●著:小山内慧夢
●イラスト:獅童ありす
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4084-5
●発売日:2022/4/28
母国に見捨てられたハズの末姫が帝国の後宮で
メチャメチャ寵愛されちゃいます!?
母の身分が低く、王女として遇されていなかったにもかかわらず、突如、姉姫の代わりに十二歳で月戴国皇帝の後宮に差し出されたトゥーラ。武勇で恐れられる皇帝の憂炎は、彼女の歌声を気に入り、腕に乗せて子どものように寵愛する。「どうしてこんなに可愛らしいのか。頭からまるごと食べてしまいたくなるな」それから六年、美しく成長したトゥーラは、新床の儀で憂炎に愛されることになり――!?
新床の儀が行われるに際して、トゥーラは静麗から再度房事の作法を復習った。
手順や心構えなどを頭に叩き込んで臨んだつもりだった。
しかし、いざ憂炎を目の前にすると、頭の中が真っ白になった。
(ど、ど、どうしよう……! 憂炎様のお顔がっ、お身体があ……っ)
静麗も最終的には皇帝陛下にお任せしておけば間違いないと言っていたが、心細く思う気持ちはどうしても拭い去れない。
そもそもこの発育の悪い身体が憂炎のお眼鏡にかなうとも思えない。
トゥーラは娘らしく成長したのちも、比較対象が後宮の他の美姫のため自分に自信が持てなくなっていた。
それゆえ憂炎が胸に触れたり、口を吸うのも申し訳なく思っていた。
たとえば白芳のように瑞花と呼ばれるような美姫ならば……、そんなことを考えて気も漫ろになっていたトゥーラを現に呼び戻したのは憂炎だった。
憂炎は胸への愛撫でぷくりと膨れた胸の尖りをつまんで捏ねまわした。
「随分と余裕があるようだが」
「あぁっ、そんな、ことは……っ」
息を乱しながら反論するトゥーラは、目の前の憂炎がいつの間にか逞しい上半身を晒していることにようやく気付いた。
「あっ、憂炎様、そんな……もう夜着をはだけさせるなんて……っ」
陽に焼けた肌には細かい傷がいくつかついていたが、恐ろしく見えるなどということはなく、それすら魅力的に見えた。
盛り上がった筋肉に触れてみたい衝動すら感じてトゥーラは羞恥のあまり顔を手で覆った。
「脱がずにしろということか? まあ、確かに傷だらけの身体は恐ろしく、……みっともないか」
「いいえ、いいえ! そうではございません! 憂炎様のお身体があまりに美しくて直視できないのです……っ」
つい思ったことをそのまま口に出してしまい、トゥーラは顔を青くした。
男性の身体のことをそのようにいうなんてはしたないと思われてしまうかもしれない。
しかし憂炎は真顔で返す。
「なにを言うか。トゥーラの身体のほうが数倍美しいぞ。まるで女神のようだ」
憂炎の大きな手のひらが胸から腹を撫で、へそをくすぐる。
触れられるたびにびくびくと反応を返すトゥーラの鼓動は激しさを増していく。
(どうしよう……っ)
さきほどから足の間がぬるぬるとしている感触がしているのだ。
それが必要なものだと知ってはいるが、程度がわからず、トゥーラは混乱していた。
(あまり、びしょびしょだと……はしたないと思われるのでは?)
なにしろ静麗はそのぬるぬるがないとうまく交合できないから、ぬるぬるしないときは軟膏や唾を使って致すようにと言っていたのだ。
不足のときのことは承知しているが、……過剰な時のことは聞いていなかった。
(拭き取ればいいの? そのときは憂炎様に向こうを向いてもらったらいいの?)
トゥーラは予想外の事態に泣きそうになっていた。
故に憂炎の手がへそからさらに下がり、金色の淡い茂みに到達したとき、思わず声を上げてしまった。
「……い、いやっ!」
反射的に口から出たものだったが、憂炎の手がぴたりと止まった。
胸に触れていた手もパッと離れた。
はっと顔を上げると、憂炎は無表情のまま唇を引き結んでいた。
「あっ、あの……っ、違うのです、も、申し訳ございません!」
これも静麗から口を酸っぱくして言われていた。
決して陛下を拒否するようなことを言わないように、と。
特にイヤ、とかダメ、とかは絶対に口にしてはならないと。
トゥーラの瞳に涙が浮かんだ。
これでもう、憂炎は自分に触れてくれないだろう。
怒って部屋を出てしまうかもしれない。せっかくの、最初で最後の契機だったのに。
トゥーラはとうとうぽろぽろと涙を零した。泣いてしまったという事実が呼吸を困難にし、しゃくりあげてしまって、弁解もできない。トゥーラは絶望した。
「……無理矢理犯すつもりはない。いやならば儀式はやめにしても……」
「違うんです! ゆっ、憂炎さまがいやなんじゃ、なくて……っ」
泣きじゃくるトゥーラの肩に触れる手があたたかくて余計に泣きたくなる。
うまく話せないトゥーラは閊えながらなんとか言葉を紡ぐ。
「おまたが……っ、おまたがあまりひどく濡れちゃったので……っ! はしたないって、思わないで……っ! これ以上……嫌いにならないで……っ!」
駆け引きも教養もあったものではない。
混乱の極みにいるトゥーラが恐れているのは、ただ、憂炎に嫌われることだった。六年間会えなかったのに、今回失敗をしたらもう追い出されるか、もしくは極刑に処せられるか。
そうなればもう二度と憂炎に会うことはできない。
それだけは絶対に回避したくてトゥーラはガバリと起き上がり、恥も外聞もなく憂炎に抱きついた。
「うわっ」
「憂炎様、……っ」
気持ちを伝えなければ、と焦るほどに声が出ない。
トゥーラはただ憂炎の名を必死に呼んで、その逞しい身体に縋った。
トゥーラが泣いている間、憂炎はその細い身体を抱きしめ背を撫で続けた。子供をあやすように頭や肩も撫でて落ち着かせようとした。
「トゥーラ、そんなに泣くな。余は怒ってもいないし、嫌いにもなっていない」
「うそ……っ! だってこんな、こんな……っ」
トゥーラは太ももを摺り合わせた。
やはりぬるぬると過剰なほどの湿り気を感じて絶望する。
こんな状況になってまで、憂炎の温かい身体に包まれて、はしたなく感じてしまっているのだと思うと、消えてしまいたくなる。
「嘘ではない。そこだって、余が触れたことでこうなったのだろう? 逆に嬉しいくらいだ」
抱きしめてくれている腕に力がこもり、額に口付けされたトゥーラは、泣き濡れた顔をようやく上げた。
自分の涙で憂炎の顔がよく見えなくて、なんどか目を瞬かせると、憂炎がはにかんでいるのがわかった。
「ほ、……ほんとう?」
「ああ、トゥーラはどうしてこんなに可愛らしいのか。頭からまるごと食べてしまいたくなるな」
そう言って頬に口付けされたトゥーラはぐすぐすと鼻をすすった。
「……でも、ばば様は足りなかったら軟膏を使うように教えてくれたけど、多い時のことは言わなかったから、わたしがおかしいのかと……」
「おばばめ。まあいい……トゥーラ、そこに触れてもいいか? 慣らすようにと教えられただろう?」
憂炎の言葉にトゥーラは小さく頷いた。
間を置かずに憂炎の指が探るようにあわいを撫でると、背筋がぞわりと戦慄いた。
「ひぅ……っ」
「大丈夫だ、痛くしない。力を抜いていろ」
下から上へ撫で上げられて、トゥーラの身体は未知の感覚に跳ねた。
恐ろしさではなく明らかな快感に震えたのだ。触れられた箇所が熱を持ち、痺れているのに神経の深いところが明瞭になっていくような不思議な感覚がしていた。
戦神ともいわれる憂炎の指はごつごつしているような印象だったが、敏感なそこに触れる手はとても優しい。
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