ヌリタス 〜偽りの花嫁〜 下【本体1400円+税】

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●著:Jezz
●イラスト: なおやみか
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4815543167
●発売日:2023/05/30

あなたが笑うと春に咲く花のようだ

馬上試合の大会でお互いの大切さを確かめ合ったヌリタスとルーシャス。だが試合でルーシャスに負けた男が逆恨みで彼を狙い、庇ったヌリタスは瀕死の重傷を負ってしまう。ヌリタスを気に入っていた国王ルートヴィヒは、彼女を助けるため王家に伝わる秘術を施す。「あなたが目を覚ましてくれたらどれだけ幸せか」普段の余裕を捨てて祈るルーシャスの声は、暗闇に沈んだヌリタスの意識にも届いて!?

7か国語でwebtoon連載された原作小説待望の日本上陸!
マンガアプリ「comico」と、comicoの海外版マンガアプリ「POCKETCOMICS」にて連載中!
全世界累計1億PVを突破した人気作!!!

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 少し過去を彷徨って正気に戻ったルーシャスは、ヌリタスが変わらずに自分を見つめていることに気がついた。彼は少し微笑むと、彼女の手を握って引き寄せた。
「俺は絶対に怪我などしない」
 ルーシャスは、彼女をロマニョーロの老いぼれや世界のすべてから守ると誓ったのだ。
「信じております。公爵様」
 ヌリタスにとって公爵とは、ただ強いだけの存在ではなかった。言葉では説明できない、絶対的な信頼と尊敬を、彼に対して抱いていた。
 自分自身のことすら信じられない時に、このような感情を他人に抱くことになるとは。
だがルーシャスは、ヌリタスが今も自分のことを憧れの騎士を見つめるような瞳で見つめることに不満を感じた。
「今日聞きたいのは、そんなことじゃない」
 熱っぽい黒い瞳が、彼女だけを見つめていた。
 その瞬間、ヌリタスは突然テントの中の空気が変わるのを感じた。
まるで、少し前までの出来事が再び繰り返されるような気がして、この場を離れたくなった。
(……彼はこんな私を受け止めてくれる?)
 だがそんな心とは裏腹に心はとても正直で、公爵の告白を頭の中で何度も繰り返し再生していた。
(どうしたらいいんだろう)
 公爵に近付こうと決めたものの、そんなとんでもない告白にどう答えたらいいのかわからなかった。
 ヌリタスは激しく混乱した。逃げるつもりはなかったが、少し呼吸を落ち着かせる時間が必要だった。
 しきりに後ずさりしようとするヌリタスを見て、ルーシャスは彼女の手を引き片手で腰を抱き寄せた。
 そして上着の袖を少しまくりあげ、手首に巻いたハンカチに口付けた。
 ヌリタスはまるでその姿が、公爵の唇が彼女に触れたかのように感じ、全身が緊張に包まれた。
(あんなみっともないハンカチを、どうしてこんなに大切にしてくれるの……)
 ヌリタスはルーシャスのせいで、呼吸が苦しくなった。どうかこの震えが彼にバレないようにと祈った。
ルーシャスは指先から伝わる彼女の高まる鼓動の音に拍子を合わせて、優しい瞳で彼女を見つめて求めた。

「告白の答えが聞きたい」

 ヌリタスは彼の視線にこれ以上抵抗できなかった。
 ゴクリと唾を飲み込んだあと、ヌリタスは深みのある瞳を上げて公爵をしっかりと見つめた。
 彼の気持ちに答える前に、やらなければならないことがあった。だが自分の口で自分の惨めな姿を明かすのは、そう簡単なことではなかった。
「私は……」
ヌリタスはもう一度唾を呑み込んだ。
「私は公爵様に相応しい人間ではありません」
 それは最初から明らかな事実だった。彼女はただの嘘つきな私生児で、公爵は本物だった。彼に惹かれる気持ちを認めてしまったら、彼女を包む闇が彼も飲み込んでしまうのではないかと思い、怖かった。
「いつか、私のせいで公爵様に災いが起こるかと思うと、怖いのです」
 ロマニョーロ伯爵は、長い間、多くの人を蹂躙しながら全く悪びれていなかった。そして恐ろしいほど異常な思考を持っていた。私生児と本当の娘を入れ替えようなど考える者がいるだろうか。
 ヌリタスはすべてを企てた伯爵が公爵にも危害を加えるのではないかと不安だった。
 ヌリタスは彼女が抱いていたたくさんの想いを、ルーシャスに打ち明けた。
 そして審判を待つ者のような気持ちで、ぎゅっと目を閉じた。公爵のもとへ行きたくても、それを妨害する足枷の音がガチャンと耳元で響く。
(ロマニョーロ伯爵の哀れな私生児)
 それは見えないようにヌリタスに刻まれた罪名だった。やるせない気持ちになり、深くうつむいた。
 何はともあれ、今向かい合う二人が、嘘だらけの夜から始まったことは否定できない事実だった。そして彼女だけが潔白だと主張するのも、違うと思った。
(真実という素顔よ。どうか時間を戻しておくれ)
 どんな言葉で何重に包んでも覆いきれない。 ヌリタスは時間を戻して公爵と出会う前に戻りたいと思った。
(そして、こんなつまらない私の中から、この人を消すことができたなら……)
 それか、いっそのこと公爵が噂通りの残忍な悪魔であったなら。
 想ってはいけない彼を、こんなに胸が痛くなるほど愛することなどなかっただろう。
(全部私の罪だ)
 母の母から始まったこの言葉が、まるで呪文のように自然と浮かんできた。

 ルーシャスは、告白をするヌリタスの顔が苦痛でゆがんでいくのを見ているのがとても辛かった。
 彼女の長い告白の途中で割り込んで、それはあなたのせいではないと叫びたかった。
 だが必死で言葉を紡ぐ彼女のために、どうしようもない感情の洪水の中でなんとか重心を保とうとした。
(あなたの悲しい瞳を、すべて喜びで埋め尽くすことができたら)
 誰が身分を理由に彼女を自分から引き離すことができようか。彼女とともに進む道がいくら険しいからといって、それを避けることができようか。
 華奢な肩が彼の目の前でガタガタと震えているのも見たくなかったし、泣きそうな声も聞きたくなかった。
 彼女の過ぎてしまった過去は取り戻すことができないが、共に歩むこれからは、すべてが変わるだろう。
「なぜ俯くのです」
 話し終わったヌリタスは、怒りがこもった公爵の声にビクッと驚き、ゆっくりと顔をあげた。
「あなたはモルシアーニ公爵夫人だ」
 ルーシャスはハンカチが固く結ばれた腕を伸ばし、ヌリタスの頬に近づけた。そして見えない涙をそっと撫でながら、力強く告白した。
「あなたは俺の、唯一の女性だ」
 ルーシャスの声が、さっきのヌリタスのように微かに震えていた。伝えても伝えても足りない気持ちを、伝え続けたかった。
 公爵の震える手が頬に触れた時、ヌリタスは彼と目があった。彼の声は、まるで泣き出しそうな子どもの声のように聞こえた。
 ヌリタスは、自分の唇が動いていることすら意識できないまま、彼の目に魅せられるように囁いた。

「愛しています」

 ルーシャスは、まるで奇襲攻撃を受けたように、目を見張って、固まった。

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