異世界トリップしたので美味しいパン作りに
没頭してたら皇帝陛下に溺愛されました
【本体1200円+税】

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●著:熊野まゆ
●イラスト:すがはらりゅう
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4048-7
●発売日:2021/3/30

俺を幸福で満たしてくれるんじゃないのか?

勤め先のパン屋をクビになり、異世界にトリップしてしまったユウナ。彼女を助けたのは、無表情な天才魔道士サイラスだった。そのまま家においてくれるサイラスに、ユウナはこの世界にないメロンパン等の菓子パンを作る。「好きだから興味があって、ぜんぶ知りたい」共同生活を通して惹かれあい、甘く結ばれる二人。だがサイラスが、妾腹とはいえ現皇帝のたった一人の息子で後継ぎだと知り―!?




「あのっ……よかったら私が食事を作ります。だからこの家に置いていただけませんか!? ほかに行くところがないんです」
 異世界トリップ者の前例がないのでは、元の世界へ帰る方法は現時点ではまったくわからない。
「なんだ、家出か」
「家出……ということになりますかね」
 自分の意志ではなく強制的にそうなったわけだが、事実ではある。それにもともと家を出るつもりでいたので大きな問題はない。
 するとサイラスは小難しい顔をして近づいてきた。
「そうだな……体で払うというのなら置いてやらなくもないが?」
 顎を掬われ、くいっと上向けられる。悠菜の顔がぼっと赤くなる。サイラスは本気なのかそうでないのか、表情からは読み取れない。
「いいいっ、いいえ! 料理で恩返しをしますから! 私、パン作りが得意なんです」
「パン?」
 サイラスは悠菜の顎を手放して窓の外を見る。
「それなら地下倉庫の小麦粉が役に立ちそうだ」
「小麦粉!? あるんですか、この家に」
「ああ。家を出て森のほうへ行くと扉がある。階段を下って左手に置いている」
「それ、使わせてもらっても?」
「もちろん」とサイラスが言うなり悠菜は「ありがとうございます!」と、さっそく駆けだした。
「待て、扉には鍵が……」
 しかし走りだした悠菜にサイラスの言葉は届かない。
 ――小麦粉があるなんて! 薄力と強力、どっちもあるといいんだけど。
 家を出てあたりを見まわす、サイラスが言っていたとおり、森の手前に石造りのアーチ扉がある。
 悠菜は扉を押し開けて階段を下り、左へ曲がる。ここは半地下のようだ。天井近くに小窓があり、そこからわずかながら光が射しているので真っ暗ではない。
 それにしても、地下室へ続く扉を押すとき一瞬光ったような気がした。いや、きっと錯覚だ。いまだって、小麦粉が入った無数の袋が宝物のように輝いて見える。
 そして少し息が切れるのは、勢いよく階段を下ったせいだろう。
「こんなにたくさん!」
 サイラスはじつは小麦粉屋だったのだろうかと考えながら物色する。強力も薄力もある。文字が読めるのはおそらくサイラスの魔法のおかげだ。
 両手で持てるだけの小麦粉を胸に抱えて階段を上ると、サイラスが怪訝な顔で扉の前にいた。扉と壁を何度も確かめて「まさか……」と呟いている。
「俺が魔法を施し忘れただけか? あるいは……」
 見つめられている理由がわからず悠菜は首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「この扉の鉄を溶かして壁と結合させることで鍵を掛けていた。だからその結合を切らなければ扉は開かないはずだったんだ」
「でも押したらすぐに開きましたよ?」
「俺が魔法をかけていたとして、それを打ち消す魔法を使えるのは……」
「使えるのは?」
「……いや、なんでもない」
「そこまで言って『なんでもない』はないでしょっ!?」
「いいんだ。気にしないでくれ。きっと俺が魔法をかけ忘れたんだ」
 そうしてサイラスは悠菜が胸に抱えていた小麦粉をすべて掠めとった。
 悠菜は「ありがとうございます」と礼を述べたあと、家へ歩きながら尋ねる。
「あのウシってお乳が出ますか?」
「ああ。乳牛だ。卵はあのトリから採れる」
「そうなんですか! よかった」
 卵と牛乳はパン作りに欠かせない。悠菜は目を輝かせて家へ入り、キッチンを眺める。
「ドライイーストと、それからバターって……あります?」
「バターはアイスハウスに貯蔵しているが、ドライイーストとかいうものはない」
 アイスハウスというのは冷蔵庫のようなものだろうか。ドライイーストがこの家にないのは予想どおりだ。
「そもそもこの世界にドライイーストはあるのかな」
「この世界?」
「あ、いえ……この国に、です」
「そのドライイーストとかいうものがあればパンを作れるのか?」
「材料としてはそうですね。あとはパン窯をどうするか、ですけど……」
 サイラスは「ふむ」という具合に、握りこぶしに顎を載せる。
「まずは材料を揃えなければな。町へ買いにいこう」
「あの、でも私……お金を持ってなくて」
「俺が出そう。きみが作るパンを食べてみたい」
「サ、サイラスさんっ……」
 瞳が潤む。なんていい人なのだ。
「……なんだ」
 そんな悠菜にサイラスは戸惑っているようだった。
「ありがとうございます。私、サイラスさんに満足していただけるようなパンを作りますから!」
「大げさだな」と、サイラスは眉間に皺を寄せて呆れ気味だ。
「町へ行く前に着替えたほうがいい。きみの服がもう乾いているはずだ」
「はい!」
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