●著:小山内慧夢
●イラスト:敷城こなつ
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4099-9
●発売日:2022/11/30
君だけだ。君だけが必要なのだ
前世を思い出し、自分がゲームの世界の悪役令嬢だと知ったエミーリエ。王太子から婚約破棄され、身分が下の護衛騎士ディルクとの結婚を勧められるも、モブキャラの彼こそがエミーリエの最推しだった。「私の妻はなんて可愛らしいんだ」すごいイケメンで実は切れ者のディルクに溺愛され幸せな彼女だが、王太子の周辺が何やらきなくさく!?

公爵家の結婚式にしては小規模と言わざるを得ない結婚式は、滞りなく終了した。
招待客は宴で美酒に酔っているが、花嫁と花婿は初夜のために寝室に入っている。
すでにノンナたちに一分の隙もなく磨き上げられ、いつもは結い上げている髪を背中に流したエミーリエはベッドに腰掛けて慄いていた。
(どどど、どうしよう……ここまでノリと勢いで来てしまったけれど、本当に今夜、ディルク様とい、致すのかしらわたし……っ)
結婚式の誓いの口付けの際に、夢ならばこの辺で目が覚める仕様だろうと覚悟して臨んだエミーリエだったが、瞼を開けてもいつもの天井が眼前に広がることはなかった。
覚悟して閉じた瞼にかかる微かな吐息、そして直後に唇に触れた柔らかく乾いた感触に、夢ではないのだと実感して思わず涙があふれた。
超至近距離で見つめたディルクの瞳は、やはり灰色とは思えぬきらめきで、エミーリエを案じてくれているようだった。
(……正直言うと、ディルク様の人の良さに付け入っているようで申し訳ない気持ちもあるのだけれど、でも、ディルク様のことはわたしが幸せにします……っ)
エミーリエは天を仰いで神に誓った。
そのとき静かにドアが開く音がして、ディルクが入ってきた。
濃い藍色のガウンを着た彼は、ベッドまであと数歩というところで足を止めた。
「エミーリエ嬢」
「ディルク様……っ」
パッと顔を輝かせたエミーリエとは対照的に、ディルクは固い表情をしている。
なにやら不穏なものを感じたエミーリエが言葉を紡げずにいると、ディルクがエミーリエの足元に片膝をついた。
「この結婚は陛下からのお声掛かりで、あなたは受けざるを得なかったと思う」
「え?」
思いもよらない話にエミーリエは困惑する。
その戸惑いを予想していたように、ディルクは大きく頷くと言葉を続ける。
「結婚は受理されたが、それでも身体を繋げないままでいることは可能だ」
ディルクが言っているのは『白い結婚』のことだとわかったエミーリエは、鼓動が大きく跳ねるのを感じた。
あまりに年の差があったり、片方、もしくは両方に事情があったりする際、将来離婚することを前提として、身体は清いままでいることを『白い結婚』という。
離婚の際に身体の関係がないことを証明する書類を双方で提出することで、結婚の事実からなかったことに……白紙に戻すことからそう言われている。
(ディルク様は『白い結婚』を望んでいる……?)
途端に火照っていた身体から血の気が引くのを感じた。
しかし相対するディルクの瞳の奥には確かに熱を感じるのも確かだった。
ちぐはぐな申し出に戸惑いは大きくなっていく。
「それにわたしは、あなたに言っていないことがある」
「は、はい……」
急なディルクの告白に、エミーリエの緊張が高まる。
手を強く握ってそれに耐えるが、顔は強張ってしまう。
「妻となるあなたにすら、今は言えないことだ。それでも私はこの結婚をやめられない……あなたをお慕いしているのです。婚姻関係にあったという事実だけでも僥倖なのです。だから、あなたを傷つける前にはっきりさせておきたい」
誰が、誰をお慕いしているって?
そう問いたかったが、エミーリエの喉はからからに渇いてしまいできなかった。
しかしディルクのまっすぐな瞳が、それが紛れもなく自分のことであると示していた。
(ディルク様がわたしを好き……? そんな奇跡的に都合のいい話ってある? それに白い結婚も、もしかしてわたしのため? え、そんなの感動してしまうんですけど!?)
混乱気味のエミーリエだったが、真摯に見つめてくるディルクの瞳に誠実でありたくておずおずと口を開く。
「……わ、わたくしだって人には言えない秘密の一つや二つ、あります。でも、……わたくしもあなたのことをお慕いしていますし、結婚をやめようとは少しも思えないのです……ごめんなさい、ずるいわたくしを許してくださいますか」
前世の記憶を持っていて、向こうであなたの推し活をしていました……なんて、恐らく一生告げることができない秘密だ。
気味悪がられるに決まっている。
だから己の保身のために言えない。
「許すもなにも、私はあなたをこのまま娶るために沈黙を選ぶのです」
大きな手のひらがエミーリエに向かって差し出される。
自らの手のひらを重ね合わせながら、エミーリエは胸の奥が震えた。
チリチリとまるで小さな鈴を揺らすようなその震えは、エミーリエの神経を揺さぶり、涙となって流れ落ちた。
「すき……っ、好きなのです……、ずっと前から、ディルク様のことが……っ」
パタパタと大粒の涙が柔らかなガウンの膝を濡らした。
格好悪い泣き顔を晒したくなくて両手で顔を覆いたかったが、それをするにはディルクの手を離さなければならず、エミーリエは究極の選択とディルクへの愛しさで頭が混乱していた。
「……っ、泣き顔……不細工だから……見ないで……っ」
しゃくりあげながら言うと、ディルクがエミーリエの手を取ったまま立ち上がり、隣に腰を下ろした。
ふたり分の体重を受け止めたベッドの軋む音が、初夜の始まりを告げる合図のように思えてどきりとする。
「可愛い。私の妻はなんて可愛らしいんだ……エミーリエと呼んでも?」
初めてディルクに呼び捨てにされた感動は、エミーリエに更なる歓喜を与えた。
彼女の中にあった小振りな鈴の音は、いまや教会の鐘ほどの存在感をもってエミーリエの胸を揺さぶっていた。
「はい……っ」
せっかくノンナに綺麗にしてもらった薄化粧もすっかり涙で落ちてしまっただろう。
それに、泣き顔はいくら欲目をもってしてもそれ相応に歪なものだ。
しかしそれでも『可愛い』と言ってくれるディルクの優しさに、エミーリエは感動していた。
肩を抱かれると堪えきれずその胸に顔を埋めて抱きつく。
涙がガウンを濡らしてしまうのはわかっていたが、ガウン越しにディルクの体温を感じると安心した。
それと同時にむず痒い衝動が身体の奥から湧き上がり、厚い胸板に頬をすり寄せた。
「ディルク様……」
ディルクの名を呼んだエミーリエの顎が持ちあげられ、ディルクの顔が近付いてくる。
神前での誓いのキスよりも熱い吐息を感じ、ゆっくりと唇が重ねられた。
「ん、……んぅ」
合わせただけの口付けではもちろん終わらない。
角度を変えて啄むように重ねられると、ディルクの舌がエミーリエの唇を何度もなぞる。
堪らず薄く開くと隙間から舌が差し込まれ、口付けが深くなる。
「んっ、ふ、……っ、うぅ……っ」
舌を絡ませ、擽るようにされると身体がびくりと震えた。
身の置き場がなくて思わず小さく唸ると、軽いリップ音がして、ディルクが離れた。
「……っは、……はぁっ」
舌でなぞられたところが熱を持っているようだった。
のぼせたようにぼうっとしたエミーリエは自分のガウンの襟元が乱れているのに気付き、慌てて直そうとした。
しかしその手をディルクが止めた。
「もっと乱れるのだから、直さなくても」
(ひええええ! ……乱れるから! もっと! 乱れるから……ですって!)
ディルクの瞳の奥に餓えを見たエミーリエは、息をしたら蒸気が出るのではないかと思うほどに興奮していた。
ガウンの帯が解かれ、透けそうなほど薄い夜着の下ではすでに胸の先端が布地を押し上げるようにして主張していた。
「エミーリエ、可愛い私の妻。あなたのこの可愛らしい蕾を愛でてもいい?」
大きな手のひらで包み込むように胸の膨らみに触れると、中指の腹で突起を柔らかく刺激する。
薄布越しの愛撫は背徳的な快感と同時にもどかしさを生んだ。
エミーリエは胸の頂を捏ねられるたびに、腹の奥に甘やかな痺れが溜まっていくように感じて身体を捩って耐えた。
「あ、あぁ……っ、ディルク様……」
はくはくと口を開いて快感を逃そうとすると、唇を塞がれ、更なる快感を注ぎこまれる。
そのうちにエミーリエに対する愛撫は激しいものになっていった。
静かにベッドに横たえさせられ、胸の形を変えるように揉みこみ、乳嘴を弾いたり抓んだりされるたびに下腹にジワリと痺れが溜まる。
それに伴いエミーリエのあわいからは濡れた音がし始めた。
「あっ、ディ、ディルク様……っ」
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