●著:しみず水都
●イラスト:氷堂れん
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4075-3
●発売日:2022/1/28
今宵もあなたと子作りができて幸せだ
神のお告げにより聖痕を持つ聖女として王太子に嫁ぐことになった男爵令嬢エリシア。王太子フランツは聖女を妃とできればそれで十分という態度だったが、反発するエリシアと言葉を交わすうち意気投合して子作りに積極的になる。「いい感度だ。声もかわいい」美貌の王子に優しく愛され、義務感だけでなくフランツに惹かれていくエリシアだが、後継ぎを産んだら自分は用無しだという不安が拭えず――!?
王太子の寝室は、彼が執務をしていた居間の奥にあった。普段は謁見の間に近い執務室で国政関係の仕事をしているが、今日は聖女が来ると聞いていたので居間にいたという。
寝室には、天蓋に囲まれた大きなベッドが中央に設えてあった。天蓋の隙間から、光沢のある布地に繊細な刺繍が施された寝具が見えている。
(こんなに急にするなんて……)
エリシアは困惑している。
フランツと話し合い、お互い納得したとはいえ、まだ王宮に着いて間もない。心身ともに準備などできていなかった。
ベッドサイドでフランツと向かい合わせに立っている。エリシアよりフランツは頭一つぶんくらい背が高い。
「あの……ちょ……」
せめて心の準備ができるまで待ってほしいと言おうとしたエリシアに、フランツの手が近づいてくる。節のない綺麗な指だ。
「この髪、染めているのか」
フランツが問いかけながら、サイドを編み込み後ろに長く垂らしたエリシアの髪に触れる。
「いいえ……」
地の色だと小声で答えた。自分の赤みがかった金髪に、エリシアは劣等感を持っている。
(変な色だと思っているのかしら)
フランツはエリシアの髪をじっと見つめたままだ。
(すごく綺麗なお顔……)
近くで見ると、改めてフランツの美しさを実感する。あまりの美貌にエリシアが圧倒されていると……。
「かわいらしい色だね」
フランツが笑みを浮かべて言った。
「か……かわいい?」
(からかっているの?)
男爵家ではずっと、姉のようなプラチナブロンドでなくて残念だねと言われていた。自分もそうだと、幼い頃から思っていたのである。
「あなたにとても似合っている」
言いながらフランツはエリシアの頭に顔を寄せてきた。
「ストロベリーブロンドは私の好みだ」
エリシアの髪にそっと口づける。
(似合っている? こ……好み?)
そんなことを言われたのは初めてである。しかも相手は完璧な美貌を持つ若い男性で、髪に口づけされるのも初めてだ。
驚きと恥ずかしさでエリシアが固まっていると、頭上にあった彼の顔が下がってきた。
「耳は髪より赤いね」
くすっと笑われる。
この場面で顔や耳が赤くならないわけがない。
「か、からかわないで……」
やっぱりそうだったのかとエリシアはフランツを睨んだ。
「からかってはいないよ。かわいがっているんだ。もしかして、初めて?」
(何が初めてなの? 髪が似合っていて好みだと言われたこと? それとも……子作りのこと?)
どれであっても初めてなのは確かなので、エリシアはこくりとうなずいた。
「うん、わかった……赤い耳、美味しそうだね」
ぺろりと耳朶を舐められる。
「ひゃ……う」
くすぐったさに声が出て、エリシアは肩をすくませた。
「声もかわいい。もっと聞きたいけれど、唇もかわいいから……」
フランツの顔がエリシアの顔に迫ってくる。
「あ……あの……んんんんっ」
待ってという間もなく、彼の唇にエリシアの唇は奪われてしまった。
(……う……そ)
彼の形のいい唇が自分の唇と触れ合っている。その事実に、エリシアの頭の中が混乱した。
昨日王太子妃になれと言われて、今日は王宮に連れて来られて、初めて会った王太子のフランツは恐いけれどすごく美麗で……。
そんな相手と自分は今、子作りのために寝室で口づけをしている。
エリシアにとって初めての口づけだ。
(ああ……唇が……熱い)
くらくらして立っていられない。
「おっと……」
身体の力が抜けたエリシアを、フランツが慌てて支えてくれた。
唇が外れてほっとしたが……。
(なんか、これ以上は……無理……っ!)
止めてもらおうと目を開いたところ、エリシアのドレスが肩からズルリと外れた。
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