転生崖っぷち宮女はクールな絶倫皇帝の溺愛花嫁になりました 陛下、独占欲がだだ漏れです!【本体1300円+税】

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●著:東万里央
●イラスト: すずくらはる
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4815543112
●発売日:2023/04/28

私をもっと欲しいと鳴いてくれ

現代から異世界に転生した元経理OLの雪梅は、父親から妓楼に売られたところ、お忍びで来ていた皇帝・康煕に助けられる。
彼女の経理の才能を知った康煕は、その後雪梅を後宮の会計を担う宮女に推薦すると、彼女の元を訪れては溺愛してくる。
「お前はここがよく感じるんだな。覚えておこう」
快感を教え込まれ熱い求愛に惹かれる雪梅だが、康煕の異母弟・聖明にもなぜか興味を持たれて…!?



「は、はい、なんでしょう」
「お前への褒美はその竪箜篌だけでは足りぬ気がしていた。一人きりの一時を邪魔した詫びもある。そこでだ」
 康煕は雪梅を尚儀局の司楽から尚宮局の司簿へ戻してやろうと告げた。
「えっ……本当ですか?」
「ああ。そもそも司簿の異常な異動の早さは道玄の意図したものだったからな」
 つまり、仕事の詳細を把握する前に異動させることで、自分の犯罪を見破る者が現れないように取り計らっていたのだ。
 ちなみに、雪梅が宮女の選抜の際他の候補者に妨害され、筆記試験で最悪の成績だったのにもかかわらず宮女として採用されたのも、逆に数字に疎い、ドジな娘なら、横領もバレないだろうと踏んだかららしい。
 なお、美人を採用すれば皇帝の覚えもめでたくなるだろうとの計算もあったと聞き、がくりとした。
「どうした」
 そんな理由で採用されたのかと悲しくなったが、世の中は結果オーライではないかと気を取り直す。
(そうよ、きっかけなんてなんだっていいじゃない。とりあえず、白いご飯がお腹いっぱい食べられるところで仕事ができるようになったんだから)
 康煕が話を続ける。
「だが、その道玄もいない今その必要はない」
 ならば、適材適所。個人の特性や能力に合った局、あるいは司に配置しようということになったのだとか。
「あ、ありがとうございます……!」
 司楽にいる間、やはり性に合わぬ。数字を扱いたいと実感していたため、この提案はありがたかった。
「あっ、それとできれば……」
 おずおずともう一つの望みを口にする。
「文深閣への出入りを許可願えないでしょうか?」
 文深閣とは禁城内にある蔵書楼──つまりは図書館だ。世界中からありとあらゆる書物が取り寄せられている、知の宝庫でもあった。
 貴重な書物ばかりであるために、文深閣に出入りできる者は皇帝の康煕、その他皇族、資料を必要とする貴族、官吏、宮廷直属の学者に限られている。
 宮女以前に女の出入りなど想定されてすらいないだろう。
 そのためにダメ元覚悟だったのだが──。
 康煕は微笑みながら「よい、許す」と頷いた。
「えっ……」
「お前はつくづく女らしくない望みを口にするな」
「あっ……ありがとうございます……!」
「それほど嬉しいか?」
「はい。私は学がないので、なんとかそれを独学で埋められないかと。文深閣にはどんな学問の教科書もあるでしょう?」
「学がない? とてもそうは見えぬがな」
「以前も申し上げたように貧民の出なので……」
 食うや食わずの暮らしをしていた頃は、勉強など考えられもしなかったのだが、衣食住の保証された今、その必要性を痛感するようになっていた。
 読み書きと貧民なりの処世術だけ習得しているが、転生したこの世界──焔についての知識量は底辺にある。美雪の細々とした記憶がなければどうなっていたのかわからない。
 だが、いつまでも前世に頼り切りでもいられない。雪梅として今を生きるために今の知識がほしかった。
 だから、自分の生まれ育ちを恥じているわけではないが、やはり康煕のような王侯貴族の子息らが、当然のように教育を受けられるのが羨ましい。それも、一般常識から教養レベルまで幅広いの
だから。
「なるほど、お前には一から知識が必要なのだな。だが、独学は無理があるのではないか。師が必要だろう」
 と言われても、焔では教師と呼べるような存在は皆男だ。皇帝と宦官以外男の立ち入れぬこの後宮に呼び出すことはできない。女性もいないわけではないが競争率が高く、皆王侯貴族の令嬢に雇われている。
「確かにそうなのですが、師になっていただけるような方が……」
 黄金色の目がふと細められた。
「ここにいるだろう」
「えっ……」
「お前の目の前にいる男は実学はもちろん、文学、史学、書道――お前には帝王学は必要ないだろうが、教養と呼べる学問は一通り修得している」
「……」
 ぽかんとしてしまった。数秒後、我に返って「滅相もない!」と手を振る。
「そんな、恐れ多いです。陛下に教えていただくなど……」
 康煕は珍しく声を上げてくすくすと笑った。
「雪梅、人に教えるにはみずからがその学問の理を解していなければならぬ。それゆえ、人の師となることは、もっともよき学びの道だとも言われていてな」
 つまり、皇帝である自分のためにそうしろというのだ。
「それは、命令ですか?」
「ああ、そうだ」
(……ずるい)
 照れ臭い思いで目の前の康煕の笑顔を見つめる。
(皇帝陛下の命令なんて断れるはずがないじゃない。それに……)
 そんな無邪気な笑顔を見せられては受け入れざるを得ない。
(陛下のこんな笑顔を初めて見たかもしれない)
 康煕はいつ何時も冷静で、落ち着きのある立ち振る舞いをしている。妃たちにも宮女にも感情的なところを見せたことがなかった。
「……命令なら仕方ありません」
「意地っ張りだな」
「……」
 恥ずかしくなって俯く。
 ところがすぐに顎を摘ままれくいと上向かされた。
「へ、陛下?」
 熱の籠もった黄金色の眼差しに射貫かれ呼吸が止まる。
「あ、あの……」
「……お前は愛らしいな」
 耳を擽る囁きに思わず「ひゃんっ」と甲高い、奇妙な声を上げてしまった。
「愛らしくて、食べてしまいたくなる」
 不意に抱き寄せられ、肩が袍越しではあるが、康煕の厚い胸板に触れた。
「……っ」
 自分とはまったく違う、かたい感触にビクリとする。
「へ、陛下……」
「何も言うな」
 肌寒い夜であるだけに、重ねられたその唇は熱く、少し乾いていた。
 一旦離れたかと思うと、またすぐに塞がれ、言葉を呑み込まれてしまう。
「へ……い……んっ」
 繰り返される口付けのわずかな間に、康煕はその黄金色の瞳で心を注ぎ込むように藤色のそれを見下ろし、雪梅が息を呑む間にまた口付けた。
 夜風がざざと、細い背に流れ落ちる雪梅の長い黒髪を揺らす。そのかすかな音以外、二人の邪魔をするものは何もなかった。

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