●著:池戸裕子
●イラスト:小島ちな
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-2030-4
●発売日:2019/4/25
泣いてもダメです。かえってそそられる
才色兼備のハイスペック女と言われる桂木摩耶は、彼氏ができてもすぐにふられてしまう。あなたにはもっと相応しい相手が…と言われ続け傷ついた摩耶は、藁にもすがる思いで上司が紹介する佐倉和彦と会うことに。貴公子系イケメンでエリート、女性の扱いもスマートな彼に気後れしながらも、段々と惹かれていく摩耶。「気持ちよさそうですね。キスしかしてないのに」だが経験豊富だと和彦に誤解され、摩耶は本当のことが言えず―!?
──なに……これ……? すごく……気持ちいい……。
佐倉のキスの感触は髪にもあった。時々、指で梳かれると、不思議と口づけられているように感じる。唇と髪と、二つの場所への愛撫が重なって、快感がより大きく膨らむようだ。
恋愛経験の豊かさを窺わせる佐倉の愛撫だった。
見抜かれてしまう。
摩耶の胸は疼いた。自分が彼の思っているような女ではないことは、すぐにもばれてしまうだろう。
想像するだけで、摩耶の胸に痛みが走った。なぜこんなにも気持ちが乱れるのか、何に怯えているのか。自分でもわからなかった。
「ん……」
佐倉のキスはうっとりするほど気持ちがよくて、束の間、意識が飛んでしまいそうになる。胸を抱いて隠していたはずの両腕を、いつの間にか解かれたことにも摩耶は気づかなかった。
「綺麗ですよ」
見られている。あらわになった場所を全部。
──恥ずかしい。
大きく上下する乳房が、キスひとつで息を弾ませる自分を教えてしまう。
「見ない……で……」
「こんなに綺麗なのに?」
「……んっ」
胸の谷間に唇を押し当てられ、摩耶は身体を捩った。だが、抱きしめられ自由を奪われている身では、愛撫が欲しくて悶えているようにしか見えなかった。
「私はもっと見たいし、触れたい」
「……和彦さん……」
綺麗だとか、可愛いだとか。摩耶にとっては、よく耳にしてきた言葉だった。嬉しかったりありがたかったり気恥ずかしかったり、時にはうんざりして聞き流したりもしたけれど、こんなにも胸がドキドキと高鳴ったことはなかった。自分でも戸惑う、初めての反応だった。彼の言葉の、その響きにまで身体中を優しく撫でられているみたいに感じている。
「ん……っ」
うなじから熱いものが這い上がってくる。右に左にと繰り返しキスで乳房に触れられているうち、摩耶は与えられる快感を夢中になって追いかけはじめた。頭は次第にまともに何も考えられなくなっていく。
「摩耶さん……」
「あ……ん」
乳房を強く握られたとたん、ツンと走った痛みも、すぐに甘い悦びとなって尾を引いた。
自分で触れる時はむしろ鈍感に思えるその場所は、彼の手で別の何かに変えられたのか。柔らかく揉まれると、何とも言葉にできない心地よさが全身に散っていった。
「やぁ」
摩耶は閉じた瞼にぎゅっと力を入れた。佐倉が大きな胸の豊かに膨らんだ曲線を指先でなぞり、その後を唇で追いかけはじめた。
「あ……」
乳房の頂を彼の息が掠める。
「……や……駄目……」
頂の実にとうとうキスされ、摩耶は震えた。きっと自分はトマトみたいに赤くなっていることだろう。想像するだけで恥ずかしさが込み上げ、うなじや耳朶までが火を当てられたように熱くなった。
彼の唇が摩耶の実をついばんでいる。
「いや……」
舌で転がされ、声が止まらなくなる。少しずつ蜂蜜を垂らされるパンケーキにでもなった気分だった。身体はとろんと甘い快感に蕩けていく。
「……あ……ん」
弾む息を呑み込んでも呑み込んでも、すぐにまた溢れてくる。
さっきからズキズキと疼き続ける、今や恐ろしいほど敏感になった乳首を突然強く吸われて、摩耶は思わず佐倉の髪を引っ張っていた。不安に駆られた子供が縋るような仕種だった。
──どうしよう、私……。このままじゃ……!
どこまでも高ぶっていく身体を止められない。
鼓動に合わせ疼いているのは、彼に愛されている場所だけではなかった。快感は腰や腿にもまとわりつき、重たく感じるほどだった。
彼が身体を起こしたのがわかった。
──?
摩耶がそろりと目を開くと、佐倉の熱を帯びた眼差しがあった。
「少し驚いています。想像していたあなたと違うので」
「あ……」
ただでさえ速かった摩耶の鼓動が、グンとスピードを上げた。
「あなたに見とれるのは何度目でしょうか。摩耶さんの反応が可愛いぐらいに初々しくて、つい……」
──ばれた!
やはりばれてしまった。佐倉の目に映っている理想の摩耶なら、もっと余裕をもって彼を抱きしめ返したり、時には彼を押し倒して愛撫を返したりもするのだろう。気づかれないはずがないのだ。
ところが──。
「今度はその手できましたか」
──え?
「そうでしょう? あなたの武器で、私を弄ぶつもりですね」
佐倉は裸の摩耶を抱きしめ、額にキスをした。か弱いものを慈しんででもいるように、彼の両腕が摩耶を優しくくるんでいる。
──もしかして、また!?
かけ違ったボタンのようだ。最初の誤解を解かなかったばっかりに、佐倉はまだ勘違いをしていた。摩耶のことを、自分を弄べるだけの経験豊富な恋愛のエキスパートだと、すっかり思い込んでいる。
「今夜、私が抱いているのは、少女のような摩耶さん」
佐倉のいう武器とは、摩耶の持つ二つの顔だった。名前の響きにも表れているという、一人は少女のような純粋な可愛らしさを残した摩耶。もう一人は、妖しい大人の魅力で男を惑わせる摩耶だ。彼は初体験もまだの少女バージョンの摩耶が、自らも楽しみながら自分を翻弄していると思っている。
「あなたの仕掛けた罠にどうして何度もかかってしまうのか。ちょっと情けない気がしますが、不思議と悔しくはないのです」
佐倉はまた、摩耶の額に口づけた。
「次に何が起こるかわからない、こんなわくわくした気分で女性とつき合うのは初めてなんです。難解なゲームにでも挑戦しているようです」
「そんな……」
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