押しつけの婚約者に婚約破棄されたら美貌の公爵様に電撃求婚されました
【本体1200円+税】

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●著:北山すずな
●イラスト:天路ゆうつづ
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4080-7
●発売日:2022/2/28

ひと目惚れという理由ではだめかな?

継母が決めた婚約者に浮気の濡れ衣を着せられ婚約破棄をされたヴィヴィアン。どうでもいいわと言い返さない彼女の前に、異国帰りの若き公爵シルヴェストルが現れる。誰もが羨む地位と容姿の彼からなぜか迫られ、求婚までされて困惑するヴィヴィアンだが、彼は強引に彼女と式を挙げ、溺愛する。「なんて感じやすいんだ。たまらないな」彼に惹かれるも、なぜここまでしてくれるのかわからず――!?




 その日はヴィヴィアンが引き留めたにも関わらず、外泊禁止の規則があるからと、マリーは帰っていった。
「友達とはゆっくり話せたかい?」
 約束のハグをしに、夜更けに公爵がやってきた。
「はい。でも泊まることはできないそうです。修道院の規則で」
「ここに住まわせたいなら私が話をつけるよ」
 業務報告のような会話だが、傍目には甘い抱擁をしているように見えるだろう。
 最初は戸惑ったヴィヴィアンだが、今は当たり前のように公爵の腕の中に収まっている。しかし昨日と違うのは、彼女がそっと腕を伸ばし、公爵の背中に添えたことだ。
「ん? 何?」
 彼が少し驚いて身じろぐ。
「えっと……感謝の……気持ち?」
 自分でもうまく説明できない感情に口ごもりながら、ヴィヴィアンは彼の背中でガウンを握りしめていた。
「マリーを助けてくださったお礼の気持ちというか」
「へえ?」
 彼の声は笑みを含んでいた。ヴィヴィアンは慌てて手を離す。
「し、失礼しました! 迷惑でしたよね? 馴れ馴れしく」
「いや、そのままで。離れなくていい」
 彼は身を離そうとしたヴィヴィアンを引き戻して腕に力をこめた。
「は〜癒される」
「本当ですか? 公爵様。私でも疲労回復か何かに役立ちますか?」
「もちろん。柔らかくてすべすべで気持ちいいし、ちょうどいい背の高さだし私はきみを一晩中でもこうして抱いていたいくらいだ」
「公爵様はどうしてこんなことができるんですか?」
「は、……え?」
「こういうことをして良心の呵責とか、うしろめたさとか……そういった感情は?」
「ないけど? だってきみは私の妻だし」
「そうなんですか」
「だからきみが喜ぶことはなんだってする。マリーを捜したのだってそうだ。夫というものは妻がご機嫌でいてくれたら嬉しいものだよ。きみは他に何が必要だい? なんでも言ってごらん。美しいドレス? たくさんの召使い? それとも――」
「私は居場所を作ってもらっただけで十分です!」
「居場所?」
「そうです。私がいてもいい場所。まだ慣れないんですけど」
「法律的には間違いなくここはきみの家だ。誰にも追い出す権利なんかない。でもきみの実家だってそうだったはずだ。何をもって居場所と言うのかな」
 真顔で問い返されて、ヴィヴィアンは困った。
 父の家に娘がいるのは当然の権利のはずだ。
 それなのに居心地が悪かったのは、血のつながらない母の権威が強すぎたからか、それとも……と考えて、ヴィヴィアンは気がついた。
「愛情……?」
 ――それだ。継母はもとより、父にも愛情が全く感じられなかった。
「なるほど!」と公爵が言った。
「間違いない。それなら私には無尽蔵にあるからここは間違いなくきみの居場所だよ」
 ――無尽蔵……! また軽く言うのね。
「なんだい? 呆れた顔をして」
「そりゃあ……いえ、でも、公爵様には本当に感謝しています。どうやってお返しをしたらいいのか――」
「じゃあキスで」
「はい?」
「少しずつ距離を縮めたいじゃないか。愛情も確かめたいし」
 確かにこのままではあまりにもヴィヴィアンが一方的に尽くしてもらっていて、何も返せていない。
 キスひとつではとても返しきれないくらいだ。
「……承知しました」
 ヴィヴィアンは覚悟を決め、公爵を見上げた。
 彼はきょとんとした顔で見下ろしている。
「と……、届きません、公爵様」
 すると彼は噴き出した。
「そんな敵に突撃するような顔で――もっとリラックスして」
 そう言うと、ようやく彼のほうからも首を傾けてくれた。
 彼の肩甲骨の辺りのガウンを掴み、ヴィヴィアンはさらに爪先立った。
 唇が軽く触れる。
 身長差が思ったより大きくて、爪先がいつまでもつか自信がない。
 ――でも頑張らないと。これが私の務めだもの。彼は浮気性かもしれないけど、誠実な面はあって、何よりマリーに親切にしてくれた恩人だもの。せいいっぱいお返しを。
 おずおずと重ねる唇。
 薄い夜着越しに胸が触れ合い、彼の手がヴィヴィアンの腰に添えられる。
 しっとりとした口づけに鼓動が高鳴る。
 無理な姿勢をしているからか、息も苦しい感じになってきた。
 ――唇ってリアルに相手の存在が伝わるのね。
 ハグとはまた違う。
 もっと近くて、体温まで感じて、彼の匂いまで伝わる。
 上品でセクシーな香油の匂い。
 ――えっと……これ……何秒くらい続ければいいのかしら?
 足の先の限界まで、と思ったがそれは問題にならなかった。
 ヴィヴィアンの足が力尽きる前に、公爵が彼女を抱き上げたからだ。
「……んっ?」
 ふわりとベッドに下ろされる。
 一瞬自由になったが、再び彼がかぶさってきた。
 チュッと短いキスをして彼は言った。
「素敵なキスをありがとう。だがこれ以上はだめだ。私の理性がもたないからね。……じゃあおやすみ」
 そう言って彼が身を起こした時、ヴィヴィアンは得体のしれない喪失感に見舞われた。
「待っ――」
 ――待って、私の居場所!
 そう思った次の瞬間、ヴィヴィアンは彼の腕を掴んでいた。
「え?」
 公爵が驚いた目をしてこちらの顔を覗き込んだ。
「あっ、すみません! 居場所――じゃなくて、あの……」
 何を言っているのかわからなくなってきた。
「妻の任務ってありますよね。何もしないでいるのも落ち着かないっていうか……」
「任務?」
 別に何も――と言ってから公爵は少し考えこんだ。
「……不安なのか?」と彼は聞いた。
 どういう意味でかはヴィヴィアンにはよくわかっていなかったが、無言で頷く。
「体を繋げないと不安? っていう意味。教会で司祭に立ち会ってもらったし、契約書のような書類も作った。だけど居場所を確保できているかきみは不安なんだ。それはちゃんと夫婦になっていないから?」
 ヴィヴィアンははっとした。
「そう……かも」
「もしそうならきみを抱くよ? 今、ギリギリだから断るなら早く断って」
 彼の真剣な目を見た時、ヴィヴィアンの心は決まった。

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