サ終ゲームに転生したら推し聖騎士様との熱愛イベントが止まらない【本体1300円+税】

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●著:北山すずな
●イラスト: Fay
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4815543464
●発売日:2024/8/30


あなたも俺に触れたらどうですか?


 心の支えのゲームがサービス終了すると聞いてショックを受けた前世を思い出した伯爵令嬢アビゲイル。彼女に仕える騎士見習いのエディこそが彼女の最推しだった。
 前世で培った能力と知識を生かしエディが王女と結婚するエンドを目指すアビゲイルだが、エディは彼女しか見ていなかった。
「あなたを妻として迎えに参ります」
 思いを通じ合わせた二人だがこの世界にもサ終を思わせる終末の予言があり!?




私はいつも疲れ果てていた。
何もしなくても寝ているだけでも疲れてしまう。
一昨年、職場で上司のパワハラに遭ってから、心の傷は癒えていない。
その上司は同じように被害に遭った同僚たちの訴えによりパワハラ認定されて処分されたというが、私はもう二度とあの会社には戻れないし、ほかの職場であれ、社会に戻るなんてことはもう不可能なほど気力も体力も落ちてしまった。布団から出られないし、食べることも面倒くさい。なんならトイレも誰かに代わって行ってほしい。
冷蔵庫は空っぽだし、手軽に食べられる食品も食べつくした。
そろそろ買い物に行かなくちゃな……でも、外の世界に行くというハードルの高さに、まあ食べなくてもいいやと思ってしまう。
貯金は使い果たしてしまったし。こんなに外出も食べることもおっくうなのになぜ貯金が尽きたかというと、指一本でお金を使うことができるからだ。
この退廃的な世界で、私の生きがいはただ一つ、指先だけで生きていける世界だ。
【薔薇の箱庭】というRPG。
七人の青年がそれぞれのルートで出世して聖騎士となり、最後には王女と結婚するというシナリオなのだが、画質がすばらしく、キャラの声もとてもいい。BGMもよくできている。
王女と聖騎士の結婚エンディングの音楽の美しさ、そして戦闘シーンのBGMは歯切れよく、耳について離れない。私はことあるごとに、そのメロディーを口ずさんでしまうほどだ。 
私は今日もその世界へ飛び込む。
他のプレイヤーとはいっさい関わらず、自分の推しキャラを愛で、育成し、励まし、幸せなゴールへと向かわせる。
その世界では私はなんと勤勉で根気強く、前向きで勇敢だろうと思う。
この身体はベッドの中で、ダラダラ過ごしているというのに。
ある日ゲームアプリを立ち上げると、黒い画面に《重要》という文字が現れた。
そしてその下に、不穏な文字列が続く。
『長い間【薔薇の箱庭】をご利用くださいまして、ありがとうございました』
――え、いやだ。まさか。
『まことに勝手ながら、【薔薇の箱庭】は、
九月三十日をもってサービス終了とさせていただきます』

頭の奥で、ガーンという音が聞こえた気がした。
心臓がバクバクしている。
――いやだ、やめて。嘘。
これまでサービス向上に努めて参りましたが、これ以上皆様にお楽しみいただけるサービスのご提供は不可能……云々。
と、説明は続き、有償通貨の払い戻し方法も書かれていて、サービス終了の決定のゆるぎないことが私を打ちのめした。
動悸が激しくなり、これから何をどうすればいいのか、何も考えられなかった。
ただ一つ、頭の中を渦巻いたのは、
――推しに会えなくなる。
そのことだけだった。
冷静に考えれば推しの麗しい姿をスクリーンショットに残したり、うっとりする甘い声で話す様子を動画として保存したり、まだ見ていないエピソードを急いで消化するとか、いろいろすべきことはあったんだろう。
サ終まであと二か月――。
私は、推しが幸せになる姿をまだ見ていない。他のキャラではヒロインの王女とのエンディングを見たが、私の推しキャラだけはまだ王女と結ばれていないのだ。
なんとしても、これだけは達成しなくては。それにはまず、体力をつけよう。
私は何日もトイレとベッドしか往復していない気怠い身体で、のろのろと起き上がった。
パジャマだと外に出られないが、ルーズな部屋着なのでギリギリセーフだろう。
汚れた部屋の片隅に、洗濯もせずに積んだ洋服の山からカーディガンを引っ張り出してはおり、財布と携帯をポーチに放り込んで部屋を出た。
コンビニへ行って、とにかく飲み物と食べ物を買おうと思った。
サービス終了までのわずかの間に、悔いの残らないようにプレイし、データを保存しまくる。
それには体力が必要だ。あと二か月は生きなければ。
しかし、数日飲まず食わずでほぼ寝たきりだった私の足は、アパートの外階段を下りることすらままならず、三歩下りないうちに足首がくねっと曲がった。
私は、はたからみるとタコ踊りをしているような恰好であがいたが、どうにもならなかった。
「ああ―――――っ」
それが久々に聞いた自分の声であり、最期の声だった。
ぐるぐる回る景色の中、私は願った。
――待って、エディの幸せを見届けたいのに……!
そして視界は真っ暗になった。
第一章 転生したら推しに嫌われていた件
アビー……! アビゲイル!
誰かが叫んでいる。
私はどのくらい階段を転げ落ちたのかしら。
とりあえず、生きてはいるみたいだ。
あのアパートを事故物件にせずにすんでよかった。
重いけど瞼を上げよう。
やや、本当に重い。なんだか睫毛の重量を感じる。
「アビゲイル!」
さきほどから呼び続けていた声がいっそう近くに聞こえるようになった。
「あなた、アビーが目を覚ましました!」
「本当か! おお、神よ、感謝します」
誰? 病室で大音量でテレビをつけているのは?
……そう思うくらい、騒々しい会話が続いている。
私は目を完全に見開き、声のするほうを見た。
そして頭をよぎった一言は。
――仮装パーティー?
西洋のドラマのような金髪碧眼、ドレス姿の貴婦人と紳士がこちらをのぞき込んでいたのだ。
――誰……?
「おお、アビー、気がついたのね?」
貴婦人は目に涙をいっぱいためて言う。
「お母様がわかる? 愛しい子、アビー! どんなに心配したか」
――アビーって誰?
私はぽかんとその男女を見つめていた。
それにしても瞼が重い。瞬きするにも差しさわりがあるほどだ。
すぐに白衣を着た男性が現れて、私の脈を取り、次に光る鉱石のようなものをかざしてその光を観察した末に、「もう大丈夫です」と言った。
この間、なんだか違和感があると思ったら、自分の手が妙にか細くて白いことに気づいた。
労働というものをいっさいしたことのない、白魚のような指だ。
そして長い髪。私の髪はこんなに長くないのに。
ひと房摘まんで見ると、黒髪ではなく金色をしている。
いろいろとおかしい。
「あのう……鏡を。鏡を見せてください」
「アビーが喋った! 誰か、鏡を。鏡を持って参れ」
今度は男性がそう言って誰かに命令した。
やがて差し出された鏡はヴェルサイユ宮殿の調度かと見紛うような装飾過多の手鏡だった。
私は鏡を覗き込む。
「誰……?」
そこに映っていたのは金髪の長い髪を垂らした十七、八の少女だった。
純白のレースのたくさんついたネグリジェに身を包み、乳白色の肌に青い宝石のような瞳を嵌めたドールかと思ったが、瞬きをするし、こちらが口をすぼめると鏡の少女もすぼめる。
やたら瞼が重い理由もわかった。くるんと上を向いた睫毛はつまようじが十本くらい乗りそうなほど長かったのだ。
唇はサクランボのように艶々としている。
まさかと思ったが、私は右手で�好汽ぅ鵑鮑遒辰橡砲謀困┐拭�
鏡の中のドールのような少女も同じ格好をした。
私はまだ信じられず、今度は自分の頬を思い切り摘まんだ。
「いたっ」
可憐な金髪少女もその頬を摘まんでひっぱり、美貌に似合わない変顔をした挙句、痛そうにしている。
私はもう一度言った。
「……誰……?」
すると、不安そうにこちらを見ていた貴婦人がわっと泣き出した。
「無理もないわね、大広間の階段から落ちたあなたは七日間も眠り続けていたから、すっかり痩せてしまって……別人のようでしょう? でも目を覚ましてくれただけで、お母さまは嬉しいの。アビー、よく戻ってきてくれたわね」
「そ、そうだ、エドワードを呼び戻せ! まだ遠くへは行っておらんだろう。早く知らせてやれ。あやつも死ぬほど心配しておったからな」
どうやら私はだれか別の人物の体の中で目を覚ましたらしい。
そして目の前にいる紳士と貴婦人はその体の持ち主の両親ということだろう。
「エド……ワード……?」
私はふとそう言った。
「そうだ、騎士見習いのエドワードだ、わかるか? ボブソンが森で拾って、そしてうちで預かることになったエディだ。一週間前、おまえはあやつに話しかけようと慌てて大広間の階段を転がり落ちてしまったのだ。エドワードに罪はないが、あれは責任を感じてうちひしがれておる。元気な顔を見せてやろうと思うが、いいかね?」


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