エリート宰相の赤ちゃんを授かったのでパパには内緒で逃亡します! 文官令嬢の身ごもり事情【本体1300円+税】

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●著:浅見
●イラスト: SHABON
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4815543228
●発売日:2023/08/30

どうか私と結婚してほしい

没落令嬢のミリアは努力の末、宰相マティの補佐官となり信頼をおかれるも、ある夜会で酩酊したマティを介抱するうちに流されるまま「愛している。ずっと大切にすると誓う」と言う彼と一夜を共にする。
後に彼の子を身籠ったことを知るもマティにはその夜の記憶がなく、彼に縁談があると聞いたミリアは仕事を辞め外国で彼の息子を育て始める。
だがある日マティが彼女の元を訪れ猛烈に口説き始め!?



「ミリア……このまま、君を抱いてもいいだろうか」
許しを乞う声に息を詰める。
押しつけられた下半身からは、彼の昂ぶりが伝わってきていた。
――断らなければ。
これが最後の一線だと、しっかりと分かっていた。
マティはきっと、ミリアが断ればそれ以上触れてこないだろう。先ほどのキスだって、ミリアが許しを出すまで待っていた。
だから自分がはっきりと彼を拒めば、ここで行為は終わるはずだ。
――でも、頷いたら抱いてもらえる。
ただ、誘惑が心にちらつく。ミリアは瞳を揺らして、それを制した。
マティはいま、いつもの彼ではない。正常な判断ができない所に付け入って抱いてもらうなんて、卑怯者のすることだ。彼はきっと後悔するだろう。その時の顔を見る覚悟も自分にはない。
――だけど閣下が後悔するとは限らないわ。だって……私にドレスを贈ってくれた。あの時の閣下は酔っていなかったもの。
理性の声に、未練がましい自分がさらにそう声を上げた。
言い訳を探して、心の引き出しからドレスのことまで持ち出してきてしまう。
例のドレスがどういう意味のものなのか、ミリアはまだ怖くて訊けないままでいた。
マティがどう答えても、傷ついてしまう気がしたからだ。友人の手前、エスコートをするためにドレスを贈っただけだと言われたら、きっとがっかりする。そうではなく、もしも甘い言葉をかけられたなら、余計な期待をしてしまう。
身分と立場の差があるかぎり、どうせミリアはマティと結婚できないのだ。
いっときの恋人にはなれるかもしれないが、それではミリアの人生が崩壊してしまう。
そう考えていたはずなのに、いまこの時になって、彼の温もりが惜しくなっている。
「……あ、閣下……あの、私……」
頭のなかも、感情も、もうぐちゃぐちゃだった。
彼が好きだ。このまま抱かれてしまいたい。一夜の過ちで構わない。この後の人生が全て歪んでしまっても、それでもいいから、彼の肌に触れたい。彼を感じてみたい。
けれど、尊敬するマティを裏切りたくもないのだ。彼にがっかりされたくない。ずっと彼のそばで働いていたい。たとえ結ばれなくたって、そばにいつづけたい。 
どちらも同じ一つの愛なのに、生まれる欲求は正反対で、決して共存できない。
答えを出せずにいるミリアを、マティが不安そうな顔で見つめている。
宝石のように美しい双眸が翳るのをみて、胸がぎゅうっと苦しくなった。
ミリアはよろよろと彼の胸に両手を当てた。何とか押しのけようとしてみるけれど、全く力が入らない。
『大丈夫です、どうせ起きたら何も覚えてませんから。力の限りやってください!』
その時、脳裏にユーベルの言葉が蘇った。
――閣下は、酔っている間のことを……忘れる?
ごくりと、自分が生唾を呑みこむ音が聞こえた。
それならば良いのではないだろうか。
彼の信頼を裏切ることに違いはないが、覚えているのが自分だけなら、なにも大事にならないはずだ。自分さえ黙っていれば、この夜はなかったことになる。
――一度だけよ……ただ夢を見るだけ。
必死に握り絞めていたかぼそい理性の糸が、手のひらからすり抜けていく。
彼への想いを抱えて、一人で生きていくつもりだった。
もし、そこに思い出を与えてもらえるならば――。
「あ……あ、あの……あ」
声が震える。吸う息が針を含んでいるように痛い。
誘惑に身を任せようとしているくせに、自分のしようとしていることが恐ろしかった。
「は、い……、どうか、抱いて……ください、閣下……」
目を見開いたまま、彼の胸にしがみつく。
その瞬間、噛みつくようなキスが降ってきた。
「んっ……」
あまりに激しくて息ができない。
ミリアは立ったまま彼の首に手を回し、懸命にそれに応えた。マティがミリアの腰を抱きかかえ、後ろのベッドへ押し倒そうとする。それに気付いて、ミリアはハッと顔を上げた。
「っ、あ……待ってください、閣下。その、このままで……していただけませんか?」
「このまま?」
「ベッドは使いたくないのです。汚してしまいますし……服も、脱ぐと、もしも誰かが来た時に対応に困ります」
マティには、この行為を完璧に忘れてもらわなくてはならない。
初めての時には破瓜で血がでることがあると聞くし、シーツを汚してしまっては後が大変だ。
服も脱いでしまったら、酔いが醒めた後に不審がられてしまう。
ミリアは閨教育を受けていないけれど、本などで性行為がどういうものかぐらいは知っている。それに男性ばかりの職場で過ごしてきたので、彼らの下世話な会話を耳にする機会もあった。立ったまま、服を着たまま性交できるのだという話も聞いたことがある。
「だが、抱かれるのは初めてだろう? それなのに立ってというのは……」
「初めてではありません」
咄嗟にそう嘘を吐いた。
「私も、もう良い年ですし……これまでに恋人もおりました。ですから、その……こういった行為はすでに何度か経験をしております」
マティが切れ長の目を見開き、ミリアの顔を覗き込む。
「君はずっと仕事で忙しく、異性と付き合っている暇などないように見えたが?」
「休日に会っていたのです」
すでにぼろぼろになっている表情筋を総動員して答える。
するとマティのアイスグリーンの瞳から光が消え、一瞬ぐらりと彼の体がよろめいた。床には倒れず耐えていたが、表情はまるでこの世の終わりのようだ。
「閣下……大丈夫でしょうか? ご気分が……」
「ああ……いや、大丈夫、大丈夫だ……それで、いまは恋人がいないということで、良いのだろうか?」
「はい、おりません」
答えると、少しマティの顔が明るくなる。
「そうか……なら、これから先は私だけにしてほしい」
ミリアもそのつもりなので、素直に頷いた。
自分が誰かに肌を許すのは、今日のこの一度きり。
「それから……」
「それから?」
まだあるのか――と緊張するミリアの顎を、マティがくいと持ち上げた。
「君の肌を私より先に知っている誰かに、嫉妬することぐらいは許してほしい」
囁く声が鼓膜を揺らすのとほぼ同時に、再び唇にキスが落ちてくる。
壁に背中を押しつけられ、スカートの間にぐっと膝を割り込まれた後は、さらに口づけが激しくなった。口内を舌でねぶられ、腰が砕ける。マティは片手でしっかりとミリアの体を支えながら、空いている手でミリアの白いスカーフを外して床に落とし、続いて胸元のボタンを外し始めた。すぐにつんと上を向いた乳房があらわになって、ミリアはカッと頬を染めた。
「あっ……閣下……」
「少しぐらいはいいだろう? 私にも、君の肌に触れさせてくれ」

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