追放聖者を王女が拾ったら、溺愛された上に我が国が救われました!
【本体1200円+税】

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●著:麻生ミカリ
●イラスト:ことね壱花
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4086-9
●発売日:2022/5/30

あなたを他の男に奪われたくない

二大国の王子らから、同時に望まぬ求婚をされて悩む小国の王女アースラは、森で野性的な美青年、シオンに出会う。一撃で魔物を撃退し癒やしの力も持つ彼は、異世界から召喚された伝説の聖者だった。「この国の者たちがあなたを愛してやまないのがわかる気がする」元の世界に帰りたいシオンを手助けすると言いながら、彼に惹かれていくアースラ。シオンもまた彼女に惹かれ触れる手を止められず!?




「シオンさま、わたしにはよくわからないのです」
「何がだ?」
「だってシオンさまは、生まれ育った世界へ帰りたいとおっしゃっていましたよね。それが――」
 ――それがなぜ、わたしに求婚を?
「わたしはいいのです。子どものころから、王女と生まれたからには国のために政略結婚するのが当然だと教えられて育ちました。ですので、お相手がどなたであろうとデルケト王国の皆が幸せになれるよう結婚する決心はできています。でも、シオンさまは違いましょう?」
「ああ、違った」
 彼の言葉は、過去形で語られる。
「たしかにこの国へ来て、初めてアースラと出会ったとき、俺はあなたのことをなんて子どもっぽく純真な王女だろうと思った」
「……はい」
 少々耳が痛い。年齢相応の落ち着きを持ち合わせていないのは、アースラとしても自覚のある部分だ。
「自国へ帰りたくて、夜の教会にあなたを付き合わせた。これも間違いない」
 そして、秘密の小部屋ではしたなくも気持ちいい行為を教えられてしまった。
 ――お、思い出してはダメ! 顔が熱くなってしまうわ。
 そう思っている時点でもう遅い。アースラは両手で頬をそっと押さえた。
「だが、あなたが自分を子どもを産むためだけの存在だと、自分自身の幸せを追求することを放棄しているようなことを言い出したとき、俺の中で何かが変わるのがわかった」
「何か、とは?」
「なんだろうな。言葉で説明できない感情だろう」
 その感情を知りたいと思うのは分を超えた願いだろうか。
「……わたしと結婚をするというのは、子を作るのみという意味ですか?」
「いや」
「では、生涯をともにしてくださるつもりがおありなのですか?」
 勇気を振り絞って、彼の真意に近づこうとする。
 結婚から始まる恋で構わない。ともに過ごすうちに、相手を愛するようになる。アースラはずっとそう考えてきたのに。
 ――初めて好きになった方が、わたしの夫になってくださるとしたら……
「そのつもりでなくて、求婚する男がどこにいる」
「ええっ!?」
 自分で問うておきながら、理想の答えを前にアースラは高い声をあげていた。
「どうしてですか? わたしがかわいそうだとでも思われたんですか? それとも――」
「質問の多い王女だ」
「う……」
「だが、それもかわいいと思ってしまうのだから仕方あるまい」
 ふ、と表情を緩めた彼が、いつもよりリラックスしているように見える。こんなふうに優しく見つめられては、心臓が高鳴るのを止められない。
 アースラは無意識に両手を胸にあてていた。
「それだ」
「え、どれです?」
「その、心臓の鼓動。あなたはずっと、病ではないかと俺に言っていたな」
「……はい」
 ――だって、知らなかったんですもの。恋をするとどうなるか、誰も教えてくれなかったわ。
 フォリアに指摘されて、この胸の切なさこそが病ではなく恋だと知った。言われてみれば、すとんと腑に落ちる。
「俺といるとき、俺に触れられたとき、俺を見つめているときに心拍が速くなり、ひどく胸が苦しい。そう言われて、アースラがどんな気持ちを抱いているのかわからないほど俺は無知でも幼くもない。こう見えて、あなたより十年も長く生きている」
「えっ、ではシオンさまはわたしの気持ちに気づいていらっしゃったんですか!?」
 告白もしていないのに、想いの丈を知られているとは。
「それはまあ、そうなるな」
「っっ……ひ、ひどい」
「ひどいって、アースラが自覚なしに俺への恋心を語っていたのだからどうしようもないだろう」
「わたしだって、気づいていなかったんです。これが恋だなんて、知らなかったんですもの」
 熟れた果実ほども頬を赤らめて、アースラはいつになく大きな声で言う。
「林檎のせいだ」
 シオンが長椅子から立ち上がった。
「最初の、あの林檎ですね」
「ああ。今のあなたもあの林檎と同じくらいに赤くなっているがな」
 ゆっくりとこちらに歩いてきた彼が、アースラの頬に右手を添える。彼の指はひんやりとしていて、熱を帯びた頬に気持ちいい。
「俺の生まれた国では、林檎は禁断の果実だった。始まりのふたりの男女は林檎を食べて楽園を追放される」
「楽園を……」
「それは、男と女であることを自覚するということだ。あの日、俺はアースラから受け取った林檎を食べて、あなたに囚われた」
「わ、わたし、そんな魔法みたいなことできません!」
「できる」
「できな――」
 唇が、キスで塞がれた。
 触れるだけではない、舌を絡める淫らなくちづけ。
「俺を虜にしたのはあなたのほうだ」
「シオンさま……」
「教会でのことに責任をとろうとしているとでも思ったか?」
 心を見透かされて、アースラは黙ってうなずく。
「逆だろう。俺の心を奪ったあなたが、責任をとってくれ」
「そんなこと、許されるのでしょうか」
「俺が許す。というか、懇願してるのは俺のほうだとわかっているのか?」
 初めて恋をした。
 彼の願いを叶えるために、自分の恋は封じておかなければと思っていた。
 ――だけど、そうじゃないのね。わたしはシオンさまを好きでいていいのね?
 アースラは椅子から立ち上がると、シオンの胸にぎゅっと抱きつく。

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