●著:華藤りえ
●イラスト:蔦森えん
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4050-0
●発売日:2021/4/30
無理しなくていい。俺を頼れ
魔王を倒した勇者一行。戦いで力を使い果たした魔女ゼラが目覚めると、仲間だったはずの聖女が�爛璽蕕�勇者に振られたのを恨み国に害を為す�瓩箸いΡ修鯲�していた。身の危険を覚えて逃げだし身を隠し暮らす中、密かに思いを寄せていた美貌の聖騎士レナードが彼女を探しあて、熱烈に口説き出す「わかったか。俺も男だということを」だが各地で魔物が再び暴れ出したのが、ゼラのせいにされて!?

「大丈夫か、ゼラ!」
驚きすぎて硬直しているゼラの肩を掴んだレナードは、そのまま強引に女の身体を抱き込んだ。
「うわっ……!」
地面にへたり込んでいたところ、急にかかとが浮くほど立たせられ抱かれて、ゼラは目を白黒させる。
「ちょっ、ちょっ、と……まって」
事情を聞こうとするが、レナードには届いておらず、まるで生き別れになった妹か恋人を見つけたみたいな勢いでゼラを抱きしめては、黒髪やら肩やらをさかんにまさぐっている。
「ゼラ……、ゼラ……!」
必死かつ哀願じみた声の響きに動悸が逸りだす。
これは夢だろうか。
現実とはおもえない状況なのに、腕に込められた力や震える声、服越しに伝える体温といったものが気になり、心が変にそわそわしてしまう。
「ね、ねえ! どうしちゃったの? なぜここにいるの?」
ともかく落ち着きたい。だからレナードとの距離を取ろうと、ゼラは両手を突っ張った。
けれど渾身の力をこめても胸板がびくともしない。
力の違いや手に伝わる肉体の堅さから異性を意識させられ、ゼラの気恥ずかしさが頂点に達する。
「レナード、お願い。落ち着いて。質問に答えて。じゃないと……頭がおかしくなっちゃいそう……」
困り果てて半泣き声で訴えると、ゼラの声で我を取り戻したレナードが、がばりと肩を掴む手を離し、それからゼラの顔を真っ向から見つめてきた。
「ゼラ」
「大丈夫……?」
聖王国に戻って、婚約者と結婚するんじゃなかったの。どうしてここにいるの?
そう続けようとするより早く、レナードはきゅっと眉根を寄せ、それから長いため息を落とす。
「大丈夫かと聞きたいのはこちらのほうだ。魔力もろくに回復しないまま、一言も残さず城から消えるなど自殺行為だ。どれだけ心配したと思う」
責める口ぶりだが、レナードの目に宿る感情はどこか寂しげで、妙に心に迫ってくる。
「心配なんて……別に誰も……」
「俺は心配した」
「回復の魔法陣があったから、魔王の戦いで倒れた後も心配してくれてたのは知ってる。でも……レナードは国に帰ったって聞いて、他には誰も、その……」
婚約者がいる男性に対し、頼れる人が居なかったのとは言いづらくて口ごもると、レナードが嘆息し空を仰ぐ。
「リリーサだろう。王宮に戻った途端、お前が悪く言われていて胸が悪かったぞ。……あの女。相も変わらず陰険な仕打ちを」
「王宮に戻ったっ、て? いつ? 魔王討伐が終わって聖王国に帰ったから、もう二度と戻って来ないって」
疑問符が湧いて頭の中を埋め尽くす。
「誰がそんなことを言っていたんだ」
よほど心外だったのか、レナードが間髪いれずに問い詰める。
「えっと……。いや」
侍女たちの雑談を盗み聞きしてしまったとは言いづらくて口ごもる。
レナードは、犯人にはさほど興味がなかったのか、ゼラが困った様子を見せるとそれ以上追求せず、事情を説明しだした。
「本国には戻っていた。聖王猊下に任務成功の報告や、他にも調査していたことの結果を伝える必要があったからな」
聖騎士であるレナードは教会に所属している。そのため君主は国王ではなく聖王だ。
勇者のヴェアン王子の魔王討伐が終わり、すぐ父王に報告するように、レナードが聖王に伝えるのは当たり前だろう。
「だが、ほんの三日だけのことだぞ」
己の迂闊さにあんぐりと口を開けていると、レナードは留守番をしていた子どもを褒めるようにして、ゼラの頭を何度も撫でてはにかんだ。
「目覚めた時に側にいてやれなくて、悪かった。……まさかそんなに不安がってくれるとは思わなくて」
ちゅっ、と音をたてて頭頂部にキスされ、ゼラの理解力と羞恥心が限界を迎える。
なにかが変だ。魔物に襲われたことも、聖騎士であるレナードがここにいることも、そして、自分の片思いな筈なのに、彼から恋人のように扱われている状況も!
なにひとつ思い当たることがなく、だけど、触れる感触や声は間違いなく現実という状況に、心と体がついていけず、ぐらぐらと目眩がする。その上、こころなしか身体が赤い。
(そりゃ、好きな人に抱きしめられてるんだから、赤くなるだろうけど、頭痛がするほど恥ずかしいだなんて)
ぼうっとする頭の中で、芯だけがズキズキと激しく疼く。
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