懐妊同棲
極甘社長とワケあり子作り始めました!?
【本体1300円+税】

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●著:玉紀直
●イラスト: 獅堂ありす
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4815-5-4303-7
●発売日:2022/12/28

このままここで君を抱きたい

天才デザイナー善家新の会社で働く沙季は、彼が余命一年の身で、子どもがいれば…と話しているのを聞いてしまう。新の作品で心を救われたことのある沙季は、尊敬する彼の子どもを産むことを決意すると、新に直談判して子作りの為の同棲生活を始める。「真っ赤だ。君はこういうところもかわいいな」つらい事情のはずなのに、新は何故か余裕のある様子で沙季をどろどろに甘やかし溺愛してきて!?




「よしっ」
 パウダールームの鏡の前で勢いをつけ、沙季は新のアトリエへ向かった。
 使命感に燃える心の炎はなおも大きくなり、彼の顔を見るなり、開口一番「先生の子どもを産ませてください」と言ってしまいそうだったのだが……。
「水澤さん、すまなかった」
 ……開口一番……新のほうから謝られ、沙季の勢いは落ちる。
「あの……なにが、ですか?」
 いきなり謝られると、話す前から沙季の申し出を断られてしまった気分になる。
 アトリエに入ったのはいいが、謝罪の意味がわからず困惑して固まった沙季の前に立ち、新は申し訳なさげにまぶたをゆるめた。
「俺は、水澤さんの相談内容を決めつけてしまっていた。おかしな勧誘にあって困っている、とか、保証人を頼まれて困っている、とか、条件のいい職を紹介されて迷っている、とか……」
「いえいえいえ、決してそんなことでは……! 絶対に! ない! です!」
 沙季は首を左右に振って必死に否定する。予想の三番目について激しく否定したかったため、必要以上に強調した。
 言わせてもらえば、たとえここより給与面で条件がよくたって、新の元を離れて違う職場で働くなんて天と地がひっくり返ってもあり得ない。
「しかし水澤さんは大人の女性なのだし、悩んでいるとしても年相応の悩みだと捉えるべきだった。勝手な誤解をしてすまなかった」
「い、いいえ、そんな……。かえって、ご心配をおかけして、申し訳ありません」
 確かに、なにか深刻なトラブルに巻きこまれたのかと思いこんでしまった雰囲気はあった。しかしそれは勘違いをしただけであって、沙季に実質的な迷惑は掛かっていない。
「女性としての君に失礼をした。許してほしい」
「そんな……先生……」
 この人は、どうしてこんなにも他人を思いやれるのだろう。沙季の心は感動に包まれる。
 純一無雑な慈愛心を持っているからこそ、彼が作り出す作品には癒しがある。十年前の沙季も、それに救われた。
 新と言葉を交わすごとに彼の素晴らしさが更新されていく。更新されすぎて、沙季にとっては本当に神様レベルなのだ。
 感動に打ち震える全身が、尊敬と敬愛と使命感を膨らませていく。漲っていく愛しさを、いったいどこの感情に振り分けたらいいものか。
「それで、俺に相談というのは? 俺で相談にのれること?」
「はい、むしろ、先生でなければ無理なことです」
「それは責任重大だな。話してくれ」
 新は座りながらゆっくりと聞くつもりだったのだろう。手でソファを示して座るように促し、足を向ける。しかし気持ちがあふれすぎた沙季は、それを待てなかった。
「わたしに……先生の子どもを産ませてください!」
 新の足が止まった。彼はきっと、今とても驚いた顔をしているだろう。聞き間違いかと眉をひそめているかもしれない。
 冗談だろう。からかっているのかな、そうは思われたくない。そのためには心の中にある沙季の想いを、すべて伝えなくては。
「先生は、お仕事にすべてを捧げていらっしゃる方なのはわかっています。けれど、先生ほどの才能を、ここで途絶えさせてしまうのは業界にとって、いいえ、人類にとってとんでもない損失だと思います。わたしは、先生が作り出す世界を受け継げる才能を絶やすべきではないと思うし、わたし自身、それがなくなるのはいやです。先生の可能性を受け継いだ子どもがいれば……そう思うと、わたしが力になれないかと、そればかりを考えてしまって……!」
 冷静に切り出したつもりでも、徐々に口調が興奮してきているのがわかる。昂るあまり話が支離滅裂になってもいけない。気をつけつつ、一拍置こうと深呼吸をした。
「先生の役に立ちたい……。先生のためになにかしたいんです……。先生が、わたしでもいいとおっしゃってくれるなら……」
「駄目だ」
 振り返った新が真剣な表情で沙季を見る。静かな否定ではあったが、まるで怒鳴られたかのよう身体が震えた。
「君が……俺が作り出すものに共感してくれているのは嬉しいし、俺自身を慕ってくれるのも嬉しい。けれど、だからといって、女性としての自分を犠牲にするようなことを考えてはいけない。なぜそこまで思い詰めてしまったんだ?」
「自分を犠牲にするなんて、考えていません。わたしは、せめて先生の血を引いた子どもをこの世に残したくて……」
「逆に聞きたい。水澤さんが、そこまで考えてしまったのはどんなことが原因だ?」
 新は理由が知りたいのだ。なぜ沙季が彼の子どもを産みたいなんて言い出したのか。
 彼の才能を世に残したい。そんな説明だけでは足りないのだろう。子どもを産みたいと決めたきっかけを口にするしかない。
 自分を犠牲にしているなんて思われたくない。新は沙季を心配してくれている。これはいただけない。新を心配させるなんて、沙季にとっては言語道断だ。
 新から注がれる、心の中を見透かされそうな眼差し。目が合うたびに感動してしまう眼差しに負けそうになりながらも、沙季は彼を見据えた。
「余命……一年だと、聞いたので……」
 新が目を見開く。盗み聞きをしていましたと言っているようなものだが、やはりこれを理由に持ってこないと、彼を納得させられないだろう。
「最期の最後に……、わたしにできるのは……、これだと思ったんです。誤解しないでください、結婚したいとか、そんな 大それた気持ちは持っていません。ただ、――尊敬する、大好きな先生の子どもを産みたい。……それだけなんです」
 あとはなにを言えばいいだろう。どんな気持ちを伝えたらいいだろう。
 彼に対してかかえている篤い想いは言い表せないほどある。それをすべて口に出せば、わかってもらえるだろうか。
 沙季を見据えていた新のまぶたがゆるむ。なにかを考えこみ黙った彼だが、しばらくして決心したよう、口を開いた。
「そこまで言うなら……作るか、子ども……」
 承諾の言葉が、新の口から紡がれたのである――。

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