執着が強すぎるエリート騎士は、敵国に嫁いだ最愛の姫を略奪したい
【本体1200円+税】

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●著:当麻咲来
●イラスト:園見亜季
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4089-0
●発売日:2022/7/29

もう逃がしません。
貴女は…未来永劫私だけのものだ

救国の為に政略結婚で隣国へ嫁いだローザリンデは、ある夜、結婚の約束をしていた近衛騎士のクリストフと再会する。彼女を祖国に連れ帰る計画があると言う彼に、改めて求愛されベッドで官能を教え込まれるローザリンデ。「可愛い。もっと淫らに啼いてください」情熱的に愛され悦びに包まれるローザリンデだが、隣国の王との子として産んだ娘がクリストフの子だと、ある想いから言えずにいて!?




 ──あの騎士の誓いから十二年後。
 二十二歳になったローザリンデは、クリストフの部屋を訪ねていた。
「……こんな夜更けに何の用事ですか?」
「あら、婚約内定者のところに、用がなくては来たらダメなのかしら?」
「……いいえ、大公妹殿下」
 クリストフはわざとため息をついて彼女の名を呼ばず敬称を口にする。いつから彼は変わってしまったのだろう。あのキラキラした瞳で、騎士の誓いをしてくれた少年は、いつも不機嫌そうにローザリンデを見つめる、彼女にだけ愛想のない男に成長していた。
 明日、公都ロランド出立を控えて、クリストフが珍しく騎士団の寄宿舎からロランドにある自宅に戻ったと聞き、ローザリンデは彼の部屋を訪ねたのだ。
 彼の父母や兄はサージェス地方に住んでおり、公都の邸宅はほぼ彼しか使用していないため、信頼の置ける最低限の人間だけ雇って維持しているらしい。
 ちなみに騎士団の諜報部隊に所属する彼は、自分の身の回りの整理は他人に一切任せない。この部屋も自身で整理整頓を行っているのであろう。几帳面に片付けられ、塵一つ落ちていない室内は、生真面目なこの男の性格をそのまま表しているようだ。
「ところでさっき……何を隠したの?」
 なにか書き物をしていた様子だったが、ローザリンデが部屋に入った瞬間、彼はそれを丁寧にたたみ、文箱にしまっていた。そのことを指摘すると、彼はさらに不機嫌そうに眉を顰める。
「……何でもありません。報告書を書いていただけです」
「嘘ついているでしょ」
 お互い十年以上顔をつきあわせているのだ。微かな表情の変化で、彼の嘘を見て取ったローザリンデは、つかつかと足音を立てて近寄って、文箱の中を見ようとする。
 だが長身の彼が彼女の届かない高い本棚の上にそれを載せてしまった。思わずローザリンデは鼻に皺を寄せて不機嫌な顔をしてしまう。
「まったく……。そのような顔をされると、せっかくの美貌が台無しですよ」
 慇懃な態度で話を続ける男に苛立ちを覚えた。昔からローザリンデに対して敬語で話すクリストフではあったが、最近ではことさらに丁寧な話し方をして、ますますよそよそしくなっている。
(婚約の話が出てから……もっと酷くなったかも。やっぱり私と婚約したくないってこと?)
 ローザリンデは現ローレシア大公の末妹で、常日頃から可愛がられている。だから大公は彼女を国外に嫁に出すよりはと、ローザリンデを大公家所縁の公爵家として独立させることに決めたらしい。
 そこで彼女に騎士の誓いをしたクリストフを婿として迎え入れようと思うがどうか、と大公から聞かれた時は、ローザリンデも素直に嬉しく思っていたのだが……。
(その話が出てから、もっとクリストフに距離を置かれるようになってしまったわ……)
 クリストフは忠義心の強い男だ。大公陛下がクリストフにローザリンデを娶れ、と言えば素直に従うだろう。彼の気持ちがどこにあるかはともかくとして。
 だが内示とはいえ三ヶ月後に婚約発表が予定されている現状で、何故こんな冷淡な態度を取られているのか彼女は理解に苦しんでいた。少なくとも嫌われてはいないと思っていたローザリンデは、その話が決まってからの彼の冷たい態度にずっと心を痛めていたのだ。
「ねえ。その手紙って、私にも見せられないものなの?」
 近いうちに代替わりが予定されている金狼騎士団の次期団長を補佐する新副団長には、クリストフが推薦されるであろうと社交界で話題になっている。おかげで将来の出世と、良家出身で嫡男ではないという事実を見込まれて、クリストフを婿に迎えたいという話が引きも切らないらしい。
 だが誰かが彼に告白をした際に、忠義を捧げたい女性がいるから、と断ったという噂話を聞いて、ローザリンデは、それは例の子どもの頃の誓いの話ではないか、と一瞬嬉しく思った。
 けれど、その後の冷たすぎる彼の態度を見ていれば、単なる勘違いだったのだ、と図々しすぎる自分の考えが恥ずかしくなってしまった。最近では彼が自分との結婚話のせいで、忠義を捧げたいその女性を諦めたのではないかと、そちらの方を案じている始末だ。
(もし他に好きな人がいるのなら、私との縁談なんて嫌だと言ったら良いのに)
 さっき隠していたのは、もしかしてその人への手紙だったのだろうか。そんな思いを顔に出さないように腰に手を当てて上にある顔を睨むと、彼は呆れたようなため息をついた。
「貴女が気にされるようなことでは無いかと思いますが。いえそもそも貴女のような立場の方が、夜更けに男の家を訪ねてくること自体が問題です……自分のお立場をどのように考えていらっしゃるのですか」
「……またお説教? 他に言うことはないの?」
 距離を置くような言い方に、なんだか悲しくなる。けれどみっともない態度を見せるわけにもいかない。
「ねえクリストフ、今回の貴方の任務、危険なものなんでしょう?」
 ローザリンデが大公付の文官から密かに聞いた話によれば、クリストフを中心とした諜報部隊が、緊張関係にある隣国アルドロシア王国に、潜入する予定なのだという。
 注意深く優秀なクリストフのことだ、心配することはない、と思いながらもローザリンデは不安でギュッと胸がしめつけられるような気がする。
 だからこそ居ても立ってもいられず、一番信頼する侍女のノーラを説得し、亡き母の墓所に向かうと嘘をついて、こんな時間に彼の屋敷を訪ねてきたのだ。
「なんでこうなっちゃうのかしら。……無事に帰って欲しいって伝えに来ただけなのに……」
「何かおっしゃいましたか?」
 下を向いてしまったローザリンデの呟きが聞き取れなかったのであろう、クリストフはかがみ込んで彼女の顔を覗こうとする。こんなみっともない姿を見せたくはないと、ローザリンデは顔を上げたせいで近くにあったクリストフの目を真正面から見つめていた。眼鏡越しの琥珀色の瞳が驚いた様にこちらを見つめ返している。
 視線が間近で重なった刹那、胸がドキンと高鳴り、落ち着かない気持ちになって、誤魔化すためにローザリンデはまたもや彼を睨みつけてしまった。
「クリストフ……必ず、私のもとに戻ってきなさい」
 無事に帰ってきて欲しい。
 そう素直に言えば良いだけなのに、何故か口から出たのは高飛車な命令の言葉だ。
「……かしこまりました」
 上位者から高圧的に告げられた言葉に呼応するように、クリストフがざっと音を立てて跪き、低い姿勢からローザリンデを見上げる。
 その姿を見て、ローザリンデは首を左右に振った。
「違うの。……なんでクリストフは私にそんな態度ばかり取るの?」
 自分でも不条理なことを言っている。そうわかっているのに、つい感情的に叫んでしまった。すると彼は跪いたまま、ローザリンデを睨み返すように見上げた。
「貴女が命じれば、私は従わざるを得ないのですよ。大公妹殿下」
「私に騎士の誓いをしてしまったから? 昔はローザリンデ、と名前を呼んでいたのに。……そう。……だったら、今私が、貴方にどんな命令を口にしても、貴方はそれに逆らえないっていうの?」
「もちろんでございます。……殿下」
 あくまでも慇懃な態度を崩さないことに苛立ちが募る。今回の任務が危険なものだとローザリンデは知っている。
 だから彼との未来が不確定になってしまうかもしれないことが不安なのだ。それなのに彼はそのことをなんとも思っていないように見えるから、動揺して聞く必要の無いことをつい、口にしてしまっていた。
「……じゃあ聞くわ。私との結婚について、貴方の正直な気持ちを、今すぐ答えて」
「……はっ?」
 瞬間、予想もしなかったらしい問いに、琥珀色の瞳が珍しくたじろぐ。やっぱり自分との結婚なんて望んでないのだろうか、大切な人が他にいるのであろうか、とローザリンデの胸になんとも言えないような苦しい気持ちが上がってくる。
「私の問いに答えられないの?」
 跪く人の手を捉えて、ぐっと引いて立ち上がるように促す。
 立ち上がった瞬間、逃げるようにクリストフが距離を取ろうとしたのが気に入らなくて、振りほどけないことを理解しながら、無理矢理自分の方にクリストフを引っ張る。体勢を崩した彼が蹈鞴を踏むように自分の方に倒れ込んできた。
「……貴女はなんで……」
 瞬間、大きな体にギュッと抱きしめられて、息が詰まる。その手が震えているのに気づいて、ローザリンデはそっと彼の背中に手を伸ばし柔らかく撫でた。瞬間、ビクンとクリストフの体が跳ね上がる。
「大丈夫?」
「……全然大丈夫ではありません。放してください」
 はっきりとクリストフに拒否され、そこまで嫌われてしまったのだろうか、とショックを覚えたローザリンデが息を呑んだ瞬間、彼はハッと息を吐き、ローザリンデを鋭く見つめ返した。
「貴女こそどうなんですか。しがない侯爵家の次男にすぎない私を、生涯ただ一人の夫として認めてくださる、ということですか? 大公陛下は今回の任務を成功裏に終えれば、その功績を以て将来の公爵配として、貴女の傍らに立つように私を指名してくださるとおっしゃっていますが、もし、貴女自身が望まないのなら……」
 いつも穏やかなクリストフらしくなく、一瞬声を荒らげると、ふっと視線を逸らした。
「……血を吐いてでも、貴女を諦めるしかないのに」
 意図せず零れ落ちた言葉が微かにローザリンデの耳元に届いた。彼女は自分の耳に届いた彼のつぶやきがどういう意味を持つのか理解しようと必死に頭を働かせる。
 期待なんてしないと思う気持ちに反するように、先ほどまでとは違う温かい血が体中を巡り始めたような気がした。
「あの。クリストフ。……今なんて言ったの?」
「……いえ、失言です」
 クリストフは顔を手で隠し、視線を逸らしたまま答える。その様子にローザリンデは震える声で聞き返してしまった。
「ねえ……血を吐いてでも諦めないといけないって……。クリストフが欲しいのは公爵配の地位? それとも私?」
 両手を広げ、煽るように声を上げると、彼が視線を上げた。真正面で視線が交わる。
「別に私は、公爵配の地位を望んでいるわけではありません」
 それだけは伝えなくては、というような頑なな答えが苛立たしい。
「だったら私が欲しいの?」
 そう尋ねた瞬間、彼ははっと彼女の視線を避けるように完全に顔を背けた。代わりにローザリンデの目の前にある彼の首筋から耳に掛けて徐々に赤くなっていく。
「私のような男が、貴女を望んでいるとしたら、それがどうだと言うんですか?」
 彼の言葉と、それを裏切らない肌の紅潮にドキドキと心臓が激しく鼓動を打つ。
「だったら本能のままに、私を奪ってしまったらいいじゃない。私、貴方にだったら、全部あげてもいいって思っているのに!」
 視線を逸らしたまま、たじろぐクリストフの手を取って、両手で包み込む。ゆっくりと彼の視線がローザリンデに戻ってくる。目元まで真っ赤な彼の様子に、じわじわと体温が高まっていく。
「ねえ、クリストフ。逃げないで。……私に触れて。私をもっと欲しがって。それで……私を一生手に入れるために、必ず私のところに戻ってきて。……お兄様に言われたからじゃない。他ならぬ私自身が貴方と一緒にいる未来を望んでいるのだから」
 クリストフを案じるローザリンデが泣き笑いのような表情を浮かべた途端、彼の大きな手が彼女の頬を包んでいた。
「貴女はいつだってそんな風に私を煽るから……。今の言葉……一生後悔しませんね」
 彼女を貫くのは、先ほどまでクリストフが必死に覆い隠そうとしていた、触れるだけでやけどしそうなほど熱を帯びた視線。その事実に気づくと、ローザリンデの全身にぶわりと歓喜の感情がわき上がる。
「本当にいいのですか? ……貴女を一度手に入れたら、私はもう二度と手放せなくなりますよ。今だって貴女のすべてを手に入れたくて、抑え込むのに必死なんです。今、私を受け入れるというのなら……たとえローザリンデ様が私のもとを逃げ出しても、地の果てまで追いかけて必ず手に入れてしまいますよ。……その覚悟はございますか?」
 怖くなるほど真剣で、まっすぐな瞳がローザリンデの赤みを帯びた瞳を貫く。ゆっくりと口角が上がっていく。十年以上前に生まれた幼い恋情が今、ようやく重なり合ったのだ。
 喜びが全身を駆け巡った瞬間、ローザリンデはその気持ちのまま声を出していた。
「後悔なんてするわけないじゃない!」
 そう言い返した瞬間、ローザリンデは彼の腕の中で抱きしめられていた。そのまま抱えられてしまい、今度は驚きに小さく悲鳴を上げながら、彼の首に腕を回す。
「大公妹殿下……今日はこのまま帰らなくても?」
 どこまで見透かされているのだろうか。と少々困惑しつつも、その言葉に頷く。
 ただ一人サージェス邸までついてきた忠実な侍女ノーラは、主人が帰らない限りここから帰るつもりはないだろう。だが信頼の置けるこの家の執事がそれなりの対応をしてくれているだろうし、馬車の従者達はここまで送った後は、いったん屋敷に返している。
 そして主人の不利になるような、余計なことを外に話すような従者は、給金も待遇も良いローザリンデのところにはいない。
 たとえ噂になったとしても、三ヶ月後には婚約を発表するのだ。クリストフ以外の男性と結婚する気のないローザリンデにはさほど問題は無い。
「ええ。態度のはっきりしない婚約内定者の気持ちを、婚約が決定する前に確認するために、覚悟を持ってここまで来たのです」
 抱き上げられたまま、つんとすましてそう答えると、彼はようやくホッとしたように目元を細めて屈託無く笑う。
「……それでこそローザリンデ様」
 ふわりとローザリンデをベッドに下ろすと、そのまま耳元に手をつき、彼女の赤みがかった瞳をじっと見つめながら、クリストフは先ほどとは違う、喜びを瞳の奥に隠しているようなキラキラした笑みを浮かべる。そっとローザリンデの手を掬い上げると、その手のひらに懇願のキスを落とす。
「貴女に私の忠誠も愛もすべて捧げています。子どもの頃の誓いから、それは一度も違えたことはありません。……ですから、もし私を受け入れてくださるのなら、私を貴女に縛りつけ、永遠に貴女のものにしていただきたいのです。そうしてくだされば、私は貴女のためにだけ生きましょう」
「つまり貴方は私と一緒にいる未来を望んでいるのね。……だったら素直に私のものになりなさい」
 手を伸ばしその項を抱え込むようにすると、彼は困ったように笑みを浮かべ、唇を寄せてくる。
「私の姫君は……時々、無鉄砲で思いきりが良すぎて……心配になります」
 無鉄砲だなんて失礼ね、と文句を言おうと思った瞬間、唇を奪われて、反論の機会を無くしてしまった。
 さらさらとローザリンデの下ろし髪を梳きながら、クリストフは唇に、頬に、額に、耳元にと何度も唇を押しつけるようにする。どこか緊張しているようで、あまり上手とは言えない口づけだが、それは彼が他の女性を知らない事実を物語っているようで、ローザリンデはそれすら嬉しく思えてしまう。
 クリストフは女性にとても人気があるが、言い寄ってくるどんな相手に対しても、冷静で一定の距離を置いているという評判だったのだから……。
「あぁ……」
 ドキドキと胸が高鳴り、どちらから漏れたかわからないような甘い吐息を合図に、再び唇が重なる。何度も唇を重ね合ううちに、呼吸が乱れ彼の舌がローザリンデの唇を割る。とろりと溶けるような雫を分け合い、舌を絡め合うことに、気づけばお互い夢中になってしまった。
「……すこし、手を緩めていただけますか?」
 彼の項に回していた腕をそっと撫でられて、ローザリンデは慌てて目を開く。必死になりすぎて、彼が動けないほど項を抱え込んでしまっていたらしい。
 そっと手を放すと、そこには今まで見たことがないほど柔らかい表情をしているクリストフがいる。
 普段冷静沈着な彼の眼鏡が少しだけ曲がっていて、それが必死に自分を求めてくれた証拠のようで、なんだか愛おしく思えてしまう。
「眼鏡、外してもいい?」
「ええ、ローザリンデ様の思うとおりに」
 その言葉に安心して彼の眼鏡を外そうと少し身を起こす。外して体をひねり、ベッドサイドに置くと、彼の手が背中に当てられている。
「それでは私は、代わりにローザリンデ様のドレスを脱がせていただいても?」
 しれっと破廉恥なことを言われて、今の状況を確認されたみたいで一気に羞恥心がこみ上げてくる。
「……眼鏡の代わりにドレスを?」
「ええ」
 にっこりと微笑まれて、普段のちょっと意地の悪いクリストフの表情が見え隠れして、カチンとくるのに、ほんの少し素敵だなんて、つい見とれてしまう。
(……これが惚れた弱みとか言う奴ね)
 侍女達の恋話でよく出てくる台詞だ。心の中で呟くとあまりにぴったりな気がして、恥ずかしさと嬉しさで小さく笑みが零れてしまった。

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