神さまの嫁にはなりません!
守り神と美貌の侯爵にめちゃくちゃ愛されてます
【本体1200円+税】

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●著:クレイン
●イラスト:サマミヤアカザ
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4062-3
●発売日:2021/8/30

願いを叶えるよ。君は僕の大切な花嫁だからね

二十歳まで処女だと神の嫁にされてしまう家系の貧乏令嬢・八重子は、婚活で参加した舞踏会で侯爵・要を射止めてしまう。実は要は重度の霊媒体質で、八重子に憑いた神のおかげで彼女の周りでなら清浄な空気で過ごせるらしい。
「期限直前に八重子の処女を貰う」という約束で二人は結婚するが、ある事件で神が要の中に!神からも要からも代わる代わる愛されて八重子は!?




「けれど君がそばにいてくれれば、死霊は寄ってこない。だから私は、君と結婚したいんだ」
 やはり清々しいまでに利己的な理由で、八重子は彼から結婚を申し込まれたらしい。
 もちろん一目惚れされた、などと烏滸がましいことを考えたわけではないが、それでも若干寂しいものはある。
 きっと彼は今、八重子に憑いた神のおかげで、平穏な時を過ごしているのだろう。
 だが、これで八重子の心は決まった。やはりこの求婚を受けるわけにはいかない。
「申し訳ございませんが、求婚はお断りさせてください。……私はあなたに望みのものを差し出すことができません」
 八重子がきっぱりと断れば、要の顔が悲痛に歪む。
 要を哀れに思う。きっと彼には、八重子がまるで救いの手のように見えたのだろう。
 だが残念ながらこの神は、彼の望むようにずっと八重子の元にいるわけではない。
「先ほど、我が家の結婚前の娘たちは神に取り憑かれる、と申し上げましたね。つまり結婚をしてしまえば、神は私の元から離れてしまいます」
 そして、神がいなくなれば、要の望む効果は得られなくなるだろう。
 八重子の話に衝撃を受けたのか、要の顔が歪む。
「……では、妻ではなく友人としてずっと側にいてもらうことは……」
「申し訳ございません。それもできないのです。私、二十歳までに結婚しないと『神の嫁』にされてしまうので……」
『神の嫁』になるということは、おそらく人ではなくなるということで。
 つまりそれは、『人』としての『死』である可能性が高いと八重子は考えていた。
 それを聞いた要の眉間に、くっきりと不快げな皺が寄る。そして八重子の背後を睨みつけた。おそらく神に対し怒っているのだろう。
「なぜ、そんなことになるんだ?」
「原因も由来もよくわかりません。ただそれゆえに我が家の娘は二十歳になる前までに、必ず嫁に行くようにと言われています」
 だから時限の迫ってきた自分もまた、慌てて夫を探そうとしていたのだと八重子は白状した。
「おそらく二十歳になる前に、お、処女(おとめ)でなくなれば、神様から解放されるのだと思います……」
 若い男性の前でその単語を口にすることは、なかなかに難しかった。羞恥で八重子は真っ赤な顔をして俯く。
 条件だけならば、相手は夫である必要はないのかもしれない。
 だが嫁入り前の貞淑な娘には、非常に抵抗がある。だからそれは、本当に最後の手段だと考えている。
 多少の打算はあれど、ちゃんと夫となる人に、純潔は捧げたいのだ。
「……それにしても、こうして要様の目に映るのだから、本当に私には神様が憑いているのですね」
 心のどこかで、ただの迷信であってほしいと願っていた。
 だがこうして要の目に映る以上、残念ながら、『神の嫁』の呪いは真実なのだろう。
「ですので、申し訳ございませんが今回のお話はなかったことに────」
「なるほど。では、やはり私と結婚してくれ」
 八重子の断りの言葉を遮るように、要はもう一度求婚してきた。理由がわからず、八重子は首を傾げる。
「あの、私の話を聞いておられましたか?」
「ああ。八重子さん。失礼だが君の年齢は?」
「ええと、今年で十七になりました」
「つまり、時限である二十歳まではまだ二年と少しある、ということでいいね?」 
 確かにそうなので、八重子は頷いてみせた。
「ならば時限までの二年間で構わない。その時間を私にくれないか……?」
「え……?」
 要がもう一度八重子の手を強く握り、自らの額に戴く。
「二年間だけでも、人ならざるものが見えない、そして襲われない普通の人間のような生活を送ってみたいんだ。もちろん時限がきたら、君を抱く。そしてちゃんと神から解放する」
「ひ、ひゃい!」
 突然生々しいことを言われ、純情な八重子は動揺し、奇声を上げてしまう。
「君の実家への援助は惜しまない。もちろん結納金も出す。君自身の将来についても、できる限りの保証をしよう」
 たった二年間の結婚生活で、これだけのものが手に入るのだ。悪い話ではない。八重子は強かに頭を巡らせる。
「ええと、つまり二年後に神から解放されれば、私は要様に離縁されるということですね?」
 そして要は新しく、きちんと身分の釣り合った妻を娶るという筋書きだろう。
 八重子には離縁された妻、という不名誉な事実が残ることになるが、それにしたって悪くない。
 なんせ八重子には、もとより結婚する気はなかったのだから。
「いや、それについては正直なところどちらでもいい。離縁しても良いし、そのまま婚姻を継続してくれても構わない」
「え? そうなんですか?」
「ああ、我が西院家の当主は代々短命だ。だから婚姻関係を続けても、どうせ遠くない未来に君は未亡人になる」
 ひゅっと思わず八重子は音を立てて息を呑み込んだ。そんな彼女の顔を見て、要は困ったように笑う。
「……おそらく、この能力のせいなのだろうな。父は三十歳になる手前で狂い死んだし、祖父はもっと若く、二十代半ばで亡くなったという。家系図を辿ってみても、三十路を超えて生きていた当主は一人もいない」
 自分に残された時間について、要は淡々と話す。だが本当はこれまで彼の中で、多くの葛藤があったことだろう。若くして自分の人生の終わりを突きつけられるなど。
「私もどうせ、数年のうちに死ぬだろう。だったら離縁された妻よりも、未亡人の方が名目上まだましな気がしないか?」
 そんなことを戯けたように言う要が酷く痛々しい。胸が締め付けられ、堪えきれず、とうとう八重子の両目から涙がこぼれ落ちた。
「なんで、そんな……」
 ぼろぼろと落ちる八重子の涙を、なぜか要は嬉しそうに眺めている。
 それから「人に同情してもらえるのって、なんか良いな」などと言うから、八重子は余計に泣いた。
 ────なんて寂しい人なのだろう。未来を夢見ることすらできないなんて。
「こんな呪われた家、とっとと断絶してしまえばいいと思った。……だから本当は、結婚なんてするつもりはなかったんだ」
 そんな息子の考えを、母も気付いているのだろう。だからこそ降って湧いた息子の結婚話に、あれほどにも喜び、そして急いているのだ。
 ────要が死ぬ前に、要が考えを改める前にと。
 残された息子の時間を、少しでも夢のあるものにするために。
「……でも君となら、いいな。死ぬまでの日々を、楽しく過ごせそうだ」
 そんな要の言葉に、さらに滂沱の涙を流し、八重子は覚悟を決めた。
 色々と問題は山積みではあるが、そんなものは、足元から一つずつ片付けていけばいいのだ。
 八重子は、基本的に前向きで、楽観的な性格であった。
 手の甲で両目の涙をぐいっと拭うと、八重子は真っ直ぐに要の目を見返す。
「わかりました。あなたの妻になります」
 求婚を受け入れられた要は、嬉しそうに笑う。
 この人の残された日々を、少しでも彩ってあげたい。八重子はそう強く思う。

「……そして私があなたを看取ります。あなたが死ぬまで側にいます」

 その時が来たら、彼が寂しくないように、その手を握ろう。
 八重子の言葉に、要は呆気にとられる。それから噴き出して、声を上げて笑った。
「あはははっ……! うん。やはり君がいいな」
 手が伸ばされ、要の大きな手のひらが、八重子の頬を撫でた。
 それから笑いすぎて涙で滲んだ綺麗な切れ長の瞳が、八重子に近づいてくる。
 一瞬ながら、ふわりと温かくて柔らかなものが、八重子の唇に重なった。


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