●著:火崎勇
●イラスト: なおやみか
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4307-5
●発売日:2023/02/28
愛しいと思うから、お前を求めている
男爵令嬢のリリアナは、怠惰だが美しい国王デュークスの28人目の妃候補に選ばれた。彼は妃候補を次々と喪っていたのだ。前々世で夫の国王に斬られた記憶を持つリリアナは面倒事を避ける為、体に引き継がれた大きな傷跡を見せ縁談を断ろうとするが、デュークスはそれを見て彼女と結婚すると言い出す。「お前が喜ぶことをもっと教えろ」全てに無関心な王が、リリアナにだけ甘い執着を見せはじめ!?

「ではせめて私の処遇を決定してください。先に申し上げますが、私は妾妃にはなりません」
「王妃になりたいのか?」
「王妃など望んでおりませんが断れない以上それはどちらでも構いません。貴族の娘ですから、政略結婚は諦めております。ただ、既に議会の承認を得た婚約者となってしまったからには、簡単に破談にされては困ります」
「何故困る? 家に戻ればいいだけだろう」
「王が私を退けるほどの瑕疵があったと言われてしまうからです」
「次の縁談に響く、か」
陛下はバカにするように笑った。
「私は結婚するつもりはありませんでした。ですから、陛下に破談にされても気にしませんし、次の縁談が来なくても気にしません。ですが、私に瑕疵があるとなれば、家名に傷が付きます」
「では適当な縁談を世話させよう」
「無理です」
「無理?」
「私にはこれがあるので、どなたも私との結婚は望まれないでしょう」
私はドレスの左の襟元に手を掛けると、グイッと引っ張った。貴婦人にはあるまじき行為だが、『現代』を生きた私には胸元ギリギリまでは見られても問題ない。
私が結婚をしない理由、できない理由がそこにあるので見せなければならなかったのだ。
左の肩口から斜めに伸びる、まるで剣で切られたような赤い痣。
これは前世に生まれた時からあるものだった。
すぐにわかった。これはその前の世界、前々世で皇帝に切られた傷痕なのだと。精神的にも肉体的にも強い衝撃だったから、表れたのかもしれない。
人の容姿に寛容であるはずの『現代』でも、私のこの痣は男性に受け入れられなかった。
そして何故か、今世でも、この痣は私の身体に残ったのだ。
『現代』より女性の容姿にうるさい今世では、私を妻に望む人などいないだろう。
さっきまでやる気がなさそうにしていた陛下さえ、目を大きく見開いて私を見ているもの。
「生まれた時からこの痣があるので、結婚は諦めておりました。その上陛下に破談にされたとあっては、私の人生は悲惨なものとなるでしょう。ですから、破談になさるならせめてその理由を一緒に考えてください。たとえば、婚約者候補の侍女とするために呼んだのだとか……」
話している途中、陛下は膝掛けを手に飛びつくように私に掛けより、露にした私の肩を包んだ。
「見るな!」
それはシモンに対する命令だったのだろう。
あら、これは意外にも陛下は純情な方だったのかしら?
「ロレス男爵の娘と言ったな」
「……はい」
「名は?」
さっき名乗らなかったかしら?
「リリアナです」
「シモン、リリアナを我が婚約者とする」
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