転生先で推しのイケオジ陛下に婚活指南をしたら
子作りすることになりました!
【本体1300円+税】

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●著:麻生ミカリ
●イラスト:逆月酒乱
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4098-2
●発売日:2022/11/30

怖がらなくていい。
きみは私の妻になるのだからな。

乙女ゲームのモブに転生した来歌。婚活アドバイザーだった前世の経験を生かし、ゲームヒロインと結ばれないと不幸な結果になる不憫王、セドリックを幸せにすべく彼の婚活に奔走するも、セドリックは他の女性ではなく来歌に興味を持ち迫りだす。「もっと聞きたい。きみの甘い声が、私を狂わせる」惚れ薬的なものを入手しセドリックに飲ませるが、彼はヒロインではなく来歌を押し倒してきて―!?




 ――ここは、わたしの生まれ育った世界とは違うんだ。
 生活拠点は確保できた。この世界について、知っていることを整理したほうがいい。
 テーブルには、筆記用具の準備がされている。至れり尽くせりとはこのことだ。
 けれど、知らない世界に来たばかりの来歌はなんだかひどく疲れていた。体のどこかに疲労がたまっていて、気を抜くとまぶたがとろんと下りてくる。
 ――なんだろう。体が重い。まだこの世界に馴染めてないのかな。
 紙に情報を書き出すのはあとにして、体の望むままに目を閉じた。
『ハッピーマリアージュトゥーユー』の記憶が、脳裏にゆっくりと浮かび上がってくる。
 作中のダウズウェル王国へやってきた者は、この国で暮らす許可を得る必要があった。
 もちろんモグリで暮らしていくことも可能だが、その場合は部屋を借りるにも苦労する――という設定だ。
 ちなみに攻略対象のひとりは、悪の組織の一員である。彼のルートを進むと、正式な国民としての権利を持たない者たちの悲哀や苦しみ、国との対立のようなストーリーが展開されるのだが、それはさておき。
 いろいろと闇の深い『マリユー』において、プレイヤーたちがSNSで『不憫王』と呼ぶキャラクターがいる。その人こそが、来歌の推しであるセドリックだ。
 彼はユイシスと結ばれないかぎり、必ず不幸な顛末を迎えるキャラクターである。
 ときに国家転覆が起こり、あるいは公務に忙殺され病に倒れたり、さらには悪の組織の刃に晒されたりと、とにかく不幸な末路が多い。
 別にセドリックは特別悪い国王というわけではなく、むしろ真面目で勤勉、誠実なよき王だ。
 だからこそ、プレイヤーたちは「なぜセドリックをこんなに不幸な目に遭わせる必要があるのか?」という思いを込めて不憫王と呼ぶ。
 ――わたしがこの世界に転生したのは、セドリックを幸せにするためとしか思えない。
 女嫌いと誤解され、日々公務に没頭しているので三十五歳になっても独身で、ユイシスとの結婚でしか報われない彼を、絶対に幸せにしたい。
 そのためには、結婚相談所で培った婚活アドバイザーという技能を活用するべきだ。
 むしろこの日のために、自分は『アンボヌール』で働いていたのではないかとさえ思い始める。
 本末転倒だが、どうせ現世ではもう死んでしまった身だ。今さら、どちらが大事でどちらが些事かなんてどうでもいい。
 何よりも、推しの幸せだ。そして、この世界で生きていく自分の身の振り方も重要なのだ。
 当面の生活は、無料の宿場にいるかぎり問題ない。あとは、この世界で何ができるかだが――
 ――仕事としてできること、やっぱり婚活アドバイザーしかないと思う。それなら、セドリックの結婚に協力できるし、そのあとも結婚相談所みたいなお店を開いて……
 そこで、来歌の意識はぷつりと途切れた。
 疲労の限界が来たらしく、心地よいベッドで眠ってしまったのである。
「マサゴライカさん、お食事はどう……あら、寝てしまったのね」
 宿の女性が部屋を開けたことにも気づかず、すやすやと眠る来歌が、この先、ダウズウェル王国に大きな変化を与える存在だと知る者はまだ誰もいない。

          § § §

 ――いざ、ダウズウェル王宮へ!
 この世界に来てから十日が過ぎ、ついにセドリックとの謁見の日がやってきた。
 宿場で、しっかりとプレゼンの準備もしてきている。資料も作った。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「ありがとうございます。いってきます!」
 世話役の女性に手を振って、来歌は推しの待つダウズウェル王宮へ向かって出発した。
 謁見の順番待ちの十日間で、王都の徒歩で移動できる場所は散策済みだ。
 もともとゲームで知っている土地なので、実際に自分の足で歩き、目で見ることにより解像度は上がっている。地理もそれなりにわかるようになったし、街の人と話をして、いろいろ学んだこともある。
 ――王宮まで、けっこう距離がある。そういえばゲーム内でも序盤は徒歩だったけれど、馬車を手に入れると行動範囲が広がるんだよね。
 この世界に、チートはない。
 少なくとも来歌が知る『マリユー』にあったのは、魔女の工房で作られる親愛度が上がる飲み薬くらいのものだ。だとすれば、この先の生活を考えると馬車を入手するのは無理でも、乗合馬車を利用できるくらいの賃金を稼げる仕事に就かなければ。
 王宮に着くと、先に来た今日の謁見に参加する者たちが数名、白い石壁の城壁にそって並んでいる。
 ゲーム内でも、国王は毎日正午から夕方まで移民の受け入れのため謁見の間に控えていた。
 日が傾くより早く、来歌の順番が回ってくる。
 三次元の世界で推しに会えると思うと、早くも心臓が早鐘を打った。
 ――ついに、ついにセドリックに会える!
 王宮警護の騎士に連れられて謁見の間に到着する。
 玉座にセドリック・ダウズウェルが座っていた。その足先をちらと見て、来歌は顔を伏せる。
 まだ顔を見られない。
 ――セドリックの足!
 緊張して、彼の足元からゆっくりと視線を上げていく。
 王家の貴色である紫を基調としたマントの裾、よく磨かれた編み上げの長靴に、銀糸で刺繍を施したトラウザーズ。そして――
「私がダウズウェル王国国王、セドリック・ダウズウェルである。まずは名を聞かせよ」
 ――……本物だ。
 女嫌いと誤解されるほど気難しく、それでいて懊悩の表情とは裏腹に目尻の下がった甘い顔立ちをしたセドリックが、凛と響く声で問いかけてくる。
 紫がかった銀髪はやわらかに揺れ、灰色に青の混ざったアースアイは極上の宝石のようだった。
 推しを前に、来歌の心が逸る。
 思えば、セドリックを幸せにするため、何度『マリユー』を周回プレイしたかわからない。
 彼はゲームの真相ルートに該当するわけではないものの、最初から攻略できるキャラでもないのだ。
 他キャラのルートで不憫な結末を迎える彼に歯がゆい思いをし、奥歯を噛み締め、攻略サイトに頼ることなくセドリックルートに入れたときには、思わず天を仰いだ。
 そこにあったのは青空ではなく、見慣れた狭いアパートの天井だったけれど。
 今、来歌の眼前にはセドリック・ダウズウェルが存在している。
 ――三次元でも美しすぎます、陛下。
 返答も忘れて見惚れる来歌を、セドリックが眉根を寄せて見つめ返す。
「言葉がわからないのか?」
「い、いえ、失礼いたしました。わたしは真砂来歌と申します、陛下」
 我が王と呼びかけたいところだが、来歌はダウズウェル王国の国民ではないためそれはかなわない。
 通常、現代世界でどこぞの王国の国王陛下とお近づきになりたいなんて思ったところで、そんなことはそうそう実現することではないだろう。
 しかし、ここはゲームの世界。
 ある種のご都合主義がまかり通ってもいいはずだ。
「マサゴラ、イカ?」
 セドリックには、来歌の名前が人名として認識できない響きだったようだ。
「あ、ライカで結構です」
「ライカか。心得た」
 白皙の頬に、憂いに満ちた美貌。前髪が落とす影すらも愛おしい。
 あまりに完璧な美を前にして、来歌は――いや、ライカは息を呑んだ。
「では、ライカよ。きみはこの国のためにどんな仕事ができるか聞かせてほしい。学問や研究でも構わない。我が国で生きるためには、まず仕事を決めなくてはいけない」
 働かざるもの食うべからず。
 ダウズウェル王国は決して貧しい国ではない。むしろ、大陸内でも大国として名を馳せている。
「あの、わたしは――」
 準備してきたプレゼンは、推しを前にしてすっかり頭から飛びかけている。
 ――わたし、婚活アドバイザーです!

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