転生悪役令嬢は、氷の侯爵を決死の覚悟で誘惑する バッドエンド回避で溺愛ルート突入です!【本体1300円+税】

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●著:茜たま
●イラスト:鈴ノ助
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4310-5
●発売日:2023/03/30

約束する。俺も永遠に、君のものだ。

ゲームの悪役令嬢キャラに転生していると気づいた伯爵令嬢ルイーゼ。
義妹が対象キャラを全員攻略すると自分は残酷なバッドエンドを迎えてしまう。
回避するには隠しキャラの氷の侯爵クライドを、悪女らしく籠絡する他にない。
「命を懸けて俺を誘惑するんじゃなかったのか」
自信家で俺様タイプのクライドは、突然やってきた彼女に最初は警戒するも、次第に身も心も甘々に溺愛しはじめてきて──!?






 クライドから呼び出しがかかったのは、その日の夜も更けた頃だ。ルイーゼがいつものように部屋で一人、夕食を取った後である。
 真っ先に思いついたのは、虫を潰したことを理由に魔女として断罪されることだったが、冷静に考えればそれよりも恐ろしいことはまだ他にもある。
(もしかして、私がここにいることにバルバラが気付いて探しに来てしまったとか? もう少し時間稼ぎができると思っていたのだけれど……)
 ローレン家は、王国の東と南端に領地を持つ。
 東の大きな屋敷は既にバルバラの支配下にあるが、南の国境付近にある小さな屋敷の管理をしている使用人には、亡き母の親族が残っているのだ。
 可能な限り、自分が南の領地に滞在しているというふりをしておいてほしい。王都を出る時に彼らにそう手紙を出しておいたのだが、もう見破られてしまったのだろうか。
 びくびくしながら本棟に向かったルイーゼは、あの執務室に通された。
 応接スペースにまで書類が積み重ねられているが、ランプの灯りに照らされたクライドは疲れた様子も感じさせず、相変わらずの美形ぶりだ。
「昼間のメイドだが、無事に診察も済んで静養している」
 正面のソファに座るや否や、クライドは切り出した。
「応急処置が適切なものだったと、医者が褒めていた」
「ああ、よかったです。大したことはしていないですが」
 ホッとして思わず笑顔になった。
「患部に湯をかけたそうだな」
「足が多い虫と聞いたので、私の知識では熱に弱かったかと……廊下を濡らしてしまい、申し訳ありません」
 廊下の惨状を思い出して、気まずくなる。
「そんなことは気にしなくていい。使用人たちが感謝していた。俺からも礼を言う」
「いえいえ、そんな」
 最悪の話題ではなかったと分かり、こちらが礼を言いたい気持ちだ。
 メイドが温かいお茶を二人の間に置いて行く。口付けると緊張がほぐれていき、思わずしみじみとした笑みが浮かんだ。
「死骸を確認したんだが、確かにこの地方にはない種類の虫だったな」
「はい。南部でも見たことがありません。貿易品に生き物が混入するのはとても危険なことですので、今後はさらに管理を徹底するべきかと」
 クライドは驚いたような顔をした。何かおかしいことを言っただろうか。
「ああ、その通りだな。そういえば、ずいぶんと応急処置の手際が良かったそうだが、そういったことには慣れているのか?」
「母の実家が薬師の家系でした。田舎では診療所のようなこともしていましたので、幼い頃からよく手伝いをしていて」
「なるほど、患部に塗った薬のことを医者が知りたがっていたが」
「ああ、あれは南部で採れる多年草から作ったものですね。葉を陰干しすると効果が倍増するんです」
「へえ、君が作るのか?」
「はい。切り傷にも火傷にも効くので重宝しているんですが、役に立ってよかったです。南部では、一家に一瓶常備しているくらいなんですよ」
 昔からの使用人がバルバラに解雇されてから、薬草について興味を持ってくれるような人は周りにいなくなってしまった。
 ついつい詳しく話してしまったが、クライドがじっとこちらを見ていることに気付き、ルイーゼは口を閉ざす。
(薬草オタクって、もしかして悪女っぽくなかったかしら。でもおとぎ話では、毒林檎とか作ってたし……いや、あれは魔女……?)
「まあ、ちょうど偶然薬がありましたからね。試しに実験したいと思っていたので、ちょうどいいんですよ」
 そう言って、悪女っぽくにやにやと笑ってみせる。
 やはり悪女というより魔女っぽかったかもしれないが、クライドが不快そうな顔をしたのでよしとした。
(って、それどころじゃないわ。もしや今って誘惑のチャンスなのでは?)
 ここしばらく会話すらできなかったクライドと、夜更けに二人きりなのである。
「ショールを破ったそうだが」
「え? ああ、ちょうどいい長さの包帯がなくて。でも汚れていなかったので衛生面はご心配なく」
 頭の中を猛スピードで回転させながら、上の空で答える。
 男性を誘惑する。
 社交界で手当たり次第に男たちへと色目を使ってきたルイーゼ・ローレンにとっては、容易いことのように思える。ルイーゼが視線を向けて思わせぶりに微笑むだけで、大抵の男はのぼせ上ってしまったのだから。
 しかし、それらは全てバルバラに操られて半分夢の中にいるような状態でやったことだ。記憶すら曖昧で、いざ再現しろと言われてもなかなか難しい。
 だけど何故か、バルバラが攻略対象たちを虜にしていった様子は、つぶさに覚えている。
 とりあえず咳払いをして、背筋を伸ばす。胸元を突きだすように、ゆっくりと。
「……」
 クライドは特に何の反応も示さず、涼しい顔でカップを口元に運んでいる。
「それで、他の薬も作ったりするのか?」
「えっと、はい、まあ、そこそこに……」
 クライドは随分薬に興味があるようだ。ルイーゼは適当に答えながら、髪を一つにまとめていた櫛を抜いた。艶やかな金髪が、たっぷりと肩に零れ落ちる。
「頭でもかゆいのか?」
 クライドは表情を変えることもなく、とんでもないことを言った。
「えっ。いいえ、ちょっと……寒くて」
「暖炉の火を強めようか」
「大丈夫ですわ、これくらいで」
(バルバラと同じようにやってみるのよ)
 アランと一緒にいた時? いや違う、近いのは宰相令息といた時かもしれない。どちらにしても、バルバラが彼らを誘惑していた時のように。
 悪役令嬢ルイーゼ・ローレンなら、きっとできる。
「でも、やっぱり少し寒いかもしれませんわね……」
 緊張しつつ立ち上がると、こちらを見上げるクライドの元へとテーブルを迂回して近付いていく。
「クライド様の近くなら、温かくなれそう」
 隣に腰を掛け、思い切ってぐっと身体を寄せた。
 ルイーゼにとってはもうこれ以上ない程に大胆な行動だったのだが、クライドの表情は少しも変わることがない。
「俺はさっきまで外にいたから、むしろ体が冷えていると思うがな」
「そんなことないわ、むしろ暑いくらいだもの」
 思い切って、ブラウスのボタンを上から一つ、ぷつんと外してみせる。
 クライドの視線が、ちらりとそこに向いたのを感じた。
(行ける、行けるわ……! さあ、襲い掛かってきて、クライド・フォン・ランドルフ!!)
 しかし、クライドは動かない。
 ソファの肘置きに腕をつき、ルイーゼを無表情に観察してくるだけだ。
(もう、何なのよ……これでもまだ、足りないっていうの?)
 やはり、クライド・フォン・ランドルフともなるととんでもない女たらしなんだろうか。
 女性経験が豊富すぎて、ちょっとやそっとの誘いでは何とも思わなくなっているのかもしれない。
(ああ、やっぱりクライドルートを攻略していないのはあまりに痛いわ。せめてもう少し攻略サイトを読み込んでさえいれば……)
 しかしとにかくまずは、もう少しやる気になっていただかないことには……。
「クライド様……」
 ルイーゼは、クライドの青いタイをぐっと引き寄せた。
「ひゃ」
 思っていたより顔が近付いてしまったので、慌てて手を放す。しかしクライドはほんの五センチくらいの距離から、ルイーゼのことをじっと見つめてくる。
「クライド様、ちょっと……さ、寒いですわね?」
「くっ……」
 クライドが不意に噴き出した。
「ど、どうか……されましたか?」
「いや、君の話題はさっきから暑いとか寒いとかそんなのばかりだ。老人みたいだな」
「ねえ、さっきから、かゆいとか老人とか、そんなことばっかりなんなんですか!」
 思わず盛大に叫んでしまった。
「いや、虫を踏み潰していたから、皮膚がかぶれたりしてかゆいのかなと」
「踏み潰したんじゃありません、靴を脱いで潰したんです!」
 耐えられないというようにクライドは笑い出した。
(もう! ぜんぜんそれっぽい空気にならない!)
 苛立ちに任せてもう一度、タイをさらに力任せに引っ張った。
 距離が近付くと、クライドの身体がルイーゼの身体などすぽりと覆ってしまいそうなほどに逞しいことが分かる。こちらを見つめる切れ長の瞳はうっすらと涙袋が縁どっていて、それが甘さをかもし出している。
 黒いシャツの胸元からわずかにのぞく鎖骨も、片方の端が意地悪く持ち上がった薄い唇も、耳に光る鋭角なピアスも。全てが色香を漂わせていて、息が詰まってしまいそうだ。
 手が震えないように必死でこらえて、ルイーゼは精いっぱい妖艶に微笑んでみせる。
「そういうことばかりおっしゃるのは照れ隠しですか、クライド様。意外と可愛らしいところがあるんですのね」
 今のはかなり上手くいった。その証拠にクライドは一瞬真顔になってじっとこちらを見つめている。
「私の身体が見たいなら、素直にそうおっしゃればいいのに」
 ルイーゼは、そのまま自分のボタンを外していく。
 指が震えて少し手間取ったが、白くて深い谷間が、胸当てに収められているのが露わになってくる。
 男性の視線というものがどこに向けられているのか。それをこんなにも肌で感じられるのだと、初めて思い知っていく。
「すごいな。触っていいのか?」
「えっ!? あ、も、もちろん……で、すわ」
 しれっと言われて、ルイーゼは慌ててこくんと頷く。
「い、いくらでも、触っていいんですわよ、クライド様」
 クライドは片手でルイーゼの腰を引き寄せて、もう片方の掌を胸当ての上に重ねた。
(男の人の手って、こんなに……大きいんだ)
 肩が跳ねてしまいそうになるのを、ルイーゼはスカートを握りしめてこらえる。
 バルバラは決して、こんなふうにいちいちびくびくとはしないはずだ。
 クライドの手が、胸当てごと胸を持ち上げる。大きくたっぷりと、その重量感をルイーゼ自身にも思い知らせるようにゆっくりと。そして胸当ての生地の上から、不意に胸の先端を、くりりとつまみ上げたのだ。
「……ぁんっ……」
 驚くほど甘い声が、破裂したようにこぼれてしまう。
 クライドが目を丸くして自分を見ているが、おそらくルイーゼの目も負けないほどに大きく丸くなっているだろう。
「えっと……」
 頬が熱くなる。ちょっと今の声は悪女っぽくなかった気がする。
「ずいぶん敏感なんだな」
 しかしクライドは、もう一度同じところを指先でくすぐる。さらに反対の胸にも手を当てて、両方の胸の先をゆっくりと辿った。

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