●著:千石かのん
●イラスト:旭炬
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4309-9
●発売日:2023/03/30
俺が君を世界一幸せにしてあげるから。
兄が作った借金のせいで、好きでもない男との結婚が迫る伯爵令嬢ハリエット。
不本意な結婚を避ける為、思いを寄せる地味だが優しい青年タッドと駆け落ちし、電撃結婚後で甘い初夜を迎える。
しかし翌朝、彼女の隣には前から苦手な、社交界の人気者の公爵アッシュフォードの姿が…。
「どちらも俺だよ? 俺が君を世界一幸せにしてあげるから」
彼の正体に戸惑うも、溺愛新婚生活に翻弄され――!?
(読んだ本では喜んでくれた。今までだって、知識に助けられたんだから、大丈夫)
それに、しつこいようだがタッドとサディアスは同じ人なのだ。それならば……ハリエットが見て、聞いて、知った『本人』を大切にすればいい。
他の女性達より貧相で、色気もないかもしれないけど、それでも自分は妻になったのだからと謎の決意を固めてシュミーズも脱ぎ捨てる。
ふわりと柔らかく薄いガウンを羽織りサッシュを締めれば、襟から足首へと流れるように施されていた幅広のレース飾りが、ハリエットを包み込んで縛るリボンのように見えた。
巨大なプレゼントだ。
そう考えて耳まで赤くなっていると。
「……ハリエット」
かすれた、低く甘い声がしてびくり、と身体が強張る。
「あ……」
反射的に振り返り、ハリエットは目を奪われた。
そこにはわずかに湿った黒髪を掻き上げ、艶やかな黒のガウンを着たサディアスが立っていた。お湯から上がったばかりなのか、漂ってくる爽やかな草木の香りと温められた空気に触れて身体の奥が震えてくる。
目を上げれば熱っぽい金色の瞳に当たり、そこにほんの少しだけ滲んだ刃のようなそれにどきりとする。
思わず視線を逸らした瞬間、ハリエットは自分の格好を思い出して真っ赤になった。
慌てて手で隠そうとすれば、鋭い声が飛んだ。
「動かないで」
りんと静かに響いた制止は、人に命令することに慣れている強さがあった。ぎくりと、ハリエットの両手が動きを止める。
柔らかなランプの、不規則に揺れる灯りが彼女の身体を余すことなく照らし出し、サディアスの視線を縫い留めていた。
「…………あ、あの……」
沈黙すること数十秒。
長すぎるそれに耐えられず、首筋まで真っ赤になったハリエットがくるりと背を向けた。はっと短く息を吸う音がして、続いて彼が大股で近づいてくるのがわかった。
「何故背を向ける?」
ふわりとシルクの袖に包まれた腕が腰に回り、引き寄せられた。
「もっと見せて」
するりと熱い掌が、ハリエットの扇情的で柔らかなガウンの上を辿る。身体の凹凸を確かめるように登ってきた掌が、胸の丸みに触れた。
「んっ」
恥ずかしくて身の置き所がなかったハリエットは、熱く硬く、しなやかな指が胸の丸みを包み込んで指の腹で押すのを感じて思わず喉を逸らした。
途端、その首筋に後ろから唇が忍び寄る。
「あっ」
サディアスの唇と舌が彼女の顎の辺りを撫で、ぞくりとした震えがお腹へと走った。思わず彼の肩に反対側の頬をこすりつけると、サディアスが顎の下から耳元へとキスを繰り返しながら片手をそっとガウンのあわせに滑り込ませた。
柔らかな生地の上から触れるだけだった掌が、直にハリエットの肌を撫でる。
「んっ……ふ……」
丸みを帯びた果実に触れ、先端を揶揄うようにこすり上げられて、ハリエットはお腹の奥に熱がたまっていく気がした。その熱が解放を求めて競り上がってくる。
優しく、時に乱暴に。
胸をまさぐる手に意識が持っていかれ、ハリエットは甘い霞の中に落ちていく気がした。しがみ付く物を求めて、彼の袖の肘辺りを引っ張れば、きつく首筋を吸い上げられた。
「あ」
甘い声が漏れる。腰を抱いていたもう片方の手がするりとハリエットのサッシュを解き、あわせた襟がゆっくりとはだけていく。
やがて彼は、熱く震えるハリエットの身体を抱き上げ、ゆっくりとベッドに下ろした。そのまま両膝で彼女の腰の辺りを挟むようにして乗り上げる。
柔らかく軋んだマットレスの上。瞳に映ったサディアスにハリエットは息を呑んだ。
「昨日の初夜は……タッドとしてだったけど」
声は、同じ。でもどこか自信に満ちた甘い声がハリエットを包み込む。
「今日は……公爵として君を抱かせて?」
百戦錬磨の、と言外に言われた気がしてハリエットは真っ赤になった。
「どっちもあなたじゃない」
かすれた声で言い返せば、うっとりと笑うサディアスがその手の甲でゆっくりとハリエットの頬を撫でた。
「そうかも。でも昨日のように緊張して……切羽詰まったのは嫌だから」
金色の瞳一杯にハリエットを映して彼が微笑む。美味しそうな物を目の前に、食べたくてしょうがないというような笑みだ。
ぞくぞくしたものが背筋を走る。
確かに……確かに昨日は真っ暗で、タッドの姿など見ていない。
彼は身を起こすとハリエットの視線の先でガウンを脱いだ。
ランプの灯りに、引き締まった身体が浮かび上がる。ほんのりと日焼けした滑らかな肌と、しなやかな筋肉の盛り上がりに目を奪われる。
決して怠惰な暮らしをする公爵ではないと、一目でわかり、ますます身体の奥が切なく痛んでくる。
「昨日だって、余裕そうだったわ」
どうにか彼から視線を引き剥がし、すっかりはだけてしまった自分のガウンを掻き合わせようとする。その手首を掴まれ、どきりと心臓が高鳴った。
「今日の方がもう少し余裕がある」
笑みを含んだ声が囁き、ハリエットは全身が真っ赤になっているのでは? と思いながら目を閉じた。触れなくてもわかる、熱すぎる熱が近づき耳元でかすれた声が囁いた。
「君の全身を余すところなく、眺める余裕がね」
(ひゃあ〜〜〜〜)
見られてる、と思うと緊張と羞恥が込み上げてきて、彼の視線から隠すよう身を捩った。
だが彼はそっとハリエットの手首をシーツに縫い留めたまま動かない。もじもじと太ももをこすり合わせると、低く呻くような声が聞こえた。
時間が経てば経つだけ、じわじわと身体に熱がこもっていき、耐えられなくなったハリエットがぱっと目を開けてサディアスを見上げた。
「もう、これ以上──……」
見つめないで、という単語が喉の奥に張り付く。何故なら、目を開けた先、サディアスの金色の瞳が飢えたように獰猛に、炯々と輝いていたのだ。
(わ……)
視線を逸らそうにも、捉えられたようになって動かせない。
震えながら見上げていると、彼が体中の緊張を解くように深い溜息を吐いた。
「もう少し……余裕があるかと思ったけど……君を見ていたらそれも全部吹っ飛んだ」
ゆっくりと彼が身を伏せる。熱い唇が喉の中心に触れ、そこからゆっくりゆっくり下っていく。
胸の間、おへその上、胸の下。
胸の先端。
「っ」
びくり、とハリエットの身体が強張る。唇に含んだ先端を舌で愛撫されて、気付けばハリエットは身体を捩っていた。
「ハリエット」
手首から離された彼の両手が、彼女の柔らかな双丘を救い上げてやわやわと揉みこむ。その動きに合わせて、昨夜識った身体の奥の空洞が、痛みに切ない悲鳴を上げる。
満たしてほしい、と。
「タッド……」
漏れ出た彼の名前に、しかし彼は不満そうに意地悪く微笑んだ。
「その名で呼ばれるのも悪くないけど……」
サディアスって呼んで?
甘い声が吐息を吹き込むよう、耳元で囁く。
唇は飽くことなく彼女の首筋で戯れるようにキスを繰り返し、手は柔らかな果実を弄ぶ。
シーツから浮いた彼女の手は、まっすぐに伸び、サディアスを抱きしめた。
その名で呼んだことはない。ハリエットにとってタッドはタッドでしかなかったから。
でも、今は?
「……サディアス……」
熱に浮いたように囁いたその名前。自分の口から零れた音が、彼をタッドではない存在と形づけたようでハリエットは不思議な気持ちになった。
同じ男性なのに、どうして。
「ハリエット」
震える声が名前を呼ぶ。肌に響いた懇願するようなそれに少し驚いていると、身体を離したサディアスが彼女の唇に噛みついた。
「んっ……う……」
焼け付くような、喰らいつくような深い口づけに瞼の奥がくるくると回る気がする。獰猛さに驚いて思わず逃げるように舌をひっこめるも、すぐに絡め取られて引きずり出される。
「ふ……あ……」
キスの合間にどうにか呼吸をするが、サディアスの手によって掻き立てられる快感に突き上げられてままならない。
思考に霞がかかり、ただ夢中で彼にしがみ付いていると、彼女の身体を辿っていた手がそっと脚の間を包み込むのに気が付いた。
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