エリートドクターの本能執愛
乙女の発情はミダラに癒される
【本体1200円+税】

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●著:当麻咲来
●イラスト:れの子
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4046-3
●発売日:2021/3/30

貴女が俺の運命の番なのか
実験に協力してほしい

男女の他にバース性のある世界。養父母が営むアルファ専用リゾートホテルで働くオメガの六花は、客の男に薬で無理やり発情させられ襲われそうになる。それをホテルの常連客で研究者の柊哉が助けてくれるが、体の疼きが収まらない六花は、以前から憧れていた柊哉に抱いてほしいと懇願し、治療として甘く慰めてもらう。
しかも六花は柊哉と同棲することになって――!?




 気づけば六花は、寮でかき集めた当座の着替えと貴重品だけを持って、柊哉の車に乗っていた。
「あの……どこへ行くんですか?」
「ん? ああ、とりあえず俺の家に行こうと思ってる」
 車に詳しくない六花でも名前を知っている立派な外車を運転しながら、柊哉が答える。抑制剤が効いているとはいえ、六花を今他の人間──特にアルファには会わせたくないということらしい。
(私、この後どうなっちゃうのかな……)
 ヴィラ・アクアフォレはオメガの自分にとって、とても働きやすい職場だった。とはいえ、ヒート誘発剤や、亢進剤などを打たれた上で、勝手にアルファに斡旋されてしまうような環境にはもう戻る気にはなれない。
 できることなら他のオメガの従業員にもその危険を教えてあげたかったが、寮の管理人が六花にずっと見張りのように張り付いていて、よけいな私語は許さなかったし、ホテルに戻って声を掛ける暇もなかった。
 それにきっと、自分自身がそうだったように、オメガに都合のよい勤め先に関する都市伝説じみた話をしたところで信じてはもらえないだろう。ふがいなさに膝の上でこぶしを握る。
(早く次の仕事探さなきゃ……)
 解雇になればもう寮にも戻れない。仕事を探すにも住所がいる。ということはすぐにでも住む場所だけでも見つけないといけない。今までの仕事の給料が入った通帳は持ってきたが、それも養父の手伝いをする程度の給与だったので、貯金は心もとない。
 じわじわと重苦しい現実が胸に押し寄せて来て、うつむいてしまいそうになる。でも……。
(向坂さんが私の自由を守ってくれたんだ。だから頑張って、少しでも早くお金を返さないと)
 車を運転している柊哉の横顔を見上げる。
 密かに憧れていた人と、昨日深い関係を結んでしまった。柊哉が何を考えているのかわからないけれど、少なくとも、今後の話を彼にするべきだと思った。
「あの、向坂様」
「ホテルスタッフじゃないのだから、様つけはいらない。というか、柊哉でいい」
 こちらを振り向くこともなく、彼は端的にそう言い返した。
「わかりました。……柊哉さん。先ほどの小切手の件ですが、私、少しでも早くお金を返したいと思っているんですが……」
 六花がそう言いかけると、柊哉は少しだけ皮肉気な笑みを浮かべた。
「さっき言ったように、俺が好きでやったことだから、貴女に返済義務はない。ああ、念のため先ほど水無瀬オーナーから渡された養育費に関する書面も預からせてもらっていいか?」
「もちろん、それは構いませんが……」
 お金を払ったのは柊哉だ。当然リストを持つ権利もあるだろうと六花が答えると、彼は小さく笑った。
「お金に関しては……そもそも水無瀬さんは、今、仕事も住処も一気になくしたところだろう?」
 残念ながら、彼の言葉に六花は頷かざるを得ない。
「そこで、住居と仕事の件をまとめて解決する提案がひとつあるんだが」
 そんな都合のよいことがあるのだろうか、と思いつつ、六花は運転中の彼の横顔を見つめる。
「──貴女に私の婚約者を演じてほしい」
 突然の言葉に、六花は目を瞬かせた。
「婚約者を演じる?」
 そう繰り返した途端、微かに胸が軋む。
 昨日あんな風になった相手に対して、婚約者を演じてほしいというセリフ自体、性行為は成り行きで、感情の伴うものではなかった、という証でしかない。
(そう……だよね。当然、だよね。だって治療行為だったんだもん……)
 お互いヒートの熱に浮かされただけ。本能に翻弄された一夜を過ごしただけ。
 肌を合わせて、初めてを受け入れてくれたから、六花自身はなんだか特別な相手のように思ってしまっていたけれど、別に柊哉にその責任があるわけでもなく、どちらかと言えば巻き込まれただけだ。
 切ない六花の心中など知らず、柊哉は続ける。
「俺は正直、自分の研究しか興味がない。もちろん好きでもない人間と結婚する気にもなれない。だがいろいろと周囲がうるさくてね。それを黙らせるためにも、仮でも婚約者の存在がいればいいのにとずっと思っていたんだ」
「……恋人役を演じてくれるような人は知り合いにいないんですか?」
 確かに結婚は本人の意思で行うことだが、アルファで優秀な家系であれば、身内から後継ぎを望まれるのはわからなくもない。
「そんな相手がいれば苦労はしない。まあ、ついでに研究の手伝いもしてもらえたら助かる」
 彼の言葉に頭を現実に切り替えた六花は、小さく頷く。
 柊哉は自分を助けてくれた。
 だったらできる限り誠実な対応を自分もしよう、と六花は決意する。
 研究の手伝いというのがよくわからないが、それは追々でいいだろう。
「わかりました。それで少しでもお役に立てるなら」
「ああ、ものすごく助かる。それで水無瀬さんが嫌でなければ、私のマンションで生活してほしい。部屋はたくさんあるし、こちら側の主張する既成事実にもなるしな」
 いきなり同居に誘われて、六花は柊哉の情緒のなさに、本当に自分が彼の恋愛対象外なのだ、と改めて理解して、何だかおかしくなってきた。
「住所不定になってしまったので、部屋を貸してもらえたら助かります。あ、あと、婚約者のふりをするなら、私のことは、六花、と名前で呼んでくれますか?」
 そう言葉を返すと、ちょうど彼は立派なマンションの地下駐車場に車を止めてから、六花の顔を見て笑みを浮かべる。
「確かに婚約者なのに苗字では格好がつかないな。では、六花。これからよろしく頼む」
 差し出された手は大きくて温かい。昨日何度も六花に触れて、深い官能まで導いた手だ。恥ずかしかったけれど頼りになって、優しくて。
 六花は複雑な気持ちのまま、偽りの婚約者としてその手を取って、握手を交わす。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
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