜悦に満ちた笑いで震えた。
「ンンッ、ぅ、む……っ」
 いよいよ呼吸が我慢できなくなって、頭を揺さぶり唇を解く。
 大きく胸を上下させ呼吸していると、息を吸うタイミングで唇が重ねられ、今度は酸素だけでなく、清生の舌まで取り込んでしまう。
 目を白黒させて驚くが、相手は特段気にした様子もなく、どころか、うっとりと目を閉ざしがちにしながら、さらに美瑚の口腔へと己を押し込む。
 より密接に、生々しく、互いの粘膜が擦り合わせられていく。
 ものを食べる時に自分の舌が触れるのはどうということもないのに、男の熱くぬめるそれが、歯列の根元や頬の裏側に触れると、訳もわからずぞくぞくした。
 くちゅり、ぴちゃりと濡れた音がして、口端から唾液が垂れる。
 時折、舌が喉の奥まで入り過ぎて嘔吐きそうになったり、歯と歯がぶつかりカチリと鳴ったりしたが、時間とともに違和感やためらいが消えていく。
 清生は、もう美瑚が呼吸する間合いまで理解したようで、苦しげに鼻を鳴らす前に唇を解く。
 だが、キス自体は止めたくないらしく、美瑚が息を吸う間にも、頬やこめかみ、額と、顔のあちこちに唇を押し当てては、腰からうなじまでをゆったりと手で撫でさする。
 そうして後頭部に指を差し込み、流れる手触りを楽しむようにして美瑚の栗毛を揺らす。
(あ、また……)
 ぼんやりする意識の中で気づく。
 どうしてか清生は、美瑚の髪に触れると幸せそうに目を細める。
 男性の中には、女性の髪――それも染めていない黒髪に特別魅力を感じる者がいるのは知っている。
 だけど、美瑚の髪は栗毛だし、病気で短くしていた時期もあるので肩までの長さしかない。
 料亭で庭を見ていたとき、打ち合わせ中にうたた寝したとき。そして今。
 清生は、とても大切な宝物だという風に美瑚の髪に指を絡め、そして切なげな光を瞳に宿す。
 彼のそんな表情を見るたびに美瑚は、恥ずかしくて、うれしくて、でも泣きたいような気分になるのだ。
 美瑚の身体の中で、小さな心臓がきゅっと疼く。
 甘酸っぱい痺れが胸を中心に広がり、手足の先が優しいぬくもりを宿し震える。
 陶然としながら清生を見つめていると、彼は美瑚の肩口に顔を伏せ額を擦り付けてきた。
 少しだけ上がった息を整えている中、清生は肩から首筋と触れるだけのキスを残し、耳元で囁く。
「キスは嫌ではなかった?」
 低く、劣情を帯びた声が鼓膜を震わせた途端、興奮に身体がわなないた。
 先ほどは、触れるのが嫌ではないとはっきり言えたのに、今は答えられそうにない。
 口づけするごとに赤くなる肌や、灯る熱といった変化がはしたなく感じられ、肯定して、いやらしい子だとあきれられるのが少し怖くなってきたのだ。
 子どもを作る。そのための結婚であり、この先もあってしかるべきなのに、少しだけためらいが生じる理由がわからない。
 混乱しながら、理由を探す。
 清生に触れられるのは嫌ではない。キスは心地いい。だけど――。
 先を急かせば、エッチなことが好きな女だとあきれられるのではないかとか、こんな、胸ばかりが大きい子どもの身体で紅潮したり、震えたりするのはおかしいのではないかとか、どうでもいいことばかりが気を悩ませて、うまく言葉を探せない。
 たまらず清生の胸に顔を埋め、美瑚は男の身体を包むバスローブをぎゅっと掴む。
 そうやって、表情を見せないようにしてから、ようやく首を横に振る。
「嫌いじゃない? それとも、嫌いだからもうしないでほしい?」
 本当に嫌なら、腕の中で小さくなってすがりはしない。
 目を潤ませ、額をぐりぐりと清生の胸に押しつけながら、再び頭を振って見せる。
 なのに、どうしても美瑚の口から同意を得たいのか、清生はあやすように髪を梳いたり、手で背を撫でたりしてくれるのに、それ以上先へ進もうとはしない。
 意地悪だ。いくら顔を隠していても、赤くなった耳やうなじで察してくれてもいいのに。
 そんな八つ当たりじみた感想を抱きつつ、美瑚が息を凝らしていると、清生が喉を震わせねだる。
「そんなかわいいそぶりでわからせようとしても無駄です。ちゃんと言葉で伝えてください。……でないと」
「すっ……好きっ」
 ここで終わりにしましょうといわれる気がして、焦り気味に訴える。
 途端、清生が小さく吹き出し、美瑚を抱く腕に力を込める。
「そうですか。好きですか。だったら……もっといろんなところにキスしましょう」
「いろんな、とこ?」
 唇はもちろん、頬や額はわかる。だけど、他に口づけるような場所があるのだろうか。
 思いつかず、美瑚が目を瞬かせれば、耳元で囁いていた清生がちゅっと音を立てて耳朶を吸う。
「んひゃっ……!」
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