●著:茜たま
●イラスト:なおやみか
●発売元:三交社
●発行元:メディアソフト
●ISBN:978-4-8155-4087-6
●発売日:2022/6/30
僕は……君しか欲しくない
乙女ゲームの世界に転生したミレイユは、性的な事に無知な令嬢達にアドバイスをするうちに、男性経験のないまま�爐佞靴世蚓畩遶瓩髪修気譟�彼女を面白がった王太子テオバルトの閨の教師に指名されてしまう。「愛しているんだ、僕は君だけのために生きていきたい」彼はこの先、ゲームヒロインである令嬢と結ばれる運命。近寄ってはならないと思うも、テオバルトは甘く淫らに彼女を口説いて――!?

「どうも分からないな。そのコウノトリという鳥は、どういう方法で赤ん坊を運んでくるんだい? 背中に乗せるの? 落ちたら危なくないのかな」
「それは、その……嘴にですね、籠やおくるみを挟んで運ぶんだと思います」
「へえ。でもやっぱり、高いところを赤ん坊を連れて飛ぶのは危なっかしいね」
「も、もしくは、お野菜や果物から出てくるという説もあります」
「えっ。でも、鳥は鳥で自分の子供を産むだろう。野菜や果物も種を繋いでいかなくちゃいけない。どうして彼らは、人間の生殖活動にそこまで巻き込まれなくてはいけないのかな」
ベッドサイドに引き寄せた椅子に腰かけて、ミレイユはテオバルトに性教育を説き始めた。
テオバルトは、白い寝間着姿のままベッドに横向きに寝転び、肘枕の姿勢だ。
断固たる決意で始めたはずなのに、無防備な姿で楽しそうにこちらを流し見てくるテオバルトがあまりにも色気過多すぎて、ミレイユは既に息も絶えだえだった。
「ほ、本当に鳥や野菜が運んでくるというわけではないんです!!」
最初に思いついた「お伽噺でけむに巻く」作戦は、早々にして限界を迎える。
「そうなの? ひどいな、頼むよ。僕は君の言うことなら、きっとなんでも信じてしまうんだからさ」
「申し訳ありません……。あの、鳥が運ぶというのは確かに比喩ではありますが、子供というものはですね、男性と女性が深くお互いを慈しんで、愛し合って……その想いが天に届いた相応しい時に、神様が与えてくれるものなのです」
「お互いを愛し合って、か」
ふんわりした論で誤魔化そうとしたのだが、返ってきた声が今までと違うニュアンスをまとっているような気がして、ミレイユは俯いていた顔を上げる。テオバルトは翡翠色の瞳をわずかにすがめて、どこか遠くを見るようにつぶやいた。
「では、そういう相手が見つからなかったとしたら、どうすればいいんだろうね」
その声がなぜか寂しげに聞こえて、ミレイユは、思わず身を乗り出した。
「大丈夫ですよ、出会えます」
テオバルトが、切れ長の瞳をミレイユに向ける。
「殿下は必ず……近いうちに、必ず、運命の相手と出会えます。殿下に預言された『救世の令嬢』です!」
この時点のテオバルトは、まだ主人公に出会っていないはずだ。いくら預言を与えられているとはいえ、自分が本当に「救世の令嬢」と出会えるのかどうか、確信が持てずにいるのかもしれない。
「ご安心ください。とても印象的な出会い方をした殿下と『救世の令嬢』は一目で惹かれ合い、やがてどうしようもなく互いを愛するようになるでしょう」
「印象的な出会い方、ね」
それでもテオバルトは皮肉げに笑う。
「そんなの分かるものなのかな。僕は忙しいし、気付かずに流してしまいそうだ」
「そんなことはありません。世界が止まったように思えるはずです。こう、周りに光が降り注ぐイメージです。キラキラ〜って。すごく素敵ですよ!」
そう。出会った瞬間見つめ合う二人の姿のスチルに、前世のミレイユは心ときめかせたのだ。
そのことを思い出しながら身振り手振りで力説するミレイユをテオバルトは両眉を上げて見つめていたが、やがて楽しそうに笑いだした。
「すごいね。君は占い師の能力もあるのかな。僕に預言を与えた預言者より、ずっと具体的だ」
言われて、ミレイユはハッとする。
前世の記憶を取り戻してから二年。ここがゲームの世界であることは、誰にも話していなかった。弟のリゲルにすらだ。
話したところで信じてもらえるとも思わなかったし、なんとなく話さないに越したことはないように感じたからである。
「申し訳ありません。自分の願望が入ってしまっていたかもしれません」
咳払いをして誤魔化した。
目の前にいるのは、このゲームの最重要人物である。今まで以上に発言には慎重を期す必要があるだろう。
「君は、僕が『救世の令嬢』に出会うことを願ってくれているの?」
「当然です。この国で暮らす者は、貴族も平民もすべからく、『救世の令嬢』の降臨を祈っております。もちろん彼女と殿下が幸せになることも」
ちょっとかしこまって言うと、テオバルトはつまらなそうな表情を浮かべた。
「なるほど。それじゃあ僕は、間違いなく彼女を見つけ出さないとね。それが僕の生まれた理由なんだからさ」
テオバルト・エーベルヴァインらしからぬ、どこか投げやりな口調だ。
「そんなわけないじゃないですか」
子供のような拗ねた表情が新鮮で、ミレイユは思わず微笑んだ。
「テオバルト様が見つけるから、その相手が特別なんです。テオバルト・エーベルヴァインが愛した相手だからこそ、みんなが『救世の令嬢』だと納得するんです。そこをはき違えてはいけません」
手の甲に、冷たいものが触れた。
視線を落とすと、熱弁を振るいつつ身を乗り出して、思わずベッドの端に乗せてしまっていた自分の右手の甲の上に、テオバルトの手が重なっている。
いつの間にか身を起こしていたテオバルトの顔がすぐ近くにある、と思った瞬間には反対側の手で腰を引き寄せられ、まるで魔法のようにミレイユの身体は広いベッドに上げられていた。
「僕が愛した相手だから? 元から決まっている相手を愛さなくてはいけない使命が、僕にあるわけじゃなくて?」
「え、は、はい……。そんなの当たり前じゃないですか。えっ。どうしてそんなこと思うんですか?」
思わず聞き返してしまったミレイユを瞳に映して、テオバルトはゆっくりと一度瞬きをすると、勢いよく俯いてしまった。
(え、なに……? どうしちゃたの……?)
恐るおそる様子を窺っていると、テオバルトは不意に顔を上げた。
「それじゃあ、愛する相手を慈しむための方法を、君に教えてもらおうかな」
前髪同士が触れ合いそうなほどに、顔が近い。
浮かべる笑みはとろけるほどに甘く優しいのに、腰を抱き寄せる腕の力はしなるように強く、ミレイユの体など簡単に両手の中に捉えてしまい、逃げるすべすら与えない。
「なっ……お、お待ち、ください……殿下っ……きゃあっ……!?」
ぱくり。
経験したことのない刺激が前触れなく走り、ミレイユは肩をキュッと竦める。
自分の右耳の上半分を、テオバルトが口にふくんでいる。
「ああ、ごめん。なんだかとても真っ赤になっていて、すごく可愛かったから」
「〜〜!! だ、だめですよそんな! 殿下たるもの、なんでも口に入れたりしたらいけません!! 毒見係もいないのに!!」
「毒見係って」
目を丸くしたテオバルトが、肩を震わせて笑う。
「君は面白いね。女性たちに的確で刺激的な指導をする『ふしだら令嬢』として名を馳せて、まるでこの世界を見透かした術師のようなことを言い、かと思いきや、そんなに可愛らしい表情を見せる」
再び彼が顔を上げた、と思った時には、ミレイユの身体は柔らかなベッドの上に押し倒されていた。
「本当の君は、どんな女の子なんだろう。すごく興味があるな」
さっきとは違った刺激が、より心臓に近いところにぴりっと走る。
見下ろして、本当に心臓が止まるかと思った。テオバルトの手が、ミレイユの胸の上に乗せられているのだ。
「胸元が窮屈そうだと、さっきから気になっていた。明日からは、僕が選んだ服を着るといい」
さもそれが必然であるかのように、前身頃のボタンを上から外していってしまう。
「おま、お待ちください!!」
「身体が強張っているね。緊張していたら気持ちよくならないと教えてくれたのは君だろう。どうしたら君の緊張をほぐせるのかな」
ボタンがへそのあたりまで外されて、服の前がくつろげられる。
混乱しながら見上げると、身体の両脇に腕を突いて見下ろしてくるテオバルトと視線がぶつかった。
髪がこぼれて、端正な顔に影を作っている。やけに赤い舌の先が、薄い唇をわずかに舐めた。
(――色気で人を殺すことができる生き物……)
あまりのことに硬直したミレイユを見下ろしたまま、テオバルトはくくっと肩を震わせる。
「そんな死にそうな顔しないで。あれだけ性知識を披露していた、頼もしい『ふしだら令嬢』はどこに行ったの」
その単語に、ミレイユは我に返った。
大変なことが起きようとしている。
このままでは、主人公の登場を待たずして、この世界は十八禁一直線だ。
「きみすく」はスマートフォン専用のアプリゲームだった。過度な性的表現は、プラットフォーム規定に違反したとみなされて強制排除……バンされてしまう!!
「殿下、いけません!!」
ほとんど悲鳴のような声を、ミレイユは発した。
「どうして? ――君が、本当に『ふしだら令嬢』なんだとしたら、これくらい平気なんじゃないの?」
何かを見透かすように見下ろしてくるテオバルトを、ミレイユは必死で息を整えながら見返した。
落ち着くのだ。なんとしても、主人公が登場する前にこの世界が強制終了になるようなことだけは避けねばならない。
「そ、そうです。私はふしだら令嬢で……殿下もご存じの通り、たくさんの男性と、その……体の関係を持っております。だから、不用意に触れてはなりません。殿下が穢れてしまいます!」
「――へえ」
ぴくり、とテオバルトの片眉が上がる。
つ、と胸の上を何かが滑るような感触がした。恐るおそる視線を落とすと、胸元は既に下着がずり上げられて露わになってしまっている。ふるりと揺れた白い胸の先に、テオバルトが綺麗な指先を当てているのが見えた。
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