人生リセットされた令嬢の運命は破滅から溺愛に書き換わるのか?
私の王様
【本体1200円+税】

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●著:火崎勇
●イラスト:旭炬
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4057-9
●発売日:2021/6/30

私も我慢の限界だ。存分に愛させてくれ

事故で死んだ兄に代わり、男装して第二王子ディアスに仕えていたティアーナは、主を庇い命を落とすが、何故か時間が巻き戻り、兄を救って令嬢としての生を送り始める。前世と違いディアスの信頼を得られぬまま、彼に迫る危険を知らせ助けようとするティアーナ。「お前の望みは何だ?正直に言ってみろ」疑念をぶつけてくるディアスに真実を言えない内に、前世でのティアーナが死んだ時が近付き!?




「そこで何をしている」
 突然、背後から咎める声。
 この声……。
 振り向かなくてもわかる。
 会いたくて、会いたくて仕方がなかった人、私の人生のすべてを捧げた人。
 ディアス様の声だ。
 喜びと驚きで身体が硬直し、動けないでいると、足音が近づいてきた。
「何をしているのかと聞いている。こちらを向け」
 私はゆっくりと振り向いた。
 また強い風が吹いて、私の髪を靡かせる。
 銀の糸のように流れる自分の髪の向こうに、思い描き続けた人の姿。
 記憶の中よりも少し前髪が長い気がするけれど、変わらない黒い髪、深い青の瞳。整った眉と眦が上がっているせいできつく見える顔立ち。瞳を縁取る長い睫毛と薄く大きな唇。シャープな顎。
 ああ、ディアス様。
「もう一度尋ねるぞ。そこで何をしている」
 彼の声に私は意識を戻した。
 いけない。ここでは私は初めて会った見ず知らずの娘なのだ。
「失礼いたしました。殿下のお姿に驚き、礼を欠いてしまいましたこと、おわび致します」
 マナーに則って、深く頭を垂れる。
「庭を散策しておりましたところ、風が強くなりましたので、雲が行き過ぎるまで暖を取るために温室で休ませていただこうと思っておりました」
「風か……。確かに強くなったな」
 彼は空を見上げた。
 どんな動きも、忘れないように見ておこう。
 こんなに近くでお姿を拝見できるのは最後かもしれない。
 二人ではよく来ていたが、彼は最初この場所を敬遠していた。王妃様を思い出すのがお辛かったからだろう。足を運ぶようになったのは、私がここを整えるように命じてからだ。
 さっき足を踏み入れた時、手入れはされているが、整えられてはいなかったので、彼とここで再会することは考えていなかった。
「ここがどういう場所だか知っているのか?」
「はい。王妃様の花園でございます」
「わかっていて来たのか」
「庭園は自由に散策できると伺っておりましたし、入口に衛兵の姿もございませんでしたので」
「……ここは、忘れ去られた場所だからな」
 そう言う彼の声は少し寂しげだった。
「それでも、とても素敵な場所です。陛下の愛情のわかる」
「愛情がわかる?」
 彼の唇が歪むように笑みを作る。
「初めて足を踏み入れたお前に何がわかるというのだ。それとも、何度か来ているのか? いや、それにしても、お前ごときにわかるとはどういう意味だ?」
 フレディだった私には向けられなかった冷たい言葉。
 いいえ、出会った頃はこうだったわ。
 誰も信用しない、自分から何を引き出そうというのかと疑う態度。
「王妃様は西のザクセンのご出身と伺っております。庭園の入口には、今は花をつけておりませんがザクセンでよく見られるムラサキ菊が植えられておりました。ムラサキ菊は野草、本来ならば王城の庭園に植えられるようなものではございません。それに、ベンチの置かれた栗の木も、西の方に多い種類です。陛下が王妃様のお心が安らぐよう、取り寄せたものだと思いました」
「そう……、なのか?」
 前の時も、彼はそのことに気づいていなかった。
 私がそれを伝えると、とても喜んでいた。
 でも今回は、喜んでいたとしても、私の前でそれを見せるようなことはしない。
「私も詳しくはございませんが、庭師に訊けばもっと詳しく説明してくださるでしょう。ただ……」
「ただ? ただ、何だ」
「はい。失礼を承知で言わせていただければ、お庭を整えるように命じた方がよろしいかと」
「十分に整っているだろう」
「いいえ。枯れないように手入れはされていますが、整ってはおりません。想像ではございますが、あちらのバラはもっと枝を刈り込んでいたのではないでしょうか? ドレスを着た王妃様が歩きやすいように、通路はもっと広く取られていたと思います。木々も、枝が伸び過ぎていて、日当たりが悪くなっているように見えます」
「お前は庭師の娘のようだな」
「……失礼いたしました」
 口を出し過ぎたかしら。
 でも、美しく整えられれば、きっとここは彼の安らぎの場所になる。
 できればそうしてあげたい。
 その時、また強い風が吹いて私の髪を乱した。
「失礼いたしました」
 御前に乱れた姿を見せたことを謝罪し、慌てて髪をおさえる。フレディのときに髪を結ったことがなかったので、つい長く垂らしたままにしていたのだ。
「……母の庭への提言に対する褒美として、温室に入ることを許そう。風はまだ止みそうもないからな」
「ありがとうございます」
「風が止んだら、早々に立ち去るのだぞ」
「はい」

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