モブ令嬢なのに王弟に熱愛されています!? 殿下、恋の矢印見えています【本体1300円+税】

amazonで購入

●著:ちろりん
●イラスト: 霧夢ラテ
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4815543471
●発売日:2024/8/30


俺のキスを受け入れるも拒むも、お前次第だ。


 乙女ゲームのモブに転生した伯爵令嬢オリヴィアは、相関図が見える能力があり他人の恋愛を成就させてきたが、その事から美貌の王弟アシェルに怪しまれていた。しかし、彼の危機を助けるとステータスは『惚れた』に変化し彼はオリヴィアを愛するようになる。
「絶対に幸せにしてやる」
 やがて二人は結婚する事に。幸せなある日、隣国に招かれて向かうとそこにはアシェルを狙う続編ヒロインの姿が!?




お互い、「ありえない」と言い合った相手のはずだった。
オリヴィアは彼に警戒され疑われていて、アシェルもそんな相手とどうこうなる気はないと先ほどまで言っていたはずなのに。
それなのに、目を開けたら状況は一変していた。
裸同然で抱き合う男女。
一夜を共にし、朝目が覚めたら抱き締め合っているこの状況。
――そして、目の前に見える大きくて赤い矢印。
そこには見間違えもできないくらいに、はっきりと書いてあった。

「惚れた」と。
第一章
「大丈夫よ、リリアナ。イーノク様は絶対に喜んでくださるわ。自信を持って!」
眉をハの字にし躊躇いを捨てきれない友人の肩に手を置き、オリヴィアは明るい声を出す。
「ありがとう、オリヴィア。私、頑張るわ」
背中を押されたことで一歩踏み出す勇気を振り絞れたのだろう。リリアナは自信なさげな顔から一転、真っ直ぐにイーノクを見据えて大きく頷いた。
そんな彼女の手には、刺繍が施されたハンカチ。
この国の第一王子・イーノクへの誕生日プレゼントだ。
貴族であるものの、実家があまり裕福ではないリリアナができる精一杯のものだった。けれども、彼女自身が刺繍をし、想いを込めた一点ものでもある。
最初はこんなものしか用意できないことを恥じ、他の令嬢がイーノクに贈るプレゼントを前にしり込みをしていた。
みすぼらしくて貧相。
もらってもイーノクは喜ぶどころか迷惑に思うだろうと。
そんな彼女を隣で見て、大丈夫だと言い切るオリヴィアには自信があった。
(イーノク殿下の矢印が大きくなって真っ赤に染まっているもの、愛情が日に日に増している証拠よ)
イーノクの頭上にあるそれを見る。
矢印の矛先は真っ直ぐにリリアナに向かい、さらには「大好き」とまで書いていた。
つい先日までは「恋をしているかも?」と曖昧な表現だったのに、何回かリリアナと会っているうちに彼女に惹かれていったのだろう。
彼の気持ちは疑問符が取れ、確信になっていた。
それが分かってしまうオリヴィアには、親友の恋を応援しないわけにはいかなかった。
「大丈夫よ、リリアナ。大丈夫」
リリアナの左手を両手で包み込み、願いを込める。
彼女も同じように目を閉じた。
「貴女のこの『おまじない』、不思議なくらい効くわよね。ここぞというときにしてもらうと力が湧いてくる。いつもありがとう、オリヴィア」
スッと目を開けたリリアナは、「行ってきます」と明るく言ってイーノクのもとに向かう。
その後ろ姿を見つめながら、ふたりの動向を見守った。
案の定、イーノクはリリアナを見つけた途端に頬を緩めて満面の笑みを浮かべていた。
そして、おずおずと差し出された彼女の贈り物を目の前にして、他の女性たちには見せたことがないくらいの喜びを露わにしたのだ。
(これでイーノクルート確定ね。……よしっ!)
オリヴィアはたおやかな笑みを顔に貼りつけながら、心の中でガッツポーズを取る。
これで自分の身は安泰だと確信した瞬間でもあった。
転生後のこの世界では、平穏無事に暮らすことができるであろうと。

オリヴィア・ラーゲルレーヴはいわゆる転生者というものだ。
最後の記憶では二十歳の大学生だったと記憶している。
日本人だった前世を持ち、その頃の記憶を有したまま異世界に転生した。
しかも、転生先というのが乙女ゲームの中で、さらにはヒロインの親友に生まれ変わっていたのだ。
そのことに気付いたのは十五歳の頃。
乙女ゲーム「シンデレラ・シンドローム」のヒロインであるリリアナに出会ったときだった。
彼女と目が合った瞬間、ポンと人々の頭上に『矢印』と『文字』が浮かんだ。
最初は幻かと目を擦っては何度も見返したが、明らかにそこにあるのは矢印と文字。
次に驚き戸惑うオリヴィアを襲ったのは、前世の記憶だった。
そして悟ったのだ、自分はリリアナの親友・オリヴィアに生まれ変わってしまったのだと。
この「シンデレラ・シンドローム」というゲームは、貧乏男爵令嬢であるリリアナが素敵な男性に見初められて幸せになることを夢見て、初めて夜会に繰り出すところから始まる。
夜会でイーノクをはじめとする攻略対象者たちと出会い、そこから恋に発展していく。
最後には「幸せに暮らしました、めでたしめでたし」で終わる恋模様を目指す、よくある乙女ゲームだ。
ルートは分岐しており、ハッピーエンドはもちろんのこと、ノーマルエンドやビターエンド、バッドエンドなど多岐にわたる。
どんなエンドを迎えるかは攻略対象者のキャラ性とヒロインの選択によって異なるが、ひとつだけ共通していることがあった。
リリアナの親友・オリヴィアの悲劇である。
どのルートを辿っても、死ぬか大怪我をして再起不能になるか、もしくは修道院送りになってその先で死んでしまう。暴行に遭って心神喪失になるパターンもあり、ありとあらゆる悲劇が用意されていた。
このオリヴィアというキャラクター自身、リリアナと攻略対象者の絆を深めるための舞台装置のために作り出されたらしい。
そのため、親友という立ち位置からライバルになったり、嫉妬に狂ってヒロインを裏切ったり、はたまたリリアナを手に入れるためにヤンデレな攻略対象者から排除されたり、事件の最初の被害者になったりと、ルートによって多くの役割が用意されていた。
あまりにもオリヴィアばかりが不幸になっていくので、ファンの間では「生贄の山羊」として憐れまれていた。
ところが、唯一オリヴィアが闇堕ちすることも怪我をすることも、死ぬこともなく、リリアナの親友として幸せなエンドを迎えることができるルートがある。
それが、リリアナがイーノクと結ばれ幸せになるトゥルーエンドだ。
ファンの間ではオリヴィア生存ルートとも言われる大団円の真のハッピーエンド。
つまり、もしゲームの通りに展開していくのであれば、リリアナにはイーノクと結ばれてもらわなければならない。
生き残るための使命と考え、オリヴィアはふたりをくっつけるために奔走している最中だ。
さらに、天の采配なのかそれとも何かしらのバグなのか、前世の記憶を取り戻したと同時に、「相関図」が見えるようになった。
登場人物たちの関係を図にしたものを相関図と呼ぶが、オリヴィアの場合、その人の頭上に浮かぶ矢印と相手に対する感情が文字として見えていた。
関係性が深ければ深いほどに矢印は大きく太くなり、相手に抱く感情が大きければ大きいほどに色が濃くなっていく。
色にも意味があり、大きく暖色系は好意や興味。寒色系は悪意や敵意に近い感情を持っていることを示している。そこに黒が混ざれば重々しい負の感情が加わっていることが分かったり鮮やかであればあるほど純粋な想いだったりと複雑なのだが、そこは文字の内容を見て判断していた。
たとえばイーノク。
彼は他の令嬢に対して定規のような細さと、無関心を示す灰色の矢印を向けている。
だが、リリアナに対してはその倍の太さの矢印を向けていて、色も真っ赤に染まっていた。
矢印の説明欄には「好きな人」と書いてあり、こんな具合に誰が誰に対してどんな感情を持っているか分かる。
今日のように夜会で人がごった返すときは、相関図もごちゃごちゃしているのでなかなか見えにくいが、そんなときは目を凝らして集中してその人物だけに焦点を合わせればくっきりと見えてくる。
この不思議な力を得て四年ほど。
今では恋愛相談マスターとして社交界で注目を集めるほどになった。
悩んでいる人がいたら相関図をもとにアドバイスをするのだ。
社交界では誰が誰を射止めるか、その話題に尽きる。
相関図を見て、今相手は貴女をどう思っているか、どうしたらいいのかをできうる範囲で助言していた。
最初こそ、ほんのちょっとアドバイスするだけのつもりだったのだが、ある令嬢への助言があまりにも的を射ていたのだろう。
彼女は意中の相手を射止め、それをオリヴィアのおかげだと周囲に喧伝し始めた。
噂が噂を呼び、恋に悩む乙女たちが大挙し、オリヴィアの前には恋愛相談の列ができるほどになった。
先ほどリリアナが言っていた「おまじない」もそこから派生したものだ。
ただ、頑張ってと応援の意味を込めて相談者の手を握ったのだが、それが効果てきめんのおまじないだったと言われ、皆もおまじないを求めるようになった。
こんな感じで社交界の中で思いもよらない地位を得たオリヴィアだったが、本丸はあくまでリリアナの恋路である。
何せ、オリヴィアはリリアナというキャラを前世から大好きだった。
明るく前向き、ハングリー精神旺盛で決してめげない。けれども、好きな人を目の前にすると途端に弱気になり恋に悩む。
等身大の女の子の恋に振り回され悩み、そして成長し幸せになっていく様を応援しないわけにはいかない。
そんないじらしいリリアナを、保身のために彼女を突き放し、遠くから恋模様を眺めることなど乙女ゲーム大好き人間のオリヴィアにはできなかった。
乙女ゲームだけではなく、恋愛漫画も小説も、前世のオリヴィアにとって癒やしだった。つらい現実を忘れさせてくれる大切なもの。
キャラクターの恋にドキドキし、試練にハラハラし、結ばれた姿に涙する。
自分には決して起こらないであろうシンデレラストーリーを見ては、幸せな気分に浸っていたのだ。
だからこそ、リリアナの親友という立ち位置を捨てきることはできなかった。
苦労をわざわざ買っていると言われても仕方がない。
だが、誰かの恋愛模様を見守るのがオリヴィアの生きがいなのだ。
いつかリリアナがイーノクと結ばれて幸せになる姿を見届けたい。
あわよくば一緒に喜びたい。
そのためならば、いくらだってリリアナの恋の相談に乗るし、背中もいくらだって押すつもりだ。
恋する乙女たちの力になれるのであれば本望。
「……あ、あの! オリヴィア様! わたくしにもおまじないをかけてくださいませ!」
「私はトリスタン子爵の意中の相手を見ていただきたいです!」
「あ! イーノク殿下を……」
オリヴィアに群がってきた恋する乙女のうちのひとりがそう言うと、皆が一斉に彼女を注視した。そして、はぁ……と大袈裟な溜息を吐く。
「イーノク殿下はもうリリアナ様に夢中よ。ほら、見なさいな。ふたりでどこかに消えていくわ。これはもう確定ね」
次にリリアナたちを皆で盗み見て、どこかに行こうとしている様子を確かめたあとに再び深い息を吐き出す。
「これでリリアナ様は王太子妃。男爵令嬢から大躍進ね」
「やっぱり、オリヴィア様のおまじないが効いたのよ。おふたりは親友ですもの、特別効いたに違いないわ」
それならば皆納得だと頷く。
自分でやっていてこんなことを言うのもなんだが、こんなに信用されていいものなのだろうかと後ろめたくなる。
おまじないや占いをしているのではなく、相関図を見て助言をしているだけなのにと。
「あぁ! お二方がバルコニーに行かれましたわ!」
(こ、これは告白イベント!)
先ほどまで感じていた後ろめたさは一瞬にして霧散し、オリヴィアは目を凝らしてリリアナたちの動向を見る。
これはいよいよ告白してハッピーエンドを迎える予兆だと、胸をドキドキさせた。
(の、覗きに行きたい! 生の告白シーンをこの目に焼き付けたい! けれどもここは我慢よ……お邪魔になってしまう……)
涙を呑んで自制する。
ここはゲームの世界ではあるが、プレイヤーとしてすべてを見守ることはできない。
あくまでオリヴィアとして振る舞い、できる範囲で動かなければ。
「お待ちになって! 他のご令嬢たちがおふたりの邪魔をしようとバルコニーに向かっていますわ」



☆この続きは製品版でお楽しみください☆



amazonで購入

comicoコミカライズ
ガブリエラ文庫アルファ
ガブリエラブックス4周年
ガブリエラ文庫プラス4周年
【ガブリエラ文庫】読者アンケート
書店様へ
シャルルコミックスLink
スカイハイ文庫Link
ラブキッシュLink