推しさえいればよかった私が憑いてるスパダリ御曹司と結婚した件
【本体1200円+税】

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●著:猫屋ちゃき
●イラスト:獅童ありす
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4059-3
●発売日:2021/7/30

好きだよ。出会ったときから、ずっと好きだ。

魑魅魍魎を遠ざける能力があるまゆりは、憑かれやすい体質のホテルグループの御曹司、一ノ瀬拓真に頼みこまれて契約結婚をした。「僕を見て。見つめ合ってイキたい」大好きなイケメン舞台俳優の推し活さえできれば良かった人生なのに、趣味を受け止めて一緒に楽しんでくれる拓真の溺愛に身も心も蕩かされ、本当に彼に惹かれてしまって!?




「おかえりなさい、拓真さん……大丈夫?」
 玄関へ行くと、そこにはうずくまり今にも倒れそうな拓真の姿があった。しかも、人型に見える黒い靄を背後に貼り付け、ものすごい香水の匂いをまとっている。
「まゆりさん、ただいま……」
「女ですか? 誰か、変な女に遭遇したんじゃないですか?」
 背後の靄は女のような形をとっているし、香ってくる香水はあきらかに女物だ。それがわかると猛烈に嫌な気分になって、まゆりはぐったりする拓真の脇に手を入れ、とりあえず立たせようとした。
「拓真さん、これを引き剥がさないとたぶんずっと体がきついままですよ。お風呂に入りましょ」
「うん……わかった」
 肩を貸してもひとりでは入れそうにないから、まゆりは仕方なくバスルームまで付き添った。まゆりにもたれかかり何とか立っているだけの拓真には、服を脱ぐことは難しそうだ。
「ごめんなさい、脱がせますね」
 一応は夫婦とはいえ、服を脱がせるなんて本当はすごく恥ずかしい。だが、ここで恥らっていてもどうにもならないから、まゆりは覚悟を決めてジャケットを脱がせ、シャツのボタンに手をかけた。
「あの……スラックスと下着は、自分で脱げますか?」
 シャツを脱がせ、肌着も脱がせ、上半身を裸にしてしまうと、まゆりはどうしたものかと困ってしまった。ベルトを外してスラックスを脱がせるなんて生々しすぎるし、さらにその先の下着を脱がせるのはもっと恥ずかしかった。だが、拓真は眉根を寄せ目尻を下げた弱々しい表情で首を振る。
「……まゆりさん、脱がせて」
「え」
「お風呂にも、一緒に入ってほしい。……この重たいやつを、追い払ってほしいんだ」
「え……うぅ」
 切ない顔をして言われると、とても断りづらかった。「顔がいいの、ずるい」という言葉を呑み込んで、まゆりは拓真の服を脱がせる。
 一度は裸を見せ合った仲だし――そんなことを考えて大人として覚悟を決めたものの、下着に手をかけるのには勇気がいった。それでも、何とか裸にすることができた。
「まゆりさん、何してるの?」
「何してるって、拓真さんをお風呂に入れるんですけど……」
「まゆりさんも脱がなきゃ。服着てお風呂には入れないでしょ」
「えっ」
 濡れてもあとで着替えればいいやと思って着衣のまま拓真をバスルームに押し込もうとすると、するりとバンザイをさせられ、ルームウェアごと下着を剥ぎ取られてしまった。寝るだけだと思ってナイトブラを身に着けていたため、脱がせやすかったのがいけない。
「や、やめてやめて……パンツは自分で脱ぐから」
「心配しなくても、上手に脱がせてあげられるのに」
 涼しい顔をして言うのを聞いて、もしかして脱がせてほしいというのは演技だったのではないかと思ったが、よく見ると顔に冷や汗をかき、まだ苦しそうだ。恥ずかしがっていても埒があかないと、まゆりは思いきって下も脱いで拓真と共にバスルームに入った。
「……早く、拓真さんから離れて。こういうの、どうやったらいいんだろう……」
 シャワーで流しながら背中を擦ってみたが、靄のようなものはなかなかいなくならない。これまで大抵のものがまゆりが近づくだけで逃げ出していたため、対処法がわからない。せめてこの鼻が曲がりそうなほどの強烈な香水の匂いは落としたいと、シャワージェルをつけて拓真の体をゴシゴシ洗ってみる。
「まゆりさん、こっちを向いて」
「え……んぅっ」
 呼ばれて拓真のほうを見ると、唐突に口づけられた。軽く唇を合わせるキスではなく、いきなり舌を絡めてくるキスだ。驚いて逃れようとするまゆりを捕まえ、腕の中に抱き留めてしまう。捕まえられ、腕に閉じ込められたまゆりは、なすすべなく口内を弄られた。
「……僕が既婚者だってわかってるのに、猛アプローチしてきた女性がいたんだ。その人の念なんだ、これ。だから見せつけないと」
「ひゃっ……あ、んん……ぃやぁ……」
 唇を解放されると今度は泡を塗り広げるように素肌に触れられ、まゆりは身をよじった。自分で体を洗ってもくすぐったくなどないのに、拓真にされると呼吸が乱れてしまうし、じっとしていられなくなる。
「たくまさ、ん……お風呂じゃ、だめ……」
「すぐ済むから……ごめんね」
「んんっ……」
 くすぐったさから逃れようと身をよじって訴えると、また唇を塞がれてしまった。そしてギュッと抱きしめられ、体を押しつけられる。
 そうやって密着して動かれると、拓真のものが高ぶっているのがわかる。その高ぶりを鎮めるために動いているのだと理解すると、恥ずかしさと興奮で、まゆりの体は熱くなった。
 自分の体で拓真が欲情しているのだと思うと、どうしようもなくゾクゾクする。こんな状況なのに、彼に求められていることが嬉しくて、応えてあげたくなってしまう。
「……拓真さん、イキたいんですか?」
 口づけの合間にまゆりは尋ねた。答えを聞く前に、その手は彼の屹立へと伸びている。
「うん……一度出してしまえば、憑いてるものも取れるかなって……うっ……」
「……お手伝いしますね」
 まゆりは何度か手で擦りあげてから、彼の前に屈んだ。そして、それを口に含む。
「あっ……」
 先端に舌を這わせただけで、拓真が小さく声をあげた。自分の行為で彼が感じたのだとわかると、何だか愛しくなって気合いが入る。
 拓真との前回の行為はされるがままだったし、恋人がいたのは三年前のことだ。かなり久しぶりの口での愛撫がうまくいくか自信がなかったが、感じてくれているのがわかると嬉しくなる。
 先端を舌で愛撫しながら、口に入り切らない部分を手で擦りあげる。最初はシャワージェルの泡でヌルヌルしていたのだろうが、そのうちにまゆりの滴った唾液も混じり合い、卑猥な音がするようになっていった。
「まゆりさん……もう……」
 擦りあげるうちに、拓真が苦しげな声をあげ、彼の腰も彼自身もぴくりと跳ねた。果てが近いのがわかって、まゆりはぐっと口の奥まで咥えこんだ。舌を添えるようにして何度か頭を大きく動かすと、くぐもった声を漏らして拓真は達した。口に含んだ肉茎が大きく震え、熱い飛沫が放たれる。その勢いがあまりにも激しくて、まゆりはむせかけてそのまま呑み込んでしまった。
「ああ……まゆりさん……!」
 彼の欲を飲み干したことに感激したのか、拓真が荒々しく抱きしめてきた。彼の欲情に触発されるように高ぶったまゆりは、その背に腕を回して抱きしめ返す。
 拓真は一度達したものの、まゆりは熱をくすぶらせたままだ。それに、一度果てたくらいで欲は鎮まらない。二人は抱き合って、口づけて、夢中になって体を洗い合ってからタオルで拭くのもおざなりにして寝室になだれ込んだ。
「……猛アプローチしてきた女性って、誰なんですか」
 拓真をベッドに組み敷いて、まゆりは尋ねる。靄はほとんどいなくなったが、まだ鼻の奥にあの不愉快な香水の匂いが残っている気がする。本当に香りが残っているのか、それとも神経質になりすぎているのか、わからないが面白くない。だから、香りの主にわからせてやりたくなる。
 拓真の妻は自分だ、と。そこに微妙な事情はあるものの、世間に対して正式に妻だと主張できる立場にある。だから、想いを寄せることもこんなふうに念を飛ばすことも許すわけにはいかない。
「新しく配属されてきた部下なんだけど……本社から来たっていう、タイミングも目的も、よくわからない人事で……」
「……薬指の指輪、見えないんですかね」
 うまく言語化できないものの、何となく誰かに邪魔されているのだとわかった。まゆりとの結婚を面白くないと思っている誰かが、拓真を誘惑しようとその女性を差し向けてきたのではないかと、そんな気がしてくる。  
 ただ一緒に暮らすだけで、夫婦らしいことはしなくていいと言われた結婚だったのに。同じ家に暮らして毎日顔を合わせるうちに、情が湧いてしまった。体を重ねたら、心を許してしまった。
 これが恋なのかどうかまだわからないけれど、拓真のことは助けてあげたいと思っている。気の毒な体質の彼が自分と一緒にいることで救われるなら、体を重ねることで怖いものから守られるなら、時々この身を差し出してもいいと思っている。
 だから、こんなふうに彼を狙うものがいるのが許せない。こんなふうに苦しめられて、黙っているわけにはいかない。
「……さっさと追い払って、二度と憑けないようにしないと」
 そう言って、まゆりは拓真の肌に口づけた。皮膚の上から血管を、筋肉の筋をなぞるみたいに舌を這わせる。首筋から鎖骨、鎖骨から胸元へと、移動させていく。
 どうすれば、拓真はまゆりのものだと周囲にアピールできるだろうか――そんなことを考えると、途端に甘噛みしたくなった。歯を立てる、跡をつける――キスマークをつけたらいいのだと思いついて、今度は強めに吸いついてみた。
「……まゆりさん、何を……?」
「キスマーク、つけようと思って。……お守りです」
 言い訳を含んでいるものの、真剣に考えたことだ。交わりによって拓真から魑魅魍魎を遠ざけることができるのなら、キスマークももしかしたら有効かもしれないと。

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