●著:クレイン
●イラスト:Ciel
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4094-4
●発売日:2022/9/30
生涯、私の側から離すつもりはない
義父の命を盾に脅され、王女の身代わりにハーレン国に嫁がされたラッティ。彼女は前王の庶子だった。病で死んだ母のこともあり復讐に燃える彼女は、野蛮だと恐れられるハーレン王アレシュに祖国を滅ぼすよう持ちかける。「寝る前にすることがあろう? 私はそなたを随分と気に入った」ラッティの話を真剣に聞きつつ彼女を王妃として遇するアレシュ。美しく聡明な彼にラッティもいつしか惹かれ!?

「っ……!」
男に素肌を見られることも、触れられることも、初めてなのだろう。
アレシュが触れるたびに、ラッティが小さく息を詰める。
アレシュは手のひらで彼女の大きな乳房を柔らかく揉み上げると、顔を寄せてその硬くなった先端を唇で喰んだ。
「あっ……」
とうとうラッティが、唇を綻ばせ、僅かながら声を漏らす。
その声に気を良くしたアレシュは、舌でねっとりとその実を舐め上げてやった。
与えられる刺激に合わせて、ラッティが小さく身を跳ねさせる。
なかなかに感じやすい、素直な身体をしているようだ。そんなところもまた、実にアレシュ好みである。
「……随分と良い反応をする」
つい辱めるようにそう言って顔を覗き込めば、ラッティは困ったように眉を下げて頬を赤らめ、その大きな藍色の瞳を潤ませた。
どうやら苛めすぎてしまったようだ。大事に育てられたお姫様なのだから、程々にしなければ。
その痛々しく噛み締められた赤い小さな唇が傷つかないよう、アレシュは己の唇を重ねる。
柔らかくて温かなその感触に酔いしれながら、ラッティの髪を宥めるように撫でる。
それから彼女の唇の間を舌でこじ開け、その内側へと侵入する。
それに驚いたのか、ラッティは目を見開き、身を引こうとした。
逃げられぬようにとアレシュは彼女の手を取り、寝台のシーツの上に縫い付け――そして。
「…………?」
指先に覚えた違和感に、動きを止めた。
それから、眉間に深い皺を刻む。
「……貴様。王女ではないな?」
思ったよりも、怒りを内包した冷たく低い声が出た。
腕の中に閉じ込めたままのラッティが、恐怖からか小さく息を呑む。
「……何者だ」
指先に感じる彼女の手のひらはざらりとしていて、指は節くれ立ち、所々の皮が厚く固くなっていた。
――それは、労働を知る者の手だ。
明らかに王宮の奥深くで守られ、蝶よ花よと何不自由なく育てられた王女の手ではない。
暗殺者か、はたまた身代わりか。
どちらにせよ、この寝台から生かして出してはやれない事態である。
そしてどうやらそのことを、アレシュは不愉快に思っているらしい。
――人を殺すことに慣れているはずの自分が、目の前の震える少女を殺したくないと。
ラッティは逆らわず、その体から力を抜いて、アレシュの目を真っ直ぐに見た。
覚悟を決めたのか、その藍色の目は恐怖を映すことなく、ただ凪いでいた。
「……いいえ。私は間違いなく、ヴァレンツァ王国の王女です」
往生際悪くまだ言うのかと、憤慨したアレシュは、その細い首に己の大きな手のひらを押し当ててやった。
すぐにでもこの首をへし折れるのだと、脅すように。
だがそれでも、ラッティは静かにアレシュの金色の目を見据えたままだ。
「この高貴なる赤が、何よりもの証でしょう?」
ラッティは臆することなく、言い放つ。
燃えるような赤い髪は、確かにヴァレンツァ王族の特徴として、よく知られていた。
それにしても妖精のような儚げな見た目とそぐわず、随分と肝の据わった女だ。
怒れるアレシュを前にして、こうも自分の言いたいことを言ってみせるとは。
内心で感嘆しつつも、アレシュは不快げに眉に皺を寄せてみせた。
「……ほう。ではヴァレンツァ王国は、王女に水仕事をさせるのか」
「ええ、そうなんです。正当な王女を何の支援もせずに市井に放置して、散々苦労させておきながら、ある日突然呼び出して、王族なんだから死んでこいと、敵国に送り込むような国なんですよ」
ひどい国でしょう? とラッティが子供のように唇を尖らせて言うので。
確かにそれはひどい国だと、アレシュは思わず毒気を抜かれてしまった。
「お願いです。アレシュ様。殺す前に、どうか私の話を聞いてはくださいませんか」
獅子に組み敷かれながらも、それでも諦めずに必死に交渉を続ける少女。
彼女に興味を持ったアレシュは、拘束していた手を緩めた。
所詮はこんな非力な少女一人、殺すことなどいつでもできる。
ならば長い夜に少しくらい、その囀りを聞いてみたっていいだろう。
「……良かろう。話してみるがいい」
「ありがとうございます!」
ラッティは顔に安堵を浮かべ、それからぱあっと花が綻ぶように笑った。
それはこれまでの取り澄ましたような、作られた笑顔ではなく。年相応の、おそらくは彼女本来の笑顔で。
アレシュは思わず見惚れてしまった。
――嗚呼、一体何なのだろう、この可愛い生き物は。
それからラッティは表情を改め、真っ直ぐにアレシュの目を見据えた。
「……あなたに農耕可能な肥沃な土地を、凍らない喫水の深い港を、そしてヴァレンツァ王国にある全ての知識、技術を差し上げます。――ですから」
自信満々に滔々と、ラッティは宣う。
それがはったりなのか、はたまた真実なのか。アレシュにはわからない。
だがラッティから差し出されたそれらは、確かに資源の乏しい北の大国ハーレン王国が、そしてアレシュが、喉から手が出るほどに欲しているもので。
「共にヴァレンツァ王国を滅ぼしませんか? 私、売国しちゃいます!」
そして、満面の笑みと共にその可憐な薄紅色の唇から吐き出された、途方もなく不穏な言葉に。
「…………は?」
思わずアレシュは、彼らしからぬ間抜けな声を上げた。
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