【4月30日発売】初恋の騎士様を自由にするため恋人を探したら、当の騎士様にとろとろに甘やかされました【本体1300円+税】

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●著:千石かのん
●イラスト:KRN
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4815543860
●発売日:2026/4/30


唯一愛する義兄のため男嫌いを克服……のはずが、当の義兄に捕まっちゃって!?


両親を亡くし、娼館で売られかけたところを公爵令息ウィリアムに救われたフィリアは、引き取られた公爵家で彼に優しく甘やかされた。ウィリアムの助けになりたくて精霊魔術師となり魔法防衛軍へと入隊したフィリアだったが、彼に想い人がいると聞き、義兄の恋を邪魔したくないと誤解し、逃げようとする。
「俺が君を絶対に幸せにするから」
そんなフィリアをウィリアムは追い詰め求愛してきて!?






プロローグ



いやだ、こないで、さわらないで──ッ!

幼いフィリアが恐怖による感情を爆発させた瞬間、真っ白な光が炸裂し、続いて爆発音が鳴り響いた。
「あ……」
ごおっと風を切るような音と同時にオレンジ色の炎が吹き上がり、フィリアは息を呑んだ。
先程まで自分の腕を掴んでいた、でっぷり太った腹の男はいつの間にか消えている。
代わりに狭い寝室は黒煙を上げて燃え上がり、壁と扉が壊れたせいで狭く細い廊下が見えた。
床を舐めるように広がる炎は、燃えやすいものを求めて生き物のように蠢き、やがて壁を伝って天井に届くほどの業火となった。
(ど……どうしよ……)
恐怖に引き攣った喉がひりつくように痛む。
自分が座り込んでいるベッドも、飛んできた火の粉を受けてあっという間に燃え上がり、小さなフィリアは転げ落ちるようにそこから下りた。
(まど……くうき……)
呼吸をするたびにきな臭くて息がしづらく、近くにある窓へと辿り着く前に力が抜け、あっという間に床に倒れ込んでしまった。
(……しぬんだ……)
擦り切れた絨毯に頬を押し当て、フィリアは激しく咳き込んだ。先程とは別の涙が瞳に膜を張り、止める間もなく次から次へと零れ落ちていく。
(……わたし……しぬんだ……)
ぎゅっと小さく身体を丸め、身体中の水分が抜け落ちていくのを感じながら、ふとベッドの下に隠した鞄に目が留まった。
這うようにして手を伸ばし、必死に掴んで引き寄せたそこには、母から貰ったスカーフに包まれた一冊の絵本が入っていた。
亡くなった両親が買ってくれた、大事な大事な宝物。
キラキラ輝いているお姫様と王子様の絵本は、どんな時でもフィリアを支え、励ましてくれた。夜寝る前にうっとりと眺め、自分もいつか素敵な王子様が迎えに来てくれると、ずっと大切にしていた。
ほんの少し、スカーフをずらして何度も見た表紙を目に焼き付ける。
(……おうじさま……)
頬を伝う涙は冷たく、今や室内は黒煙が充満し何もかもを炎が包み込んでいる。肌が熱く、焦げた匂いで気が遠くなっていく。
(おうじさま……)
死んでも王子様って会いに来てくれるのかな?
そんな感情が胸をいっぱいに占めた──……その瞬間。
バリン、と何かが破砕された音がし、ごおっと酷い嵐の時のような音がいっぱいに響き渡る。
あっという間に清涼な空気が周囲を満たし、冷たい……心地よい何かに包まれているのに気が付いた。
「あ……」
横向きに鞄を抱えて丸まっていたフィリアはゆっくりと目を上げる。
真っ暗な闇の中、炎の燃え残りがちらちらと揺れ、天井はきれいさっぱり消え去っていた。
ちかちか瞬く銀色の星をぽかんとして見つめていると。
「もう大丈夫だ」
不意に甘く優しい声がして、動けずにいたフィリアの視界にオレンジ色の明かりを受けた存在が映り込んだ。
黒髪を炎に輝かせ、柔らかな黄金色の瞳を優しく揺らめかせるその人は。
(おうじさまだ……)
ゆっくりと膝をついて、彼はひょいっとフィリアを抱き上げた。
きな臭い空気の中に、草花に似た爽やかな香りが漂い鼓動が跳ね上がる。
唖然とする彼女を抱えて、青年は大股で歩きだし、壁と窓があったと思しき場所からひらりと下に飛び降りた。
そのまま垂直に落ちるかと思いきや、ふわりと浮き上がり、まるで階段を下りるように空気を踏んで地面に降り立った。
優しい風が吹き焦げ臭さを吹き払う。
街外れの林の中、隠されたように建つこの屋敷を振り返り、青年は忌々しそうに舌打ちをした。それから踵を返して屋敷に背を向け、確固たる足取りで離れていった。
「……あの……」
痛む喉から、ざらりとした声が漏れた。それでもなんとか、自分を抱える人が何者でどこへ向かっているのか尋ねようとして。
「今は何も考えないで」
きっぱりと青年が答えた。
それから、フィリアを抱き上げる腕に力を込める。身体が傾ぎ、頬が彼の胸元に押し当てられる。
立派な白いマントと、それを留める宝石の、エメラルドグリーンに魅せられる。
「……よごれます」
自分が真っ黒で煙塗れになっている自覚のあるフィリアがそっと囁く。こんな王子様のような人を汚してはいけない、と心に小さな焦りが生じた。
だが青年は更に強くフィリアを抱き寄せ、あろうことか頬に小さく口づけを落とした。
ちゅ、と軽い音がして目玉が零れ落ちそうなほど大きく目を見開く。
キスなんて誰かにしてもらったことなどない。
ぽかんとするフィリアに、王子様のような青年が泣きそうな顔で笑った。
「汚れない。だからしっかり俺に抱えられていて」
(なんで……かなしそう?)
わからない。わからないが、素敵な王子様にそう言われては守るしかない。
こっくりと頷くと、青年はようやく嬉しそうに笑い、フィリアを連れて屋敷の門へと向かっていった。
「もう何も、怖いこともつらいこともないと約束するよ」
そっと青年が囁き、温かな腕と力強い足取りにフィリアは目を閉じる。
「俺が君を絶対に幸せにするから」
鼓膜を揺らした甘く優しい声を最後に、フィリアは意識を手放した。
そんな彼女を、青年が愛おしむようにぎゅっと抱き締めるのにも気付かずに……。



第一章 雨の夕暮れ



フィリア・クラレントにとって雨はほっと一息つける天候だった。
魔物討伐を終えて王都へと帰還する部隊の中、馬に跨って移動する彼女は魔術師を表す若葉色のマントのフードを被り、袖と裾に向かって珊瑚色に染まる法衣を身にまとっていた。
手綱を握りながら雨粒を零す鈍色の空を見上げると、銀色の雫が赤みの強い、金髪の癖毛をうねらせ、更には分厚い前髪の下の黒ぶちの眼鏡に当たって水滴となる。
それを長い袖口で拭い、彼女は深呼吸をした。
火事に遭遇して命を落としかけた身としては、空から降り注ぐ冷たい雫は救済の象徴でもあった。
フィリアは幼い頃の記憶が曖昧だ。優しかった両親は気付いた時には亡く、保護を願い出た遠い親戚は金の亡者で、十を超えた頃、フィリアは娼館に売り飛ばされた。そこで火事に遭ったのだ。
間一髪助けてくれた王子様は、ユーディアライト公爵の息子で、公爵の命でフィリアを探していたという。
(公爵には感謝してもしきれない……)
雨からつい、あの日の火事を連想してフィリアはふるっと首を振る。
育ての親となった公爵は、亡くなった親友の一人娘が苦労していると知って、当時十九歳だった息子のウィリアムに彼女を探させていたという。
そうして例の娼館を突き止め、あの火事に遭遇し、間一髪助け出してくれたのだ。
言ってみればウィリアムは命の恩人で、それ以来ずっと、密かに慕う大切な男性となった。
その彼は現在、この部隊の先頭にいる。
ここからでは背中を覆う真っ白なマントと美しい黒髪しか見えないが、フィリアはそれだけで十分だった。
(もっと……精霊魔術師としてウィルの役に立てるようにならなくちゃ)
水と風の魔法が使えるウィリアムは、その力を剣に付与して戦う魔法剣士だ。その彼の隣で戦える魔術師として大成しようと、フィリアは子供のころから研鑽を積み、希少な精霊魔術師となった。
(そう……だからこれは……憧れと感謝と忠誠と……)
絶対に「あれ」とは違うんだと唇を噛み、愛馬のたてがみをそっと撫でる。
柔らかな毛は雨に濡れてしっとりしており、ひんやりした感触はフィリアの心を落ち着ける。
もくもくと馬を進めていると、不意に隊列が乱れるのがわかった。
王立魔法防衛軍は大きく二つに分かれており、一つは武器を有し己の腕で魔物を倒す武術隊。もう一つは四大元素や精霊を従わせて奇跡を起こす魔術隊である。
その彼らが隊を組んで討伐団を結成し、各地方で起きる魔物の被害を食い止めるのを日常としていた。
今回も前方には騎士や戦士、弓隊なんかが列を組んですすみ、その後ろに魔術師の隊が続いている。
その前方に一騎、馬を止めてこちらを振り返る存在がいた。
「フィリア、怪我はないか?」
「ウィリアム隊長!?」
名前を呼ばれ、ぱっと顔を上げたフィリアは、濡れた眼鏡とフードの縁の向こうに笑顔で手をふる彼を見つけて大いに慌てた。
「すまない、なかなか傍にいられなくて」
慌てて彼の傍に馬を近寄せると、義兄がふわりと微笑んだ。その様子に胸が高鳴る。
ユーディアライト公爵令息で魔法剣士のウィリアム・リーファスは、そんなしゃちほこばる義妹を前に、濡れた前髪を掻き上げるとうっとうしそうに空を見上げた。
切れ長の金色の瞳に、通った鼻筋と恐ろしいほど冷たく整った容貌。
初めてウィリアムと顔を合わせた人間は、大抵氷のように冴え冴えとした美貌を前に極限まで緊張を強いられる。
そんな彼は、一部で凍れる美丈夫騎士と呼ばれているのだが、義妹のフィリアと接するときだけは違っていた。
「も、問題ありません。隊長こそお疲れなのでは?」
ちらちらとこちらを見る視線を気にしながら、フィリアが早口で答える。その様子に、ウィリアムの眉間にきゅっと皺が寄った。
「どうした? 何か心配事でも?」
「え!?」
挙動不審になっている自覚はある。
なにせ目の前の相手は義兄である前に、国王陛下にも一目置かれる凄腕の騎士で、更には次期公爵、現・ハルバート子爵なのだ。
公爵に保護され、娘同然に育てられたとはいえフィリアとウィリアムに血のつながりはない。養女に……と公爵から打診された際は恐れ多いとすぐにお断りをしていた。
だが公爵も、その妻の夫人も、彼の姉、エルミナもフィリアを娘や妹として扱うため軍の中にはフィリアを公爵令嬢だと勘違いしている者もいる。
だが大半の人が二人の関係を知らないので、ウィリアムが気さくに話しかけるフィリアに「何者だ」と訝しむような視線が常にまとわりつくのだ。
居心地悪くそわそわしながら「なんでもない」ことを強調し、ウィリアムには早々に戻ってもらおうと考えるが、彼は眉間にしわを寄せたまま深刻な顔で言った。
「熱があるのか? 帰路はだいぶ雨に打たれたし……フィーは炎の精霊魔術師だから、雨はご法度だと君の契約精霊が言ってたぞ」
「え? いや、それはナージャが炎の精霊だからそうだというだけで私は──」
「おいで」
「はい!?」
真剣な表情のウィリアムが両手を差し出し、フィリアは馬上で固まった。
おいで……とは?
「ほら、風邪のひき始めかもしれないから」
にっこり笑う彼だが、目が笑っていない。
有無を言わさぬ圧を感じ、フィリアは視線を泳がせた。
まず「おいで」とは何を指しているのか。一緒に馬を並べて帰ろうということか。それとも熱があるかないか、触れて確かめたいということか。
「問題ありません。そもそも隊長は先導ではありませんか? このような位置にいらっしゃるのは賢明とは思えませんが」
通り過ぎていく隊列に視線を投げながら、至極当然のことを訴える。だが目の前の男は鼻を鳴らすだけだ。
「問題ない。あとは戻って師団長に報告するだけだからな。後ろに居ようが前に居ようが関係ないだろ」
「ですが、作戦終了の報は王都に届いております。どの隊が討伐に向かったのかも王都中に知られておりますので、恐らく住人は皆、帰還する隊長を一目見ようと集まって──」
「くどい」
ぴしゃりと言われ、フィリアは口をつぐんだ。
「俺がどこにいようが関係ない」
更に低い声で囁くように言われる。
「それに俺が気にするのはフィーのことだけだ」
焦れたように伸びてきた両腕が、フィリアの細く華奢な腰を掴むと、小柄な彼女はあっという間に彼の馬の前に座らされてしまった。
「ちょ……ウィル!?」
思わず素が出てしまう。大いに慌てるフィリアだが、あっという間に彼の着ているマントの中へと抱き込まれ、顔から火が出そうになった。
幸い目深に被ったフードのお陰で、真っ赤になっている姿は見られないと思うが、それでも隊長がフィリアを抱え込んでいることに変わりはない。
一人焦って馬を降りようともがいていると、それを咎めるかのように、何のためらいもなく大きくて温かい手がむき出しのフィリアの頬に触れた。
「ひゃ!?」
「やっぱり、冷え切ってるじゃないか」
変な声を出すフィリアに構うことなく、呆れたように呟いたウィリアムが指先をそっと滑らせて肌を辿り始めた。
「なんか脈も速くないか?」
細い首筋に押し当てられた二本の指を、否が応でも意識する。
「呼吸も乱れてるし」
(それはこんな風に触られると緊張と不安でいてもたってもいられなくなるからですッ)
不思議そうなウィリアムの言葉に胸の裡で突っ込み返しながら、フィリアは慌てて彼の手首を掴んで引き剥がした。
これ以上肌を辿られるわけにはいかない。
「熱もないですし! すこぶる健康ですから、馬に戻ります!」
肩越しに振り返り、むーっと睨みつける。だがウィリアムはそんなフィリアに小さく笑うだけだ。
「だが冷えた身体を放置はしておけない。大人しく俺に抱かれてろ」
甘い声が耳元で囁き、顔全体がかあっと熱くなる。
「ご、誤解を招く言い方はどうかと思いますが!?」
声がひっくり返るが構ってなどいられない。羞恥に真っ赤になりながら、毎度フィリアを揶揄ってご満悦になる義兄を睨みつけた。
確かに尊敬しているし、憧れてもいる。
だがこの過剰で過保護なスキンシップだけは理解できなかった。
眼鏡が雨に濡れるのも構わず、ぐっと顎を上げて反抗的な態度をとる。だがウィリアムにとっては子猫にじゃれつかれている程度にしか思えないのだろう。
「誤解じゃないんだからいいだろ」
そう言って、フィリアが拒絶するより先に、すっぽりと両腕で胸元に抱き込んでしまった。
先程よりももっと深く、懐に掻き抱かれ、白いマントがフィリアの身体を覆い隠す。
隊服に包まれた、彼の鎖骨の辺りに頬を押し当てながら、フィリアはいたたまれずに俯いた。
その彼女の耳朶を優しく指先で挟んで弄びながら、ウィリアムは満足そうに溜息をついた。
「うん。これで俺も安心だ」
(なにも安心じゃないし周囲の視線が痛いしなにより『これ』が『それ』ではないと否定しにくくなるッ)
鼓動が激しく高鳴りだし、身体中が熱い。
あまりお酒は飲まないが、飲んだ時のように身体が熱くふわふわしていて脳がくらくらするのに、どういうわけかウィリアムと触れている部分だけが敏感で、やたらと彼を意識させられる。
(この鼓動はッ……周囲からの視線に耐えられないという不安からで……けっして……けっっっしてウィルにこ……ここ……こい……してるからではないのですからねっ!?)
もはやだれに宣言しているのかわからない内容を、胸の中で必死に繰り返しながらフィリアは身体に触れる全てを遮断するように目を閉じた。
そう、これは恋ではない。
憧れや尊敬であり、家族に対する信頼に近いものだ。
だから違うのだ。違う。
(だって……これが『こいごころ』になってしまったら……)
ふわりと、草花に似た爽やかな香りと温かな彼の体温を感じてフィリアは小さく震えた。寒さからではなく、胸に芽生えた小さな恐怖から。
これが「恋」からの感情だと気付いてしまったら、きっともうフィリアはここにはいられない。
ウィリアムは命の恩人なのだ。
彼がフィリアに親切なのも優しいのも、自分が助けた相手に対する義務感からで──……。
「フィー、今日は真っ直ぐ屋敷に帰るんだよ」
そっとウィリアムが囁き、彼の温かな手が額を撫でる。
「でも、報告書の作成と任務終了後報告会が……」
「熱があるんだから参加しなくていい。これは命令」
(……熱なんかないのに……)
うう、と呻き声が漏れる。
だが「隊長」から「命令」されてしまうと従うしかないのが、今のフィリアだ。
「……了解です」
「うん。あとで様子を見に行くから、大人しくしてるんだぞ」
更に甘い声で念押しされてはどうしようもない。
溜息を呑み込み、フィリアは観念したように身体から力を抜いた。


疲れていたのかいつの間にかウィリアムに抱えられて眠っていたフィリアが、次に目を覚ましたのは無事に本部に到着した時だった。
温かかった彼と離れて馬を降り、その間際に「すぐに帰るように」と厳命された彼女は、若干の肌寒さを感じながら魔術棟四階の自部署を目指した。
王立魔法防衛軍本部は三棟からなる五階建てで、実力に応じて所属する階が違っていた。
中央、魔術、武術の三つの棟の最上階には指揮官や一級クラスの実力を持つ者たち……第一階層の人間が詰め、あとは実力や年齢に応じて階が下がっていく。
一階は受付のあるエントランスで、一般の人たちからの陳情も受け取っていた。
フィリアはその中で魔術隊の第二階層に所属していた。
周囲には五十代以上の歴戦の魔術師やずば抜けて高い能力を持つ者たちがいて、空気としては他の階層よりも落ち着いている。
国のトップである第一階層や若者中心の第四階層と違い、第二階層は実力がありながら、適度に枯れている部署なのだ。
人と触れ合うのが苦手なフィリアにとって、ここは穏やかで波風の立たない良い職場だった。
「お疲れ〜。どうだった? 遠征は」
フロアに足を踏み入れると、ややハスキーな声音に迎え入れられて、フィリアはコーヒーを手に歩み寄る同僚の女性魔術師に笑みを返した。
「お疲れ様です、ベルベッド」
美しい銀髪を高く結い上げ、切れ長の涼し気なブルーの瞳の彼女は色白で背が高く、その近寄りがたい美貌とは裏腹に、面倒見のいい姉御気質だった。
隣の席の彼女が座るのを見た後、腰を下ろしたフィリアは溜息交じりに応えた。
「……今日の遠征先も例のあれでした」
それにベルベッドが眉を寄せる。
「また?」
「はい」
ここ最近、魔物の討伐に赴いた先でとある現象が起きている。
精霊がいない、という現象だ。
今回の任務は、王都から三日ほど行ったところにある村の、異臭騒ぎに端を発している。
村人からの訴えを受けて派遣された先行隊が確認したところ、森の奥に広がる湿地帯に瘴気が溜まり、魔物が生み出されていたのだ。
「湿地を管理すべき精霊がいなくて……我々が辿り着いた時には討伐しなければいけない魔物が棲みついていました」
酷くぬかるんで湿った土地は本来、湧き水からなる湖沼があちこちに広がる美しい場所だった。だが水は淀み、腐臭が漂う陰気な沼地へと変貌していたのである。
十日ほど前はこんな状況じゃなかったのに、と嘆く村人にフィリアは精霊の有無を尋ねた。
答えは「彼らが突然いなくなってしまった」というものだった。
「……なんか最近多いわよね……」
「村の人たちも精霊と話ができるわけではないので原因がわからないのですが、不気味です」
苦々しく答えると、同じように眉間にしわを寄せていたベルベッドがふと顔を上げて目を見張った。
「あら、ヘレン」
その声に顔を上げたフィリアも、入り口から中を覗き込んでいる黒髪の女性を発見して目を瞬いた。
腰までの漆黒の髪に、長い睫毛に縁どられたぱっちりと大きい、深い青の瞳。色白で小柄な彼女は、水の精霊魔術師、ヘレン・コッカーだ。
精霊魔術師は本来、フィリアやベルベッドと同じ第二階層に所属するべき存在なのだが、彼女は婚約者のストラノ伯爵、タイロン・ランチェットとともに、第三階層に所属していた。
なんでも伯爵が、大切なヘレンを危険な目になるべく遭わせたくないからだとまことしやかに言われている。そしてそれが通るほど、二人の親密さは魔術棟のみならず武術棟にまで浸透していた。
精霊魔術師のほとんどが第二階層以上に所属しているため、ヘレンも時折第二階層に顔を出す。
今回もやや青ざめた顔で周囲を見渡し、フィリアを見つけてほっとしたように表情を緩めた。
「戻ってたのですね。よかった」
そう言って近づいてきた彼女が、沈痛な表情で「どうでした?」と尋ねてきた。
その様子に、フィリアは首を振った。
自然を適切に管理する精霊たちは普段は異界に棲んでいるが、フィリアたちが暮らす世界に出てくることもある。
例えば、自然の一部を魔物が汚染していたり、人間の負の感情が集まってできた瘴気だまりがあると、彼らが現れて浄化をし、魔物の発生を未然に防いでくれるのだ。
その際に、土地の汚染状況や注意事項を会話ができる魔術師たちに教えてくれたりもするのだが、最近、接触が無いことを不安視していた。
「やっぱりですか。第三階層でも精霊を見かけないと話題になっていて……。彼らは気まぐれで、私たち精霊魔術師でも関わり方が様々ですから気のせいかな、なんて言ってたんですが……」
「ヘレンさんは大丈夫なのですか?」
精霊魔術師と精霊の関係は契約を交わした後、親友同士のように心を通わせるものから、報酬を提示して力を貸してもらうだけなど様々だ。
ヘレンはフィリアと同じく精霊と心を通わせるタイプで、もし消えたり音信不通になっていたりしたら心を痛めているだろうと考えたのだ。
「私は……大丈夫です。でも心配で……」
やはり顔色が悪い。水の精霊と契約する魔術師は心優しい繊細な人が多いので、現状が不安なのだろう。
「フィリアはどうなの? 精霊とコンタクトできなくなったりとかない?」
ヘレンの様子からただ事ではないと肌で感じたベルベッドに尋ねられ、フィリアは思わず苦笑した。
「私の契約精霊は特に問題はなかったです。湿地に棲みついていた水棲の魔物相手に意気揚々と戦ってましたから」
「精霊がいないことについては?」
「なんでだろうね、って」
「完全に他人事じゃないの」
思わず半眼になるベルベッドに、フィリアは乾いた笑い声をあげた。
自身と契約を結んでいる炎の精霊、ナージャは、毛先が黄金色の緋色の髪に、真っ白で透き通った肌。少しつり上がった猫の目のような深紅の瞳を持つ女性型の精霊だ。
フィリアと同年代くらいの外見で、かなり好戦的な性格。特に水属性の魔物相手に容赦がない。
その彼女と契約するために、フィリアは保護された二年後の十七歳の時に温泉が湧く火山地帯へと出向いた。
いつまでも火事のトラウマを引きずって、くすぶっていてはいけない。
公爵家で少しずつ元気を取り戻したフィリアが次に考えたのは、助けてくれた皆に恩返しがしたいということだった。
両親が魔術師だと知って、自分にも才能があるかもしれないと公爵閣下にお願いして魔力測定をしてもらった。
結果、普通の魔術師よりもずっと魔力が多く、精霊魔術師としての素質があるとわかるやいなや、公爵閣下やウィリアムの力になりたいと契約精霊を探すことにしたのだ。
その際に、フィリアはどうしても炎の精霊と契約を結びたいと考えていた。
ウィリアムや皆には大反対されたが、フィリアは頑固だった。
怖いものを怖いままにしておくよりも、意のままに操れるようになって危機を回避したいその一心で、温泉地の上部にあった火山地帯を渡り歩いた。
有毒ガスが行方を阻む中、火事で呼吸困難になったことを思い出してパニックを起こしたフィリアに、突如現れたナージャが、「あんた馬鹿なの?」と呆れた調子で声を掛けてきたのだ。
(あれからナージャは私の大切な相棒になった)
彼女を公爵家の面々に紹介した際、公爵と夫人、義姉は諸手を上げて喜んで褒めてくれたがウィリアムだけが猜疑心の滲んだ眼差しでナージャを睨みつけ、挙句喧嘩を売っていた。
なんでも「フィリアの心の傷を抉るような真似をしたらただじゃおかない」ということで、未だに彼はフィリアがナージャと仲良くするのを懸念している。
かと思ったら二人で結託して、いつの間にかフィリアの行動を把握していたりするから始末に負えないのだ。
今回だって、ナージャが淀んで荒れた沼を全てを灰にする勢いで戦っていたのは、ウィルから何か言われたに違いない。そう思い出してフィリアは少し遠い目をした。
「もともと精霊たちは個々で生活をしているので……横のつながりはあまりないんです」
ヘレンがフォローするように言う。
彼らは異界で好き勝手に暮らし、自分の領域に不具合が生じると、半分繋がっているこちらの世界に顔を出し、生じている異変を解決していくのだ。
そんな彼らを一般の人でも見ることはできるが、アドバイスを貰える人間はごく少数で、魔力を持った者がほとんどだ。
その中で更に、彼らが「力を貸してもいい」と判断して契約するのが「精霊魔術師」である。
契約条件は様々だが、基本的に魔力量が多い者でないといけない。これが多くないと精霊と話をすることすら叶わないのだ。
ナージャもわりと気まぐれで、馬鹿だと評したフィリアと何故契約したのか聞いてみたところ「あなたに運命を感じたのよね」という謎の返答がきたのである。
(そのナージャも湿地帯の惨状を見て、これだけ場が荒れてるのに出てこないなんてよっぽど無頓着な精霊かその領域を放棄したか、存在自体が消えたかだって言っていた……)
こちらの世界と繋がる精霊の世界で、場が汚れているのに平気なのは尋常ではないという。
でもその原因はわからないとナージャはあっさり答えていた。
そのうちに雨が降ってきて、濡れるのを嫌う彼女は異界に引っ込んでしまった。
今も近くにいる気配のない彼女に、天気が良くなったらもう一度聞いてみようかと考えていると、ぐいっと伸びてきた手に額を触られて仰天した。
視線の先で怖い顔をしたベルベッドが、フィリアの額に手を当てたままこちらを睨んでいる。
「あなた、やっぱり熱あるわよ」
「ええ?」
「普段ならもっとてきぱき動いてるのに、椅子に座り込んでぼんやりしているんだから問題ありよ」
そうだろうか、とフィリアは自分の掌を額に当てるがよくわからない。
ヘレンまで心配そうに顔を覗き込んできた。
「フィリアさんの熱は精霊が消えた原因と何か関係があるのではないのですか? ほら……前に精霊の魔力だけを抽出して奪い取る魔物がいるって報告があがってきてましたよね?」
フィリアの魔力が喰われたせいで発熱してるのではと眉間にしわを寄せるヘレンに、彼女は誤魔化すように両手を振った。
「ちがいますよ。沼地に居た連中は全部討伐したし、瘴気だまりも綺麗に浄化してきましたから」
「じゃあ、その熱は単なる体調不良ということになるわね」
目が笑ってない笑顔のベルベッドに力強く肩を叩かれ、「そうですね」とぎこちなく返す。
ナージャがいない今、精霊魔術師の自分にできることは少ないだろう。
正面の巨大な窓の向こうは暗く、相変わらずの雨で、いくつもの雫がガラス面を滑り落ちていく。
それを眺めながら、水の精霊使いのヘレンは憂えるように溜息を吐いた。
「私もそろそろ戻りますね。タイロンも戻って来るでしょうし……」
ヘレンにぞっこんのタイロンは、少しでも彼女の姿が見えないと焦ったように探しに来る。時折このフロアにもやってくるのだが、彼はフィリアが「普通に接することができる」稀有な男性の一人だ。
「精霊が消える件、また何かありましたら教えてください」
深々とお辞儀をして去っていく背中を見送り、隣のベルベッドに何げなく尋ねた。
「ベルベッドももう帰るんですか?」
「めんどくさいから隊舎に泊まるわ」
こうみえて、ベルベッドは子爵家の令嬢だったりするのだ。
この国では魔力が高い者や、剣術、武術のセンスのある者は王侯貴族だろうが平民だろうが、王立魔法防衛軍へと徴集される。
給料も出るし三食完備の宿舎もあるが、貴族やその子女は自分の生活スタイルがランクダウンするようで、複雑な心境になるのが常だ。
だがベルベッドは、家柄のことや贅沢な暮らしにほぼ興味がなく、大抵敷地内の隊舎で生活をしていた。
「あんたはちゃんと帰りなさいよ? じゃないとウィリアム隊長から叱られるわ」
そんな越権行為は通らないと言いたいが……。
(ウィルだもんなぁ)
げんなりして溜息を吐く。
「今日はちゃんと帰ります。お疲れさまでした」
立ち上がり、フィリアは深々とベルベッドに頭を下げた。そのままフロアから出ようとして、階段を上ってきた金髪の男性魔術師を見て足が止まった。
やや着崩しているローブの間から、赤色の短めの上衣とむき出しの腹部が見えて、フィリアはその場で固まってしまう。
妙な緊張感と逃げ出したい感情を伴うそれにじわじわと手足の血が冷えていった。
「すみませ〜ん。ここにフィリアさんって精霊魔術師、いませんか?」
金髪の青年がだいぶ人気の減ったフロアを見渡して片眉を上げる。
固まるフィリアを見て、ベルベッドが素早く立ち上がった。
「フィリア嬢になんの御用でしょうか」
冷たい表情でつかつかと大股で歩み寄る、長身の美女を前に一瞬だけ訪問者の魔術師がたじろいだ。
「あの……すみません、あなたは……?」
「フィリア嬢は作戦後報告会の最中です」
にこっと微笑み、それから腕を組んで相手を威嚇するように背筋を伸ばす。
「で? 第四階層の方が何の御用です?」
フードの胸元に輝く宝石の色が階層を示している。ちらりと視線を落としたベルベッドのぴりっとした物言いに、男の腰が引けた。
「あ……いやその……公爵家の精霊魔術師さんっていうのがどういう人なのかなって」
歯切れの悪い物言いに、フィリアは苦いものが込み上げるのを覚えた。
二十代前半の魔術師が第二階層に所属できるのは極めて稀だ。
ベルベッドはずば抜けて高い魔力保有量と四大元素──風水火土の魔術全てを完璧に使いこなせる才媛として十代のころから有名だったので、誰もが第二階層でも妥当だと思っている。
問題はフィリアだ。
確かに精霊魔術師は第二階層に所属するのが基本だが、若手の精霊魔術師は大抵第三階層から始める。
そこを飛ばしたフィリアは、ユーディアライト家のごり押しがあったのではないかと一部で噂されているのだ。
更にヘレンが同じ精霊魔術師でも第三階層に留まっていること、彼女は貴族の出ではないことから比べられたフィリアが悪しざまに言われることがあった。
実力で階層が決まり、そこに作為などないのだが、やっかんだ人間がこうやって見にくることもよくある。
(……そういうのってやっぱり、『私』に問題があるのかな)
ここにはいません、お引き取りを、と胸を張って告げるベルベッドの頼もしい背中を見つめながら、フィリアは唇を噛んだ。
現在フィリアは、魔術師の制服である若葉色のマントと法衣を着ていた。
腰には珊瑚色のリボンが結ばれているが、体型がわかりづらい、だぼっとした服装である。更に眼鏡をかけ、緩やかにウエーブのかかった金髪を適当に結わえているだけだ。
対してベルベッドは同じ法衣でも、身体にフィットしていてスタイルの良さが押し出され、髪も肌も艶やかで美しい。
彼女と並ぶと、「貧相な小娘」感がぬぐえなかった。
それが……「なんであの女が?」という疑問と好奇心に繋がるのだろう。
(でも……)
綺麗なドレスや、体型にあった服装、凝った髪型に憧れる気持ちはある。
だがそういう格好をした時、周囲の視線が……特に男性の視線が自分に向くとどうなるのか。
ぶるっと身体が震える。
(厭らしい目で見られたりしたら……きっと恐怖が爆発する)
しぶしぶ引き下がる男性魔術師から視線をそらし、フィリアはぎゅっと両手を握り締めた。
かたかたと小さく震える拳が目に飛び込み、奥歯を噛み締める。
動悸はやまず、身体は冷えていく一方だ。
(これじゃダメだってわかってるのに……)
フィリアは男性が苦手だった──というよりも、嫌いだった。
理由は幼い頃の体験にある。
五歳のフィリアを保護して、妙齢になると売り払った親戚夫婦は声が大きく、特に夫の方の機嫌が悪い時には殴られた。
更に売られた先の娼館で、裸で女性を追い回す男性を何人も見た。
大抵がじっとりと湿った眼差しに、厭らしい笑みを浮かべていた。
嫌がる女性を捕まえて引きずっていく様子に恐怖を覚え、その連中の相手をしろと意味のわからないことを言われて吐いてしまったのだ。
それを見た娼館の女主に引っぱたかれ、無理やり中年男の前に突き出され、服を半分引き裂かれて死ぬほど抵抗した結果、五日間食事を与えられず監禁された。
そしてフィリアは男性が嫌いになった。
嫌悪しているし、近くに寄ることも嫌だった。
公爵に助けられ、自分を護ってくれたウィリアムの努力もあってだいぶ克服したとはいえ、居丈高でギラギラした男性はやっぱり苦手で、顔を合わせると血の気が引いて身体が震える。
それが恐怖による作用だと、フィリアは十分に理解していた。
身体が昔の嫌なことを覚えていて、防衛しようとするのだ。
現在所属する第二階層の男性魔術師は全員既婚だし、穏やかで優しく、声を荒げることはない。
公爵閣下と同様に、まるで娘に接するように色々心配してくれる。
第二階層の術長、イザベラも女性で配慮してくれるし、同僚のベルベッドはいち早くフィリアが抱える問題に気が付いて、こうしてやって来る連中を追い払ってくれる。
ヘレンの恋人のタイロンも平気なのだが、それは恐らく彼がヘレンしか目に入っていないからだろう。
そんな彼らとは違う、野心家で血気盛んな他の部署の人を見かけても普通に接することができるようになりたいのだが、相談したウィリアムは、もし何か起きても自分が助けるからと甘やかすばかり。
それがフィリアは歯がゆかった。
(ウィルの隣で戦いたいのに……どうしても身体が動かない)
視界から例の若い魔術師が消えた瞬間ふっと身体のこわばりが解け、息が吸いやすくなる。
無意識に深呼吸を繰り返していると、戻ってきたベルベッドがフィリアの冷えた手を取って握り締めてくれた。
「無理するなよ、フィリア」
「……ベルベッド」
揺れる視線の先で、ベルベッドが赤い唇を弓形に引き上げる。
「ウィリアム隊長も、それは『防衛反応』だから気にするなって」
「でも、このままでは肝心な時に役に立たないかもしれません」
じわじわと熱を取り戻す手で彼女の手を握り返す。
「……それに私が思うに……たぶん、この『防衛反応』をコントロールできず、恐怖が振り切ってしまったら──」
ぞくりとフィリアの胃の腑が震えた。
赤々と燃え上がる炎。喉が焼けるような熱い空気。鼻腔いっぱいに広がるきな臭さ──。
それらは全て、フィリアが「触れられることを拒絶した」ために引き起こされた事態だった。
ならばそれがまた起きない保証はどこにもない。
青ざめて黙り込むフィリアとは対照的に、ベルベッドは何でもないように優しく目を細めた。
「だからこそ、全く問題なく触れられるウィリアム隊長で徐々に慣れていけばいい」
「……そう、ですね」
「公爵閣下も大丈夫なんでしょ? あとうちの連中」
「……はい」
「それでいいじゃない。それにフィリアは今のところ、ウィリアム隊長の妹ポジションだけど、血のつながりはないんだからさ」
「……はい……?」
血のつながりがないのが……なんなのだろう。
思わず目を瞬き、不思議そうな顔でベルベッドを見上げるが、彼女はからからと笑うばかりだ。
「というわけで、あいつもいなくなったし帰りなよ」
手を放したベルベッドからぽんぽんと背中を叩かれて、疑問はそのままに力なく頷いた。
気持ちが落ちているのがわかる。もしかしたら本当に熱があるのかもしれない。
(私は公爵閣下とウィルの力になりたいのに……)
男性が怖くて嫌いで、現場に出る際には必ずイザベラ術長が付いてきてくれて、さらに作戦の隊長はいつも義兄だなんて……これでは「公爵家がごり押しした」と言われても反論しづらい。
挨拶をしてフロアを出ると、とぼとぼと階段を下りて未だ雨の止まない一階中庭へと出た。
魔術棟の正面入り口を目指して雨の吹き込む回廊を早足に進んでいると、視界の端を白いマントの裾が掠めた。
少し気になって、何気なく視線を向ければ、既に日が暮れて真っ暗になった中庭に魔法燈が光っているのが見えた。
その下に。
(……ウィル?)
艶やかな黒髪が雨に濡れ、端正な横顔がちらりと見える。
その彼が自分の腕の中に視線を落とし……──。
その瞬間、フィリアは呼吸を忘れた。
「え……」
ウィリアムが誰かを抱き締めているのが目に飛び込んできたのだ。






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