美貌の貴公子を華麗にプロデュース!
婚約破棄された令嬢はウワサの公爵令息に求愛されてます
【本体1200円+税】

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●著:猫屋ちゃき
●イラスト:SHABON
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4091-3
●発売日:2022/7/29

何があっても僕が守るから

自分の助言で垢抜けたのに、その婚約者に婚約破棄されたベティーナは、犂馘稽貴公子瓩噺討个譴觚爵令息マクシミリアンのファッションアドバイスをすることに。羽を背負った服でも美しい彼のポリシーを尊重しつつ、TPOに合わせるよう助言する彼女をマクシミリアンは気に入り求愛してくる。「可愛いな。口づけだけでとろけてしまったの?」愛され輝くベティーナに元婚約者が接近してきて!?




「……マクシミリアン様」
 やって来たのは、マクシミリアンだった。今日も美しい金の巻き毛が眩しい。
 今夜の彼は、黒の一見すると簡素な礼服を身に着けている。だが、袖口からわずかに覗く裏地の薔薇模様から、それがこの前ベティーナが助言した装いだとわかる。
 花の妖精のテーマに相応しいように、彼の胸元のポケットにはたくさんの花が挿してあった。せっかくのシンプルな装いを台無しにしかねないようにも見えたが、何か意図があってそのようなことをしていたらしい。
 マクシミリアンは恭しくベティーナの前で跪くと、その手を取って優しく微笑んだ。
「僕の愛しい人は、今夜も控えめな花のようだ。この僕に、君の髪を飾る権利をくれないか」
 どういうことかわからず頷くと、マクシミリアンはベティーナの手にそっと口づけてから立ち上がった。そして、胸ポケットから花を一輪抜くと、それをベティーナの髪に挿した。
「やはり思った通り素敵だね。君を飾るにはどんな花が相応しいかを考えるのが、楽しくてたまらなかったよ。今度、君の好きな花を教えて。頑張って育てるから」
「……もしかして、このお花もマクシミリアン様が育てたのですか?」
 バッグから手鏡を取り出して確認すると、そこには見違えるほど華やいだ自分がいた。マクシミリアンがドレスに合わせて薄紅色の花を挿してくれたから、それが良い彩りになっている。
 貧相でドレスに不釣り合いなベティーナではなくなっていた。
「そうだよ。僕は花を育てるのが好きなんだ」
「素敵ですね。……ありがとうございます」
 今ここにマクシミリアンが来てくれたことに救われた気持ちになって、ベティーナは言った。
 だが、それを面白く思わない人物たちがすぐそばにいることを思い出させられる。
「ベティーナさん、この方はどなた? 新しい恋人なの? 婚約破棄されてひと月も経たないのに新しい恋人だなんて、とんでもなくふしだらな女だったのね」
 マクシミリアンの登場がよほど面白くなかったらしく、ザビーネが意地の悪いことを言う。だが、マクシミリアンの存在自体は非常に気になるらしく、カールの腕にしがみつくのを止め、値踏みするような視線を向けていた。
「僕はレディ・ベティーナの崇拝者。彼女に恋するひとりの男さ」
 マクシミリアンは一瞬ザビーネに目を向けたものの、すぐにベティーナに視線を戻した。
 名乗らない、目も合わせないことから、マクシミリアンがザビーネに興味がないことがわかる。そもそも彼女が先に、初対面の相手に失礼な態度を取っているのだ。相手にされないだけで済んでいるのは、マクシミリアンが温厚だからだ。
 見向きもされないとわかって、ザビーネは悔しそうな表情をした。だが、カールがそれを制して、一歩前に出る。
「崇拝者というが……ベティーナ、確かにザビーネの言うように慎みがないとは思わないのか? 君はそういえば、あの犂馘稽貴公子瓩砲盖畉Г気譴討い襪箸いο辰犬磴覆い。その、何というか……恥を知るべきだと思うが。曲がりなりにも君は、ついこの間まで婚約していた身だろ」
 うまく言葉にできない様子で、カールは必死に文句を言ってきた。だが、まさに爐匹慮が言う瓩箸いΔ發里澄
 なぜ彼がこんなことを言うのか、ベティーナはすぐに理解できなかった。だが、恨めしそうにベティーナを見つめ、時折マクシミリアンに視線を送るザビーネを見て、何となく感じ取るものがあった。
 おそらく、カールとザビーネは婚約破棄によってベティーナを惨めに泣かせたかったのだ。カールにいたっては、ベティーナが泣いて縋るとでも思っていたのだろう。
 泣いて別れを拒む婚約者を振り切って結ばれるふたり――きっとそんなくだらない筋書きがあったから、その通りにならないことに苛立ちを覚えていたに違いない。
 そしてその苛立ちは、マクシミリアンの登場によってさらに強まったようだ。
「レディ・ベティーナ、この方たちは? ご紹介いただけるだろうか?」
 敵意を剥き出しのカールたちの態度をものともせずに、マクシミリアンはにこやかに言った。気づいていて受け流しているのか、それとも気づいていないのか、彼の爽やかな笑顔を見るだけでは判断できなかった。
 ベティーナは、カールたちのことを何と紹介しようか悩んだ。
 簡単に言えば、元婚約者と彼を奪った令嬢だ。だが、それをそのまま伝えるのはあまりに体裁が悪い。
 これまでマクシミリアンは、ベティーナの婚約破棄について何も触れてこなかった。知らないふりをしてくれているのかと思ったが、もしかしたら本当に知らないのかもしれない。
 それなら、ずっと知らないでいてほしいと思ってしまうのだ。
「えっと、こちらはウィンクラー伯爵家のご子息であるカール様と、メラース男爵家のご令嬢であるザビーネ様です」
 自分とどういった関係であるかは伏せて、ベティーナはふたりを紹介した。すると、聞いたことがあったのか、マクシミリアンは「ああ!」と合点がいった顔をした。
「この方が例の、真実の愛に目覚め、二年間婚約していたご令嬢を袖にした紳士か。そしてこちらの方が、婚約者のある男性に恋をして積極的に想いを伝えて見事結ばれた情熱的なご令嬢だね。お噂はかねがね! まさかご本人にお会いできるとは!」
 ものすごく爽やかな笑顔で、無邪気にマクシミリアンは言った。聞きようによっては棘しかない言葉だが、それをマクシミリアンが言ってしまうと、悪意があるのかどうかわかりにくい。
 言われた本人たちも判断がつかないようで、笑うべきか怒るべきか決めかねた困った顔をしていた。
 だが、マクシミリアンが笑顔でいるから、馬鹿にしていい相手と捉えたらしい。カールはなぜか、挑むように笑った。
「そうだ。ついでに言うと、私の元婚約者はあなたが今手を握っているその冴えない女性ですよ」
 カールのその言葉に、ザビーネがおかしくてたまらないというふうに笑った。それを聞いたカールもまた、得意げな顔をする。
 ベティーナを馬鹿にしているから、ベティーナを口説いているマクシミリアンのことも馬鹿にしていいと思ったのだろう。
 カールは、目の前のマクシミリアンこそが、ベティーナに求婚している犂馘稽貴公子瓩世箸狼い鼎い討い覆ぁつまり、気づかずに二度も馬鹿にしたのだ。
 自分を悪く言われるだけなら、まだ耐えられた。だが、自分のせいでマクシミリアンが侮辱されるのは耐え難い。
 怒りと悔しさで、ベティーナはまた体が震えだしたのを感じていた。頭に血がのぼって、目眩までしてきた。
「僕は幸運だな。レディ・ベティーナの元婚約者のあなたに見る目がなくて、本当によかった。あなたが手放してくれたおかげで、僕は堂々と彼女に想いを伝えることができる」
「なっ……」
 マクシミリアンは、今度はわかりやすくカールにやり返した。犖る目がない瓩箸いΩ世なはさすがに意味が伝わったらしく、カールもザビーネもさっと顔色を変えた。
 だが、彼らが何か言い返してくるより先に、マクシミリアンはベティーナの体を抱きかかえた。
「僕たちはこれで失礼するよ。レディ・ベティーナの体調が優れないようだからね」
「待て」
「どうか末永くお幸せに。お二人はとてもお似合いだ」
 カールが何か言おうとしたが、それを待ってやるマクシミリアンではなかった。彼はベティーナを横抱きにして広間を出て、ひとつの部屋に入った。
 ほのかに灯りがともされただけの、手頃な広さの部屋だ。来賓が休むための部屋だとわかって、ベティーナはひとまずほっとした。ここなら少し休めそうだ。
 ほっとして張りつめていたものがプツンと切れて、堪えていた涙が零れてしまった。
「ああ、レディ・ベティーナ。つらかったね。すぐにこうして連れ出すべきだったのに、ごめんよ」
 零れた涙を指先で優しくすくって、マクシミリアンは心配そうに顔を覗き込んできた。
 すぐ目の前にあるよく整った顔を、宝石のように青い目を見ていると、ベティーナは自分の心が曇るのを感じた。
 自分は今きっと、とても醜いだろうと。化粧も髪型もドレスも、何もかもうまくいっていないのだ。その上泣いたりしたら、目も当てられなくなる。
 それはわかっているのに、涙は止まらなかった。カールたちの前で絶対に泣くまいと我慢したぶん、涙は次々と溢れるようだった。
「こちらこそ、ごめんなさい……こんなふうにみっともなく泣くつもりではなかったのですが」
「みっともなくなどない。傷つけられれば、泣きたくなるのは当然だ。だがそれでも、彼らの前で泣くまいとする君は立派だった」
 まるで小さな子供をあやすように、そっと髪や頬に触れながらマクシミリアンは言う。
 先ほどまで敵意と害意を向けられていたため、彼の優しさが胸にしみる。そのせいで余計に涙が溢れてくる。
「僕の前でなら、安心して泣くといい。君の笑顔が一番好きだが、泣き顔だって愛おしい」
「でも……見られたくないです」
 マクシミリアンの優しさが苦しくて、駄々をこねるようなことを言ってしまう。
「どうして? 恥ずかしがることはない」
「恥ずかしいです……だって、もともと美しくも可愛くもないから、泣いたらもっと……」
 最後の部分は、嗚咽と一緒に呑み込んだ。この美しく優しい人の前で零すには、あまりにも醜い愚痴だ。
 泣いたらもっとひどい有様だと自覚しているのなら、早く泣き止めばいいだけだ。
 それに、こうして傷ついて泣くのを見せて、この人をここに足止めしていることに罪悪感を覚えていた。
 会場でベティーナを見つけなければ、今頃夜会を楽しんでいたのだろうから。こんなに素敵な装いで来たのだから、せっかくならもっと楽しんでいてほしかった。
「ベティーナ、君は自分の魅力がまるでわかっていないんだね。君は、君が思うよりずっと愛らしくて素敵な女性だ」
「……もう大丈夫ですから、マクシミリアン様は広間に戻ってください」
 気を遣わせて慰めさせたのだと思って、ベティーナは恥ずかしくなった。カールたちに侮辱されたことより、こんなふうに泣いたことより、そのことが恥ずかしかった。
 同情を欲して相手から優しい言葉を引き出すなんて、恥ずべきことだ。ザビーネに言われた「可哀想がられることしかやりようがない」という言葉を思い出し、羞恥に顔が赤くなる。
「君を泣かせたまま立ち去ることなんてできないよ」
「大丈夫ですから。涙が収まったら、こっそり帰ります」
「それでは、僕が嫌だと言ったら? 迷惑でなければ、君のそばにいたいんだ」
 平気なふりをしようとするベティーナの顔を、マクシミリアンはじっと見つめた。そこには真摯な瞳があって、その目に見つめられては、嘘をつくのが難しくなる。
 それに、「そばにいたい」と言ってもらえたことが嬉しかった。
 着こなしはいまいちで、泣いて化粧も取れてしまってひどい状態でもう帰りたいのに、彼のそばにいたいと思ってしまった。
「……どうして、そんなことを言ってくださるんですか?」
 返ってくる答えは、半ばわかっていた。それでも、ベティーナは聞きたかった。
「君が好きだからだよ、ベティーナ」
 マクシミリアンは、期待した通りの言葉をくれた。
 求婚してきているくらいなのだから、彼が自分に好意を抱いてくれていることはわかっていた。あるいは、本心はどうあれ言葉の上ではそう言うことが。
 だが、その理由がわからない。理由がわからないから、期待通りの言葉をもらっても、納得できなかった。
「どうして、私のことを好きだと言ってくださるのですか? その……出会ったばかりですし、特に好いていただける要素も見当たらないのですが」
 自虐めいて聞こえないようにするのは、とても難しかった。だが、自虐ではなく素直な疑問だ。
 マクシミリアンがなぜ求婚するに至るまでにベティーナへの好意を募らせたのか、その理由がわからない。
「やはり、君は自分の美徳がわからないんだね。君は初めて、僕のことを否定せずにいてくれたんだよ。それは僕にとって、素敵で素晴らしいことだった」
 宝物をそっと取り出して見せるかのように、マクシミリアンは幸せそうに言った。そこには、わずかに恐れも感じさせる。きっと、その差し出した宝物をベティーナが受け入れるかどうかわからなかったから。
「『その変な格好さえなければ』と、僕はいろいろな人から言われてきたよ。親しくなりたい人だったり、僕の家柄に関心がある女性だったり、本当にいろいろな人にね。まるで僕が罪でも犯しているかのように言うんだ。好きな服を着ているだけなのに」
 マクシミリアンは、静かな声で語った。その声色は繊細で、彼が傷ついた過去について語っているのが伝わってきた。
 誰だって、自分の好きなものを否定されたら傷つくだろう。間違っているかのように言われれば、ひどく苦しくなるだろう。
「それでも、好きな格好をやめなかったんですね」
「うん。あの格好は、人避けにもなるし、試金石にもなるから。僕が好きな格好をしているだけで僕を避けたり、この格好さえやめれば仲良くしてもいいなんて言ったりする人とは、距離を取ることができた。その点、ヘルマンはいいやつだってすぐにわかったんだ。もちろん、君もね」
 ヘルマンとの出会いを思い出しているのか、マクシミリアンは嬉しそうにした。先ほどまでわずかに強張っていた気配が、柔らかくなる。
 自分の兄との出会いが彼にとって良いものだったことが、ベティーナも嬉しくなる。ヘルマンがいたから、こうしてマクシミリアンと出会うことができたのだ。
「でも私は、マクシミリアン様の格好を変えるよう言ったのですけれど、それはよかったのですか……?」
 傷つけてはいなかっただろうかと、不安になった。
 これまでベティーナはマクシミリアンのことを、犂馘稽貴公子瓩琉枳召猟未蝓¬擬抖い癖僂錣蠎圓世隼廚辰討い拭J僂錣蠎圓覆里六実だろう。だが、その内側には自分とそう変わらない、傷つきやすい人格があることに気づいたのだ。
 だが、そんな不安を打ち消すかのように、マクシミリアンはベティーナに優しく触れる。
「君は違う。ベティーナは、まず僕にやりたいことを聞いてくれただろう? テーマが何かと尋ねるということは、僕にやりたいことがあると理解してくれているのが前提だ。多くの人は、僕が変なことをしているとしか思っていないんだ。そこに意思や思いがあるなんて、ほとんど誰も想像してくれない」
 出会った日のことを思い出しているのか、マクシミリアンの目が輝いた。あのときも、テーマを尋ねられたのを嬉しそうにしていた。
 その喜びがこんなに大きく深いものだったなんて、思い至ることはなかったが。今なら、彼がベティーナの存在をどれほど渇望していたかわかる。
 ベティーナだって、夢見ていたのだから。自分のことをきちんと見つめてくれる人が現れるのを。
「僕を否定せずにいてくれただけではなく、君の見立ての才能は本物だった。僕がしたくてもうまくできなかったことを、君は汲み取って助言をくれた。おかげで僕は、やりたいことを曲げずに、世間に受け入れられる格好ができるようになった」
「あなたの自由さが挫かれることがなくて、よかったです」
 自分の助言がマクシミリアンの自由な発想を奪うことがなくてよかったと、ベティーナは安堵した。同時に、自分の言葉が彼の救いになったことに、ベティーナも救われた。
「僕がなぜ君に惹かれるか、わかってくれた? 君が好きなんだ、ベティーナ」
「きゃ……」
 気持ちが高ぶったのか、マクシミリアンはベティーナの体を抱きしめた。力強い腕の中に閉じ込められて、身じろぎもできない。
「君をこうして抱きしめるのを、何度も想像したよ。想像より、ずっと柔らかくて小さいな。僕の腕の中にすっぽり収まって、なんて可愛いんだろう」
 マクシミリアンはまるで愛玩動物でも愛でるように、抱きしめて頬を寄せてくる。
 彼の美しい顔がすぐ近くにあるのがわかって、ベティーナは恥ずかしくてつい目を瞑った。だがそうすると、彼のいい香りに包まれているのを実感して、さらにドキドキしてしまう。
 そうして抱きしめられると、嫌でも自分の気持ちを認識してしまう。
 マクシミリアンに抱きしめられるのが、嫌ではない。むしろ、心が震えるほどの喜びを感じる。
 だが、そうして実感するほどに、足踏みする気持ちも強くなるのだ。
 マクシミリアンほどの美しくて素敵な人に自分は相応しくないと、もっと釣り合う女性がいると。
 彼に惹かれるからこそ、今こうして抱きしめられていることが間違っていると感じてしまうのだ。
「……マクシミリアン様、だめです」
「だめって、何が?」
「こんなふうに、私に愛を囁くことです」
 これ以上抱きしめられたらとろけてしまうと、ベティーナは気持ちを強く持ってマクシミリアンの腕から逃れようとした。
 これより先に進んでしまったら、戻れなくなる。傷が浅いうちに引き返さそうと必死だった。
 だが、マクシミリアンは逃がすまいと腕の力を強くする。
「ベティーナは、僕のことが嫌い?」
「嫌いだなんて……そんなわけありません」
「では、なぜ拒むの? 僕はこんなに君が好きなのに」
「……だって、私はマクシミリアン様に相応しくないから」
 マクシミリアンの腕の中にいるのは、まるで夢のようだ。できることならいつまでも夢を見ていたい。だが、夢から覚めたときの絶望を思えば、今すぐ目覚めるべきなのはわかる。だから必死だった。
 しかし、マクシミリアンもベティーナを手に入れることに必死だった。
「相応しくないって? 君が平民だったらきっと一緒になるのに苦労があるだろうが、僕たちの間には幸いその問題はない」
「家柄は、確かにそうですが……」
「家柄に問題がないなら、何が問題なの? 僕が君を好きで、君も僕を想ってくれるのなら、それ以外に僕たちが結ばれるのに必要なことはある?」
 熱の籠もったマクシミリアンの言葉は、傷つくことを恐れるベティーナの心を打った。
 こんなふうに情熱的に訴えられて、響かないわけがない。
「……私も、マクシミリアン様のことをお慕いしております。でも、素敵だと思うあなたのそばには、美しい人に並んでいてほしいと願ってしまうのです。私みたいな者ではなく」
 ギュッとマクシミリアンの胸にしがみついて、ベティーナは訴えた。相応しくないと感じる心と、この人と一緒にいたいという心は同じくらいの強さで存在している。
 もう離れられないと自覚しながら、ベティーナは胸の内を打ち明けた。
「そんなことを言うのは、僕の気持ちを知らないからだ。君の存在が、どれほど僕を惑わせてかきたてるか、教えてあげる」
「んっ……」
 一瞬体を離して切なそうな目で見つめてきてから、マクシミリアンは強引にベティーナの唇を奪った。
 美麗で優雅な彼からは想像もつかない、荒々しい口づけだ。
 唇で唇の柔らかさや温度を確かめるような、食むみたいな口づけ。マクシミリアンの吐息や熱を感じて、ベティーナはそれだけで頭の芯が痺れるように熱くなっていた。
 だが、それだけでは終わらない。マクシミリアンはベティーナが逃れられないように頭の後ろに手を添えると、口内に舌を進めてきた。
 歯列を何度も舌でなぞられると、くすぐったいような心地がして口を開いてしまう。その隙を見逃さず、彼の舌は口の奥へと侵入してきた。
 柔らかな舌が、口蓋を優しくこする。日頃味わわないその感覚に、ベティーナの鼻からは甘い息が漏れた。
 初めは恥らって逃げ惑っていた舌を、彼の舌に捕らえられた。そのあとは、ひたすらに啜られ、彼の口内の温かさを教えられる。
 角度を変え、深さを変え、何度も口づけられ、唇の端から唾液が滴るほどになると、ベティーナはあまりの心地よさに腰から力が抜けるようにして立っていられなくなった。
「可愛いね、ベティーナ。僕がどれほど君を求めているか、わかってくれた?」
 艶めく瞳で見つめられ、ベティーナは頷くことしかできない。唇が離れ、ようやく呼吸ができるようになったが、息を整えても胸の高鳴りはどうにもならなかった。体の奥に感じる強い熱も。
「僕は君がほしいし、僕を君に与えたい。――もう、止めることはできそうにないよ」
 再びベティーナを抱きしめながら、マクシミリアンは何かに耐えるように呟いた。その少しかすれた切なげ声ににじむ熱は、ベティーナの中にもある。
 本当なら、その炎から目をそらし、今夜は離れるべきだったのだろう。
 だが、それはベティーナにもマクシミリアンにも難しいことだった。
「私も……マクシミリアン様が好きです」
 恋した気持ちをどんなふうに伝えたらいいかわからなくて、ベティーナはただまっすぐに伝えた。少しでもきちんと伝わってほしいと思い、不慣れな手つきで彼を抱きしめ返した。
 それで十分、想いは伝わったらしい。
「ベティーナ。もう君を離さないよ」

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