花嫁候補はお断りです!
エリート御曹司はワケありママをまるごと溺愛中♡
【本体1200円+税】

amazonで購入

●著:高峰あいす
●イラスト:芦原モカ
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4078-4
●発売日:2022/2/28

君と添い遂げたいんだ
結婚してほしい

とある事情から姪を自分の子として育てるOLの真結。突然会社が倒産し再就職先を探していたところ住み込みの家庭教師の職を紹介される。超好待遇だけど、その仕事には有名グループ・月舘の御曹司の妾探しという裏の顔があるらしい。姪のためその仕事を受けたものの月舘家の旧体制的なしきたりに戸惑う真結だけど「この慣習は私の代で止める」と話す御曹司・義直に惹かれていき!?




「あーっ、もう最低」
 前日の義直との会話を思い出し、真結は苛立ちを隠せない。
 八つ当たりのように洗濯物を叩き、ハンガーに掛けていく。
 昨夜の言動は、どう考えても真結を馬鹿にしているようにしか聞こえなかった。いくら雇い主とはいえ、あの言い方はないと思う。
「そりゃセクハラやパワハラとは違うけど。なにあの上から目線は! ちょっと格好いいからって、何様よ!」
「申し訳ない」
「謝って済む事じゃ……って、月館さん?」
 いきなり背後から声が聞こえて、真結は飛び上がらんばかりに驚いた。振り返るとそこには、叱られた大型犬のような義直が所在なく立っていた。
「昨日の謝罪をと思って、部屋に行ったのだけれどいなかったから。庭に回ってみたんだ。盗み聞きしていたわけじゃない」
「いえ、あの。はい」
 気まずい空気に、真結はしどろもどろになる。確実にあの愚痴は、義直に全て聞かれていた。
「その、よければ謝罪も兼ねて、一緒に食事をしたいのだけれど」
「──一介の家庭教師に、そんな気を遣って頂かなくて、大丈夫です。それに月館さんが謝るべきは、妹さんの方じゃないですか?」
「勿論、裕佳梨にも謝ったよ。その上で、妹から『真結さんに余計な気を遣わせた兄さんが悪い』と叱られてしまってね。言葉だけではなく、行動で謝罪するべきと言われて、私なりに考えたのだけれど……」
 裕佳梨が関わっていると知り、真結も強く出られない。
 正直なところ、裕佳梨とは気が合うしできれば大学受験まではサポートを続けたいと思っている。彼女の善意を無視するようなことは、避けるべきではないだろうか。
「じゃあ、美琴も一緒でしたら……」
「そうかい。なら早速手配しよう」
 上機嫌で頷く義直を前に、真結は困惑する。
 もしも真結に手を出そうと狙っているつもりなら、美琴を同伴すると言えばいい顔はしないはずだ。これまで義直から積極的なアプローチをかけられていないから、お妾に興味がないというのは本当だろう。
 けれど本人の申告を素直に受け止められるほど、真結は純粋ではない。
 一人悶々とする真結の横で、ぽん、と義直が手を打つ。
「そうだ、折角だからグランピングにしよう。先月、月館グループのホテル部門が新しくオープンさせた施設が都内にあるんだ。小さい子がいる家族向けがコンセプトだから、美琴ちゃんも楽しめると思うし、藤村さんも勉強になるんじゃないかな」
「え、どうしてそれを……?」
『勉強』とは、恐らく真結が知育玩具の会社を作りたいという目標に絡めての事だろう。
 しかし何故彼が自分の野望を知っているのか分からず、真結は首を傾げた。
「裕佳梨から、あなたが起業を目指してると聞いたんだ」
(ちょっと裕佳梨さん。いくら仲良し兄妹でも喋りすぎよ!)
「母親視点での意見も聞きたいのだけど、どうかな?」
 そう言われて、真結は考え込む。
 美琴と親子だと偽っている以上、過剰に遠慮をしても疑われる可能性が高くなるだけだ。
 ただ、不安もある。
「グランピングですか」
 つまり、泊まりがけになるという事だ。
 流石に警戒するが、義直は楽しそうにあれこれと説明を始める。
「家族で遊べる場所は勿論、両親だけで寛げる時間を持てるように保育士も常駐しているんだ。ここが上手くいけば、全国展開も考えていてね。外部からの意見が欲しいんだ」
 本質的に、義直は仕事を楽しむタイプの性格らしい。生き生きと語る彼に、真結は好感を覚える。
(まさか美琴がいるのに、変な真似はしないわよね)
 何だか水を差すのも申し訳ないほどに義直が楽しげなので、真結は諦めて彼の申し出を受け入れることにした。



 そして、当日。
『一泊だから、手ぶらでいいよ』と言われ、最低限必要なスマホや着替えだけをリュックに詰めると、義直の運転で月館邸を出る。
 グランピングと言われても少し高級なキャンプという認識しかなかったので、真結はジーンズにパーカーという出で立ちだ。美琴も動きやすいように、Tシャツにサロペットを着せてある。
 見送りに出た吉岡達の笑顔が気になっていたけれど、訂正したところで適当に流されるに決まっている。もしこんな小旅行をあの桃香に知られたら、今度こそ殴られるだろう。
 美琴は初めて座るチャイルドシートに落ち着かない様子だったけれど、程なく慣れてぬいぐるみを抱いたまま寝息を立て始めた。
「すみません。運転までしてもらって」
 後部座席にセットしたチャイルドシートの隣に座った真結は、運転席の義直に声をかける。
「気にしないで。私も気分転換になるから、丁度よかった」
 てっきり専属の運転手が送ってくれると思っていたので、次期当主直々の運転に恐縮してしまう。
「藤村さんは、運転はするの?」
「免許はあるんですけど、ペーパーです」
「そうなんだ。じゃあ次に出かけるときも、私が運転していいかな?」
(次があるの? いや、それはマズイでしょ)
 彼の物言いに、真結は引っかかりを覚える。そもそも、初日に桃香から突っかかられた際も、彼の対応は婚約者に対するそれとは思えなかった。
「あの……婚約者を差し置いて、いいんですか?」
「三崎さんは、私の正式な婚約者ではないよ。結納も交わしていないんだ」
「そうなんですか?」
 なのにあれだけ堂々とした態度を取れる桃香は、ある意味すごいと思う。
 とはいえ、月館家に出入りしているのだから、周囲からは『婚約者』として見なされていると考えるべきだ。いくら真結が義直に気に入られ『お妾候補』になったとしても、桃香を蔑ろにしていいわけがない。
(そもそも私はそのつもりがないんだし……やっぱり断ればよかった)
 小さくため息を吐くと、ハンドルを握る義直がぽつりと呟く。
「巻き込んでしまって、申し訳ない」
「いえ、それは承知の上で応募しましたから」
 与田達から『お妾候補』として扱われる事に、不満はある。けれどお給料につられて応募したのだし、事前に柳瀬からも説明を受けている。
 何を言われようと気にせず、家庭教師としての仕事を勤め上げればいいだけだ。裕佳梨が無事に受験を終えれば、あとは素知らぬ顔で給料を貰い月館家から逃げれば任務完了だ。
「……親戚が勝手に勧めた縁談なんだ。彼女も私の事を好きなわけではないと思うよ」
「え?」
 意外な言葉に、真結は思わず聞き返す。
 後ろからなので、義直の表情はよく分からない。
「私が月館の跡継ぎという事は、皆が知っている。昔から約束されていたからね。だから私の周囲には、私個人ではなく『月館家』との繋がりを求めて人が集まるんだ」
 彼が何を言いたいのか、察せられないほど真結は鈍感ではない。
(この人、寂しいんだ)
 真結からすれば、月館家の御曹司なんて何の不自由もなく生きていける別世界の人間だ。今回のような偶然が重ならなければ、出会うこともなかっただろう。
「あの、ですね。私なんかが言うのもおこがましいですが……愚痴くらいなら聞きますよ? どうせ仕事が終われば、月館家とは何の関係もなくなりますし。週刊誌とかに情報を売ることもしません。お約束します。あ、これに関しては契約書を交わしてるので、心配なら吉岡さんに確認してください」
 かなり真面目に言ったのだけれど、義直が笑い始める。
「君は……面白い人だ」
「どういう意味ですか? そりゃあ、一般人が月館家の内情を聞いてもさっぱり分からないと思います。けど、お腹に溜まってるものがあるなら、口に出した方が楽になりますよ。童話でもあるじゃないですか。王様の耳はロバの耳って。私を地面に開いた穴だと思ってください」
 言葉を重ねる真結に、こらえきれないといった様子で義直が噴き出す。
「あはは……! 藤村さん。君がきてくれてよかった。裕佳梨が信頼する気持ちが分かるよ」
 話せば話すほど、何故か義直が上機嫌になっていく。
 何か真結が釈然としないまま、車は湾岸エリアで高速を降り、最近開発された地区へと入る。高層マンションが立ち並ぶ一角を抜けると、そこには広大な森林公園が広がっていた。
「着いたよ。この周辺は、全て観光と住宅開発部が共同して町作りをしている地区なんだ。住居区やオフィスも、あのビルに入る」
 車を降りて義直の示す方へ目を向けると、ほぼ完成しているビルが数棟建っていた。
(この周辺が、全部ツキダテの所有……ここまで来ると驚きを通り越して、どうでもよくなるわね)
 結局のところ、真結からすれば別世界の話だ。
 こうして彼の気紛れで小旅行に連れて来られたのも二度と経験することがないのだから楽しんでしまえと気持ちを切り替えようとする。
 初夏の日差しが木々を照らし、心地よい風が吹き抜ける。海の近くなので潮の香りも漂い、なんとなく真結もテンションが上がる。
 しかし、美琴を起こし車を降りてグランピング施設の門まで行くと、真結は回れ右をして帰りたくなる。
「お待ちしておりました。月館様。ごゆっくりお寛ぎください。お泊まりになるテントは、こちらにご用意させて頂きました」
 対応に出てきたのは、支配人のプレートを付けた背広姿の青年だ。キャンプ場の管理人というより、一流ホテルの支配人に近い。
「あの……月館さん。グランピングって言ってましたよね?」
「そうだよ」
 幾つか似たような施設は雑誌やテレビで知っていたけれど、こんな豪華な施設を見るのは初めてだ。
 芝生の敷き詰められた広い敷地に幾つかのテントがあるのだが、それぞれの距離はかなり離れており完全なプライバシーが保てるように生け垣で囲われている。
 そして肝心のテントも、確かに布製だが平屋建ての一軒家くらいの広さがあるように見える。
「あれがテントですか?」
「私もどういったものか見るのは初めてなんだ。キャンプなんて初めてだから、なんだか子どもみたいにドキドキしてしまうよ」
 本気で楽しみにしていたようで、義直が声を弾ませる。
「きゃんぷ? みことも、はじめてだよ」
 まだ眠たげだった美琴も、敷地内を歩くうちに目が覚めてきたのかきょろきょろと物珍しげに辺りを見回す。

☆この続きは製品版でお楽しみください☆

amazonで購入

comicoコミカライズ
ガブリエラ文庫アルファ
ガブリエラブックス4周年
ガブリエラ文庫プラス4周年
【ガブリエラ文庫】読者アンケート
書店様へ
シャルルコミックスLink
スカイハイ文庫Link
ラブキッシュLink